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鈴蘭の花言葉8

蒼汰と鳳が公園に着き、美空と寿がブーゲンビリアで小熊と対峙している頃。小陰は親友の月と大型モールにショッピングに出かけ。月がトイレに行っている間、小陰は休憩コーナーでさっき購入したカフェオレを飲みながら蒼汰の事を考えていた。


(おにーちゃん上手くやってるかな?)


「ねぇ君」


誰かがカフェオレを飲んでいる小陰に声をかける。


「君一人?俺とこれから遊ばない?」


(はぁ…これで今日何人目なの…)


「…友達と来てますので」


「そうなの?それじゃこっちも友達呼ぶから人数あわせっ…イタタタっ!」


トイレから戻ってきた月が小陰に声をかけている男の右手を後で捻じる。


「なんだ!?何すんだ!?」


「どっか行けよおっさん」


「おっさん!?俺はまだ」

「どっか行けって!!」


月の迫力に圧倒された男はその場から立ち去る。


「大丈夫か小陰?」


心配そうにそう言ってくる月に小陰は抱きつく。


「えっ、なに?」


「やっぱり月はカッコいいな。…私…月みたいなカッコいい人が理想かも」


嬉しそうに抱きついてくる小陰の頭をポンっと軽く叩く月。


(おにーちゃんもこれくらいカッコよければな…)


カッコいい姿の兄を思い描く小陰。しかし、実際の兄はというと……


「本当にすみませんでしたっ!」


怒りの表情でベンチに座る鳳に周囲からの視線を気にせず蒼汰は土下座をして謝っていた。


「デリカシーのない発言をした俺を許して下さいっ!!」


怒りで気になっていなかったが、周りからの視線に気付いた鳳は慌てる。


「も、もういい。…ど、土下座を…や、やめてくれ」


「…許してくれるのか?」


「も、もういい…か、から」


(良かったぁー。…やっぱり土下座ってすげー効力あるな)


おでこと地面を接吻させるのになんの躊躇いもない事に気付いてないが、この先のデートを気まずいまま過ごさなくて良くなった事に安堵する蒼汰。


そして、そんな安い土下座をなんの躊躇いもなく行うこの男のどこを好きになったのか真剣に考える鳳。


(…いっときの気の迷いかな…)


鳳が話しを出来る異性が蒼汰だけなので、バフがかかって蒼汰が時折カッコよく見える気がしてきた鳳。


(…やっぱり勘違いか…)


隣に座ってヘラヘラと笑う蒼汰の横顔を見ても何も胸はトキメかず、疑心が確信に変わろうとしかけていた。


「この後…どうする?」


(私に聞くのか)「お、お前が…き、決めろ」


「えぇ〜…」


(なんだその顔は)「お、男がリ、リードするも、もんだろ」


「そんな事…言われてもなぁ…」


蒼汰の発言や態度に段々と怒りを募らせていた鳳。ついに我慢の限界を超えた。


「鳳が決めてよ」


「……も、もういい」


「え?」


鳳はベンチから立ち上がると鞄の紐を両手で強く握り締めて蒼汰を睨みつける。


「…なんだよ?」


「…も、もういい!わ、私はか、帰るっ!」


そう蒼汰に叫び、鳳は蒼汰の前から足早に立ち去って行く。


そんな鳳を蒼汰は追いかけようともせず。ベンチに座ったまま遠くなってゆく鳳の背中を見ていた。


「…なんなんだよアイツ。…あーぁ…でもこれで自由になれたな」


解放感に満ちた表情で蒼汰は大きく背伸びをした。


一方。鳳は足取りを強くしながら怒りを露わにして公園を出ようとしていた。


(何なんだアイツ。何であんなヤツなんか…)


蒼汰とこれまで過ごしてきた日々を思い出すが。思い出す蒼汰の姿はどれもこれも情けなく男らしさの欠片もない姿ばかりだった。


フッと立ち止まり、後を振り返る鳳。


(…追いかけても来ないのか)


