鈴蘭の花言葉3
小陰は初登校に胸をワクワクさせながら玄関に向かったのだが。
「ちょっと…おにーちゃん…」
「いいか小陰。『変な奴』がいたらすぐ言うんだぞ」
サバゲーのフル装備状態の蒼汰が玄関で待っていた。
「…『変な奴』はおにーちゃんだよ」
蒼汰は小陰に叱られたが頑なにフル装備を解除しようとしなかった。
「これはお前の為なんだ!」
「私の為を思うならその格好をやめて!」
「ムリっ!」
「…やめないなら…もうおにーちゃんとは一生口聞かない」
「なっ!?」
小陰のその言葉に観念した蒼汰は仕方なく装備を解除し。二人は学校へと向かった。
教室に着くと俺の席の近くで久瀬さんと鳳が会話をしていた。
「あっ、おはよう蒼汰」
「お、おはよう」
蒼汰は二人に挨拶を返すと席に着く。
三年に進級し。クラス変えがあったが蒼汰、美空、鳳、寿の四人はまた同じクラスになり。高校生活最後の一年もどうやら騒がしくなりそうだ。
「久瀬さん。寿はまだ風邪ですか?」
「そうみたい」
「ふ〜ん…」
寿は風邪が長引いていて今日も学校を休んでいる。
(…居ないと居ないで何か静か過ぎて怖いんだよなぁ)
「席に着けぇ…」
力のない声で教室に入ってきたのは俺の叔母さんである綾鷹先生だった。
(日陰ねーさん…変なことしないでくれよ〜)
「…私がお前達の担任の…綾鷹日陰だ。…よろしくな」
日陰が変な事を言い出さないか心配していた蒼汰だったが。日陰はごく普通の学校の先生をこなしていて。蒼汰の取り越し苦労で朝のホームルームは終わりを迎えた。
(ふぅー…やれば出来るじゃん日陰ねーさん)
ホームルームが終わり、賑わう教室を出ようとした日陰はドアの前で立ち止まり蒼汰の方を見る。
「…蒼汰…今日家に行くから…ちゃんと居ろよ」
日陰がそう口にして教室を出て行くと賑わっていた教室は静かになった。
「……そうた?…って誰だ?」
「そんな奴いたか?」
教室では『蒼汰』という名の生徒探しが始まった。しかし、『蒼汰』という人物は見つからず、日陰の独り言だという結論に至って『蒼汰』探しは幕を閉じた。
(バレなかったのは良かったが。…ほんの少し前に自己紹介で名前…言ったんだけどな…)
やはり自分は『モブ』である事を再認識し、ちょっぴり悲しい蒼汰であった。
放課後部室にて。
「そ、蒼汰。あ、綾鷹先生と…ど、どんなか、関係だ?」
パソコンで新しい作品を創っていた俺に鳳が話しかける。
「……綾鷹先生は…俺の叔母さんなんだよ」
「えっ!?そうだったの!?」
化粧を直している久瀬さんが俺の言葉に反応する。
「…そうなんです…ちょっと(いや、かなり)変わった人なんで…あまり教えたくなかったというか…」
「ふ〜ん。そうなんだぁ」
「う、うちのこ、顧問なんだよな?」
「そうだよ」
「い、一度も…み、見たこ、事がないが…」
「そういやそうだな」
「…私ならいるぞ」
「ん!?…久瀬さん、鳳。…今…何か聞こえなかった?」
「え?…何も聞こえなかったけど?鳳ちゃんは?」
「わ、私も…な、なにも」
「いやいや!絶対何か聞こえたって!」
「と、とうとう…み、耳までおか、おかしくなったか」
「いや、絶対何か…」
蒼汰が喋っていると。時計がかけてある壁の下のスペースが「ウィーン」と開いてソファーに寝転がっている日陰が姿を現した。
「えっ!?ひか…綾鷹先生!?」
「な、なんだ!?」
「えっ!?なに!?どうなってるの!?」
突如現れた日陰に驚きを隠せない三人。そんな三人に日陰は欠伸をした後、口を開いた。
「…私は文芸部と弓道部が始まってから…ずっと放課後はここにいたぞ…」
「あ、そうなんだ←で!済ませれるかっ!何してるんですか綾鷹先生!?その謎のスペースはなに!?この部室だけ近未来なの!?」
「…これか…これは…柳生が顧問を引き受けてくれたお礼に作ってくれたんだ。…あいつはいい奴だ」
『柳生』という人物の名前を聞いて妙に納得してしまった俺達だったが…あまりにも突然の出来事にまだ頭の中はパニック状態から抜け出せずにいた。
「…先生。ずっといたって言いました?」
美空は日陰に質問をする。
「…あぁ…いたぞ。…お前と蒼汰がキスした時もな」
日陰の言葉にいち早く反応したのは鳳だった。
「…キ…キス?…ど、どうゆうこと…だ…そ、蒼汰?」
「えっ…いや…えっと…」
何をどうどうやって説明すればいいか俺は分からず。困り果てた挙句に俺は久瀬さんを見た。
(久瀬さん!)
久瀬さんは窓際で「今日もいい天気ねぇ~」と腕組みをして言いながら空を眺めていた。
(久瀬さん!?)
「あっ。今日この後、予定あったんだ。じゃっ!」
(えっ!?絶対ウソじゃんそれ!)
そう言って足早に部室を出て戦線を離脱した美空。戦場に残された蒼汰に鳳は追撃を始める。
「せ、説明しろ…そ、蒼汰」
「説明って…えっと…」
「あっ…今日は職員会議があったな…」
そう言うと日陰は謎のスペースから出て部室を出て行く。
(…あれもウソだな)
二人きりになった部室で鳳は蒼汰に詰め寄る。
「せ、説明…し、しろ!」
「…分かったよ。そんな怖い顔しないでくれ頼むから。…えっと…この前のコンテストの結果発表の後…部室で久瀬さんと二人きりになった時に…」
「どっ、どっちからだ!?」
「どっち!?…まぁ…久瀬さんと言うか…Hibari先生と言うか…」
少し照れながらモジモジしてボソボソと話す俺に鳳は前はよく見せていた表情を現す。
(あっ…これあれだ…)
蒼汰の頭の中でこれからの自分の運命の選択が出る。
①『死ねっ!と言われて殴られる』
②『変態犬っ!と言われて殴られる』
③『警察に通報される』
④『自衛隊を出動させる』
(俺的には…①か②が濃厚かな。…③と④は勘弁)
「………久瀬さんからか…………」
(ん?)
「……そうか……私も帰る……」
言葉を吃らせる事なく流暢にそう呟いた鳳は鞄を持って俺の方を一切見ずに部室を出て行った。
いつもより広く感じる部室に一人残された俺は。いつもの鳳じゃない事に疑問を感じながら部室のドアを見つめている。
「…俺も帰ろう…その前に…」
帰る前に日陰がいた部屋に入ってソファーに寝転がる蒼汰。
「おぉ〜…このソファー寝心地抜群だなぁ」
そう言うと突如部屋の扉が閉まる。
「えっ…」
中から開ける方法を知らない蒼汰は最初は平静を保っていたが徐々に焦りを感じ始める。
「これどうやって中から開けるんだよ!?」
蒼汰のスマホは…鞄の中だ。




