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鈴蘭の花言葉6

街中ですれ違う人々が俺と鳳を見てくる。


『素敵なカップ』という目で俺らを見ているのではなく。全ての人が『…何の行進?』と思って俺らを見てくる。


「ひ、鳳。あ、安心しろ…お、俺がついてる」


「そ、そ、そうい、言うなら…ちゃ、ちゃんとしろ」


「お、お前こそ」


蒼汰と鳳は一列に並んで足をブルブルさせながらゆっくりと前に行進をしている。


美空にハメられ。『仲直り大作成』という名目のイベントが発生したが。モブぼっちと最近までエリートぼっちだった二人をケミストリーさせると…こうなるのか。


生まれたての仔鹿のように足をブルブルさせながらゆっくりと前に進む二人。


「こ、これから…ど、どうするんだ?」


「俺が知るか。とりあえず逸れない様に俺の服掴んどけ」


「…うん」


鳳は蒼汰との距離を縮めて蒼汰のシャツの後を左手で掴む。掴んだシャツから蒼汰が震えている事が伝わってきて。斜めにかけている小さな鞄の紐を鳳は右手でギュっと握り締める。


(何か逃げ込める場所はないのか?)


辺りをキョロキョロと見渡すと喫茶店からカップルが出てくるのを目にした蒼汰。


(もうここでいい!とりあえず店の中に入ろう!)


「鳳!」

「はっ、はい!」

「あそこの喫茶店に入るぞ!」


喫茶店までにすれ違うであろう人達の歩くスピードやどのルートでやってくるかをぼっち脳で正確に計算して最適解を導き出した蒼汰は、常人の目では見る事の出来ない矢印のルートを目に映し出し。その矢印に沿って喫茶店までの最短ルートを進んだ。


「いらっしゃいませー」


店員に案内されて席に着くと「ふぅー…」と大きく息を吐いて椅子に深く腰かける。鳳も同じ様な行動をとったが、何かにハッと気付くと両手を両ももに乗せてモジモジしながら下を向いた。


「…どうした?」


「……ま、周り…み、見てみろ」


(周り?…はっ!?…こ、これは!?)


周りを見渡してみるとあっちこっちの席でカップルがイチャイチャしていて。全ての席からハートが飛んでいた。


(なっ…なんだこの店は!?)


メニュー表にある店の名前を確認すると『ブーゲンビリア』と書かれた店名の下に『※カップル限定の店』と書かれていた。


(さっ…最悪だぁぁぁ…)


何も考えずに自分達の今の状況には最悪な環境の店を選んでしまった事を蒼汰は後悔している。


「…と、とりあえず…何か頼むか」


鳳は俺に言葉は返さず、下を向いたまま頷いて答えた。


「俺は…コーラかな。…鳳は?」


「わ、私も…お、同じ物で…」


「ケーキは?チーズケーキが人気みたいだぞ?」


「…じゃあ…そ、それも」


「オッケー。す、すいませーん」


ちょうど店員が近くを通り。俺の小さな呼びかけに気付いてくれた。


「ご注文はお決まりですか?」


「えっと…コーラ二つとあと、チーズケーキを一つ」


「かしこまりました。少々お待ち下さい」


店員が去ると無言が俺らに訪れる。その空気に耐えられなくなった俺はトイレへと逃げた。


トイレの鏡に映る自分は…何とも情けない顔をしている。


(…これじゃダメだな。しっかりしないと)


顔を強く両手で叩いて席に戻ると。注文していたコーラを店員が運んできているところだった。


「ごゆっくりどうぞ」


店員と入れ違いで席に戻った俺はテーブルに置いてあるコーラを見て目を見開いて驚く。


(なっ…なんじゃぁこりゃぁ!?)


ハート型のグラス一つにハート型になっているストローが一本刺さっていて。上に少し伸びているストローの飲み口はこれでもかってくらい近い距離にあった。


(こ、こ、こんなので飲めるかっ!)


鳳も同じ事を思っているらしく。下を向いて顔を赤くしながらモジモジしている。すると今度はチーズケーキが運ばれてきて、店員は俺の方にチーズケーキを置いた。


「あ、あの…チーズケーキはあっちなんですが…」

「当店では相手に食べさせてもらうスタイルになっております」


(なっ…なんじゃぁそのスタイルわぁ!?)


どこをどうやって踏み抜いたらそんな発想が生まれるのか。この店のオーナーが見てみたいと思ったが。そんな事より…今はまずこの状況をどうにかしなくては。


「…ふ、普通に飲み食べするよな鳳?」


鳳はスッとメニュー表の一部を指で指す。


「ん?…なになに…カップルと嘘をついた人達の料金は…5倍とさせてもらいます!?」


衝撃的な内容に声を荒げてしまった蒼汰。


「お客様どうされましたか?」


蒼汰の声に反応して低くて渋い声の男の店員が声をかけた。


「あっ、いえ何でも…」


現れたのはそれはそれはゴッツい店員さんで。一瞬、熊かと思った程だった。


「なっ…何でもないです!」

「そうですか」


その店員のネームをチラっと見ると、名前の左上に『オーナー』と書かれているのに気付いた蒼汰。


(オーナー!?この人が!?)


「ごゆっくりどうぞ」


熊はのっそのっそと巣へと戻っていき。残された俺と鳳の方は冬眠した熊のようにピクリとも動けずに凍りついていた。


「ど…どうするんだ?」


「ど…どうする?←って…5倍も料金払いたくないし…逆らったらヤバそうだし……やるしかねぇな…」


「な、なにをだ?」


「…鳳」

「な、なんだ?」


「………俺達は今から恋人だ」

「なっ、何を言っているお前!?」


「仕方ないだろ。…今の状況を乗り越えるには…この方法しかない」


「……し、しかし…」

「俺は覚悟を決めたぞ鳳。…お前も…覚悟を決めろ」


蒼汰はチーズケーキをフォークで一口サイズすくうと鳳に向けて差し出す。


「やっ…わ、私は…」

「俺の小遣いの運命と俺の命の運命はお前にかかってるんだ鳳!さぁ…口を開けろ」


近づくフォークに鳳は心臓の鼓動を速くし、顔を真っ赤にしながら小さな口を震わせながらゆっくり開ける。


蒼汰の差し出す震えるフォークを口に入れると鳳はチーズケーキをパクっと口にする。


「……お、美味しい…」


恥ずかしそうに鳳は下を向いてそう呟く。


「…も、もう一回だ!」


蒼汰も顔を真っ赤にしながらもう一度チーズケーキを一口サイズにすくって鳳に差し出す。


そんな蒼汰と鳳を周りの先輩カップル達は『自分達にもこんな時期あったなぁ』と懐かしむ表情で見ていた。


厨房から蒼汰達の席は見える位置にあり。店員同士が蒼汰と鳳の初々しいカップルの姿を見て盛り上がっていた。


「ねぇねぇ!あそこのカップル付き合いたてじゃない?」


「私もそう思う!彼女、ちっさくてかわいぃー!」


「彼氏の方は…あんまりパッとしないわね」


「付き合ってどれくらいかな?」


「コラッ。お前らサボるな」


「あっ、オーナーオーナー!あそこのカップル付き合ってどれくらいだと思います!?」


オーナーは蒼汰と鳳をじっと見る。


(俺が今までどれだけの数のカップルを見てきたと思ってるんだ。こんなの朝飯前だ)


「…付き合って…一ヶ月と数日ってとこだな」

「キャ~!!」


恋人になって1分くらいしか経っていない蒼汰と鳳。二人は顔を真っ赤にしながらコーラを一緒に飲む。

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