落胆の表情に変わった鳳は足取り弱くまた歩き出す。


(…何で…何であんなヤツなんか…)


鳳の目から涙が零れそうになった時。鳳の前に男が三人現れる。


(…な、なんだ…)


「なぁ君。さっき彼氏と別れたでしょ?」


無遠慮に男の一人がそう言いながら三人は笑って近づいてくる。


「さっき見てたよ。あの彼氏…人目も気にせず土下座って(笑)カッコ悪すぎでしょ(笑)」


「ホントそれな(笑)無様すぎ(笑)」


「男として情けなさすぎ(笑)」


「あんな男のどこに惚れたの?(笑)」


「あ、罰ゲームとか?(笑)」


三人は蒼汰をバカにしながら高笑いをする。


それを見た鳳は体の奥底から怒りが込み上げてきて震え出し。鞄の紐が千切れそうになるくらい強く両手で握り締める。


「あれ?震えてるの?大丈夫だよ。俺らが君を慰めてあげるから。どこ行きたい?」


「…るな」


「え?なに?」


俯いて震えていた鳳は顔を上げて叫ぶ。


「そ、蒼汰をお前らがバカにするなっ!!!」


鳳の突然の怒鳴り声に少し驚いた三人。


「あ、アイツはバカでアホで、い、いつも意味が分からない言動や行動をするし、な、情けなさの塊みたいな男だけど…お、お前らみたいなのが簡単にバカにしていい人間じゃないっ!…そ、蒼汰にあ、謝れっ!」


鳳が思い返す蒼汰の姿はいつもバカでアホで、情けなく泣いたり落ち込んだりする姿ばかりで男達の言う通りだったが。蒼汰の事を何も知らないこの男達に蒼汰をバカにされる事が鳳には許せなかった。


「そ、蒼汰を…蒼汰をバカにしていいのは私だけだっ!…な、情けないと言えばお、お前達の方じゃないか」


「あぁ?」


「さ、三人で集まらないないと、こ、声もかけれない…な、情けないや、やつらだ」


「なんだとぉ!?」


鳳の言葉にキレた三人は鳳に詰め寄り。それにヤバいと感じた鳳はいつも鞄に入れている防犯ブザーを取り出そうとしたが、今日は持ってくるのを忘れていた。


(あっ…)


男の一人の手が伸びてきて鳳は目を瞑る。


(た、助けて!!!!)


そう心で叫んだ鳳は誰かに引き寄せられる。


(な…なんだ?)


