鈴蘭の花言葉2
『何かが生まれる』
人類…いやっ。この世に存在する全てのモノに共通するモノ。それは『誕生』だ。
人はもちろん。動物や植物や虫や全てのモノは『誕生』を経てからしか生まれない。
新しい『誕生』はいつも自分達が気付かないどこかでも常に起こっている。
その『誕生』を見る事が出来ない人。出来る人がいるが…俺の場合は後者だ。
「おにーちゃん朝だ…起きてたの?珍しいぃ」
朝。小陰が俺の部屋を開けて起こしにきたが、珍しくもう起きていた俺を見て驚いた小陰。
「今日は特別な日だからな」
そう俺が言うと。小陰は顔だけ覗かせていたドアからドアを全開にして真新しい鈴蘭高校の制服に身を包んだ姿を見せてきた。
「見て見て。似合う?」
「おぉ〜。いいじゃん」
「感想それだけ?」
「別に中学の制服から高校の制服に変わっただけだろ」
俺はそう言うと振り返って小陰には見えない自分の分身を発動させてこう叫んだ…
「かぁぁわぁいぃーー!!!!!」
何なんだこの可愛さは。可笑しくないか?本当にいつも俺が通う高校の制服か?まさか…小陰だけ特注で世界的に有名なファンションデザイナーに作ってもらった制服か?
「ていうか…可愛すぎるだろ俺の妹わぁぁー!!!」
本当はそんな事を思いながら分身で暴れているなど分かるわけがない小陰は蒼汰の素っ気ない態度にご不満だった。
「何よその反応…」
「ごめんごめん。…すごく似合ってるよ小陰」
真新しい制服に身を包みながら拗ねている小陰の頭を優しく撫でると小陰の表情は一変する。
「へへっ。ありがとう。おにーちゃん」
そう言って少し照れながらまだ幼さが残る笑顔を見せる小陰を見て。蒼汰は生まれた時から今まで小陰と一緒に過ごしてきた日々を一瞬にして振り返る。
「…小陰…大きくなったな」
「おにーちゃん…泣いてるの?」
思わず涙を見せてしまった蒼汰は慌てて涙を拭う。
「なっ、泣いてねーよ」
「嘘(笑)泣いてたでしょ?(笑)」
「泣いてねーって!いいから仕度しろ!」
「ふ〜ん。はーい」
ニヤニヤしながら小陰は部屋を出て行き。俺はベッドに腰かけてまだ少し残っている涙を拭って今までの小陰と過ごした日々を今度はじっくり思い出す。
両親が余り家に居ない家庭に育った俺達は二人で育ってきたと言っても過言ではない。
両親に変わって兄だが父の役も母の役も担って小陰の世話をしてきた。……(今では立場が逆転して俺が世話してもらってるが)
産婦人科で初めて小陰を抱っこした時。生命の中で一番かわいい血を分けた自分の妹の小さな小さな手を握りながら俺は。
(絶対に何があっても小陰だけは守ってみせる)
そう自分に誓った。
小さい頃は何かあるとすぐに泣く小陰を抱っこし。泣き止んで笑うまで変顔をしたな。…(今は俺の方がすぐに泣くが)
少し成長すると俺の家事を手伝ってくれ始め。そのうち家事を全部引き受けてくれて。文句一つ言わないで今も家事を全てこなしてくれる小陰。…(そんなに俺の家事はダメだったか?)
「……そんな小陰も……もう高校生か……」
成長し、俺より立派に育ち、俺より頼りになり、俺の助けなんか必要としない小陰だったが。今でもあの時の誓いを俺は忘れていない。
どんなに強い人が相手でも。どんなに追い込まれた状況でも。どんな困難が訪れても。
「俺は小陰だけは絶対に守ってみせる。命に変えても」
「何一人で言ってるのおにーちゃん?」
思い出に集中し過ぎて小陰が部屋に入ってきているのに蒼汰は気付かなかった。
「こっ!?…小陰!?いつからそこに!?」
「新しく創ってるラノベのセリフ?」
「えっ!?…あっ!そうそう!今、創ってる物語のヒーローのセリフ!」
「そうだったんだ。あっ、入学式に遅れちゃう!急いでおにーちゃん!」
時計を見て小陰は慌てて部屋を出て行く。
(ふぅぅ…何とか誤魔化せたな…)
ベッドから立ち上がって机に置いてあるスマホをポケットに突っ込もうと手に取ると。部屋のドアが開いた。
「ん?なんだ小陰ー。俺の部屋に忘れ物か?」
ドアの方を見ると小陰が後で手を組みながら微笑んでいた。
「…ちゃんと私を守ってね。私のおにーちゃん」
そう言うと小陰は恥ずかしそうに部屋を出てドアを閉める。
小陰の余りの可愛さに蒼汰は呼吸するのも忘れていた。
入学式前。部室にて。
「見て!蒼汰!」
「えっ!?なんすかそのカメラ!?」
「小陰ちゃんの為に買っちゃった(笑)」
「マジですか!?(FRIDAYにでも入社したかと思った)」
カメラを自慢する美空。
「…後で写真下さい」
「一枚500円ね(笑)」
「うっ…財布と相談させて下さい」
久瀬さんは「冗談よ(笑)」と言いながら笑った。
あの日…この部室でHibari先生とキスしてから。これからどう接していけばいいか悩んでいた俺だったが…Hibari先生も久瀬さんも。いつもと変わらず接してくれて。あの日あの時のあの行為が幻か嘘か夢だったかのように思えてきた。
「そ、蒼汰…い、妹さん。だ、代表挨拶…す、するんだって?」
「らしいよ」
「さ、さすが…い、妹さん」
「いい加減『小陰』って呼べよ鳳」
「ば、バカか…そ、そんなか、簡単に…な、名前がよ、呼べるか」
「…俺は名前で呼ばれてるけど?」
「い、犬を…な、名前でよ、呼ぶのは…と、当然だろ」
(…その設定まだ生きてたんだ)
三人でお喋りをしていると入学式の時間が迫ってきていて。急いで部室を出て体育館に向かう三人。
「そういや寿は?」
「風邪引いて今日はこられないそうよ」
「風邪かー」
寿がいたら何かと面倒だなと思っていた俺だったのでこのタイミングで風邪を引いた寿には悪いがラッキーだと思った。
(風邪治ったら写真見せてやるか)
桜が舞い散る中で鈴蘭高校の入学式は終始和やかに行われ。新入生代表挨拶で小陰が挨拶をし終えると。体育館は溢れんばかりの拍手で埋め尽くされ。拍手の中に『パシャっ』と音が混じって二階席から聞こえてくる。
一礼をして顔を上げた小陰と俺は目が合った。
(…入学おめでとう。小陰)
「ありがとう。おにーちゃん」
俺には小陰がそう言ってるように見えた。




