鈴蘭の花言葉7
「ちょっと!一口の量が多いわよ!バカなの?」
「早く食べないと見失ってしまいますわ!さぁ、口を開けて!」
「そんな量、口に入るわけないでしょ!」
ハーフイケメンと女優風の美女に変装していた美空と寿は、蒼汰と鳳が店を出たあと小声で言い争いを始める。
店を出た蒼汰と鳳はまだ手を繋いだまま歩いていた。
「…おいっ…い、いつまで」
「ちょっと待て…」
蒼汰は後をチラっと見る。
(…まだ見てるよ…)
店の中から客と店員が蒼汰と鳳をガン見していて、まだ手を離せない状況にあった二人。
(手汗やっべぇ…キモいとか思われてないかな?)
そう思いつつ鳳を見てみると…顔を真っ赤にしながら鳳は右手で鞄の紐を強く握り締め、左手は蒼汰に身を任せていた。
店から少し歩いて曲がり角を曲がって店から自分達が見えなくなると蒼汰はパッと鳳の手を離す。
「あっ…」
「もう大丈夫だろ。…いやぁ~、最悪な店だったなあそこ」
蒼汰は恋人役から解放された解放感を味わって大きく背伸びをした。
「…悪かったな鳳。変な店選んで」
「……だ、大丈夫だ…」
左手を気にしながら蒼汰にそう答えて左手をギュッと強く握る鳳の姿を見て蒼汰は震えだす。
(やっ…やっべぇ…かなり怒ってるぞ鳳…)
今直ぐにでも汗ばんだ手で自分の手を掴んでいた自分に仕返しの左ストレートが飛んでくる予感がした蒼汰はとっさに両手でガードを固めて腰を低くする。
「…な、なに…し、してるんだ?お、お前?」
「なに←って……ガードを固めてる」
「…い、意味がわ、分からないぞ」
「…殴らないの?」
「な、なぜだ?」
「いや…まぁ…いつもの流れならそうなるのかと…」
「…わ、私は…そ、そんな…ぼ、暴力的じゃな、ない」
「…まぁ確かにそうだな」
そう言うと蒼汰はガードを解く。
「…暴力的ではないけど…暴言はよく吐くよな」
「う、うるさいっ!…だ、駄犬…」
「ほらっ!」
人通りの少ない道の隅っこで蒼汰と鳳は言い合いを始める。傍から見れば恋人同士の痴話喧嘩に見えるが、これは列記とした口喧嘩である。
口喧嘩をしている蒼汰と鳳だったが。どこかに置き忘れていた懐かしい感覚に襲われてきた。
「お前はいつもそうだ!すぐ俺を悪者にする!」
「わ、悪者にしてるんじゃな、ない!ほ、本当に悪いんだろ!」
その言葉を最後に二人りから言葉は消え。自然と笑いが込み上げてきて同時に笑い出す。
「「…ふっ…ふふっ…はははっ!」」
笑い合いながら、何で今まで話しをしなかったのか。互いに互いを避けていたのか。そんな事になった原因さえも忘れて二人は笑い合う。
(…鳳のこの笑顔…見るのは二回目だな……んっ!?)