恐る恐る目を開けると…そこには自分を抱きしめて守ろうとしている蒼汰がいた。


「…そ、蒼汰…」


「なんだお前?…あ?お前…さっきの…」


蒼汰は鳳を自分の後ろに隠すと叫ぶ。


「お前ら鳳に何やってんだぁぁー!!!」


蒼汰の声は響き渡ったが、渾身の怒鳴り声に男達三人は怯むことはなかった。


「はぁ?なんだてめぇー」

「うるせーなクソガキが」

「俺らとやんのか?」


戦闘態勢に入った三人は蒼汰に不適な笑みを見せながら近づいてくる。そんな三人に蒼汰も不適な笑みを見せてポケットに手を入れた。


「なんだ?ナイフでも出すのか?」


「ナイフ?違うね…これだよっ!」


蒼汰がポケットから取り出したのは今朝、小陰から無理矢理に持たされた防犯ブザーだった。


「…何だそれ?」


「これは防犯ブザーと言ってな。その名の通り…防犯のブザーだ!」


「…何言ってだお前?」


呆れた顔で蒼汰を見る三人。


「…ますますイライラしてくるなお前!」


飛びかかろうとしてくる三人に蒼汰は叫ぶ。


「待てっ!」


蒼汰の声に反応して三人は飛びかかろうとするのを止めた。


「…いいのか?これを鳴らして?…これを鳴らすと人が飛んでくるぞ?…ましてや今日は休日…警察官も近くにいるはずだ」


「だから何だ?…人が来る前にお前をボコせばいい話しだ」


「捕まるぞ?」


「ただの喧嘩で済む話しだ」


「本当にそうかな?…お前らみたいなチンピラの本当の話しと、俺らのようなモブの大袈裟に盛った作り話し…どっちを人は信じると思う?」


そう言いながら蒼汰は不適な笑みを見せ、三人は少し怯んだ。


「か、関係ねーよ!」


「…えっ?…」


最後のセリフで怯んで三人は逃げる予定だったのにまだ向かってこようとする姿に蒼汰は思わず声が出てしまった。


「やっちまおうぜ!」


三人に背を向けて蒼汰は鳳を突き飛ばす。


「逃げろ鳳!」


「お、お前はど、どうするんだ!?」


「…俺の事は気するな」


そう言って蒼汰は笑った。


「ここで鳳が傷つくような事があったら一生俺は後悔して生きて行く事になる…そんなの俺はイヤだ。…お前だけでも逃げろ!鳳!全力で走れっ!」


蒼汰はそう言うと振り返って向かってくる三人と対峙した。鳳は蒼汰にいわれた通り全力で走り出す。


「なっ!?鳳!?」


鳳が全力で向かった先は蒼汰のもとだった。


「何してんだ!?逆だ逆!!」

「わ、私だって!」


蒼汰に抱きつきながら鳳は叫ぶ。


「私だって、ここで蒼汰を置き去りしたら一生後悔するっ!そんなのイヤだっ!」


「鳳…」


すぐそこまで迫る三人から鳳だけでも守ろうと鳳を抱きしめて目を瞑る蒼汰。


その時、近くにいた警察官が騒ぎに気付いて蒼汰達に走って向かってきていて、警察官に気付いた三人は全力で走って逃げて行く。


「大丈夫、君達?あ、こらっ!待てっ!」


警察官は三人を追いかけて行ったが。難を逃れた事に気付いていない二人は力強く抱きしめたままでいる。


(…あれ?…何も起きないな?)


恐る恐る目を開けて周りを確認するが三人の姿は見当たらず、震えながら必死に抱きつく鳳とその鳳を抱きしめている自分しかこの場に居ない事を蒼汰は認識するのに少し時間がかかった。


「…もう大丈夫だ鳳」


蒼汰の声に反応して鳳は目をゆっくり開ける。目を開けて上を見上げると…笑っている蒼汰の顔が目に飛びこんできた。


「もう大丈夫だ鳳。大丈夫だ」


蒼汰の優しい声と笑顔に鳳の目から自然と涙が溢れてきた。


「大丈夫だって。…泣くなよ鳳」


鳳は恐怖から解放されて涙を流しているのではなかった。


鳳はどうして蒼汰を好きになったのか思い出して涙を流していた。


(…お前はいつもそうだな…いつも…)


いつもバカでアホで、情けななく泣いたり落ち込んだりすぐするけど…大事な時にはいつも私を助けてくれる。いつも傍にいてくれる。


いつも…その優しい笑顔で。いつも…その優しい声で。


いつも私を笑顔にしてくれる。


私は私でいいんだと。そう自然と教えてくれる。


蒼汰のそんな作ってない優しさを…私は好きになったんだ。


鳳の目から涙は止まらず、蒼汰はアタフタとしている。そんな姿を見ている鳳に笑顔が戻ってきた。


「ど、どうしよ!?どうすれば!?」


「お、おいっ…いつまで抱きしめてるつもりだ?」


「あっ!?ご、ごめん鳳」


「…ふふっ…そ、蒼汰」


「ん?」


「す…好きだ」



真っ直ぐに蒼汰の目を見つめながら鳳は蒼汰に想いを伝える。


そして、その時、美空と寿がその場に駆けつけた。


「…え?」


「…私は…蒼汰が…好きだ」


蒼汰と鳳は見つめ合ったままだ。

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