腹を抱えて笑っている鳳の後方で何かを見つけた蒼汰はいきなり鳳を抱きしめる。
「はははっはっ!?…な、なんだ!?」
いきなり蒼汰に抱きしめられた鳳は慌てる。
「なっ…なにして!」
「しっ!…黙ってろ鳳。……お前の後から熊がこっちを見てる」
「く、熊?」
「…さっきの店のオーナーだ…」
曲がり角から覗いて蒼汰と鳳を見ているのはブーゲンビリアのオーナー小熊花太郎だった。
(あの二人…本当にカップルかどうか怪しかったが…ちゃんとカップルだな。うんうん)
蒼汰と鳳を怪しんで跡をつけてきたが、自分の勘違いだったと確信した小熊。その時、小熊のスマホに店から電話がくる。
「どうした?」
「すいませんオーナー!あの例のカップルが喧嘩を始めて!」
「あのカップルか…分かったすぐ戻る」
電話を切ると小熊は店へと急いで向かう。
(…ふぅぅ…やっと消えたか熊め)
小熊の姿が見えなくなった事に安堵している蒼汰に鳳が口を開く。
「…お、おい…ま、まだか?」
「ん?あっ!?」
鳳から抱きしめていた両腕を急いで離して蒼汰はすぐに両手を合わせて鳳に謝る。
「ごめんごめん!」
「べ、別に…い、いい」
「いやぁ~助かったよ鳳。バレてたら今月の小遣いが無くなるところでしたよ」
鳳は両手で鞄の紐を強く握り締めながら下を向いてモジモジしていて何も言葉を返してこなかった。
いつも右の目は髪で隠れて左目だけ出ていて、表情が少し分かりにくい鳳だったが。この時の鳳の表情がどんな事を物語ってるのか俺には分かっていた。
(この表情は…トイレに行きたいようだな)
「つ…次は…ど、どこに行く?」
「……公園にでも行くか?」
俺は珍しく鳳に気を使って公園へ向かう事にした。
一方その頃。ブーゲンビリアの店内では。
「やっぱりあんたら…偽りのカップルだったんだな」
美空と寿はブーゲンビリアのバックヤードで小熊に正座させられながら説教をされていた。その様子を従業員も隠れて見ている。
「なんでこんな事したんだ?」
「…それは…その…」
美空は小熊に何と説明すればいいか分からず困った表情をしていたが、美空とは対照的に寿が口を開く。
「私達には大事な使命があってこの格好で潜入してたんですわ」
「大事な使命?」
「ええ」
小熊は考える。この二人がリスクを背負いながらでも遂行しようとしていた大事な使命とやらを。
(大事な使命…今日あった出来事といえば…はっ!?)
今日、この店で起きた出来事を思い返していた小熊は何かを察する。
「…そういう事か」
「ええ。分かってくれましたか大熊さん」
「俺は小熊だ。…なるほどな…あんたら二人…あの付き合いたてのカップルの友達だな?」
「そ、そうよ」
美空がそう小熊に答えると、小熊は強面の顔を美空と寿に近づける。
(ちょっ…こわっ)
暫しの沈黙の後、小熊はニヤッと笑みを見せて口を開く。
「…あんたら…あの男の元カノだろ?」
「……は?」
小熊からの思いもしない言葉に美空は真顔で答える。
「そうかそうか!…友達と元カレが付き合いだして心配で様子を見にきたんだな」
「ちがっ…」
「そうじゃありません大熊さんっ!」
美空の言葉を遮って寿が立ち上がる。
「私は『元カノ』ではありませんっ!私は蒼汰様の『妻』ですわ!」
寿の言葉に驚きを隠せない小熊と両手で頭を抱えて苦悩な表情を浮かべる美空。
(もうこのバカっ!何で話しをややこしくてするの…)
嘘をついている様には見えない寿の真剣な眼差しを見て、一旦は自分の中で解決しかけた問題がもっと難題になって戻ってきたことに困惑の表情を隠せない小熊。
(…こいつらは…いったい…何なんだ…あと、俺は小熊な)
ブーゲンビリアのバックヤードが混沌とした状況になっている事を知る由もない蒼汰と鳳は無事に公園へと辿り着く。
「よしっ。(トイレに)行ってこい鳳」
「…?…どこにだ?」
「ん?…トイレじゃないのか?」
「なっ!?」
「あれ?違った?…だってさっきモジモジしてたから」
自分の導き出した答えが違っていた事を不思議に思っている蒼汰は「あれ?」といった表情で首を傾げる。
そんなデリカシーの欠片も持ち合わせていない蒼汰を鳳は呆れた顔で見ていた。
(…何で私はこんなヤツを…好きになったんだろう…)
休日の公園は家族連れで賑わっている。




