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ピンクの薔薇

目を覚ますと自分の部屋のベッドで寝ていた。スマホの時計で時刻を確認するとAM5:20。


どのくらい寝ていたのだろう。少し体に倦怠感を覚えながらベッドから起き上がり窓のカーテンを開けると真っ暗だった。


昨日の記憶がまだ曖昧で薄っすらとしか思い出せないが。窓に映る自分の唇を見て何か重大な事を忘れているような気がしたが思い出せない。


机へ向かい机の上で無造作に散らばっている紙の束を目にして俺は昨日の出来事が一瞬にして蘇ってきた。


「そっか…そうだったな…」


ベッドに寝っ転がりながらスマホを開くとLINEが数件きていた。送り主は久瀬さんと東堂会長と鳳からだった。


東堂操。

『今日は残念な結果に終わったがお前は良くやった。私も胸を張って卒業できるよ。ありがとう風陰』


石川鳳。

『大丈夫か?何が起きた?』


久瀬美空。

『蒼汰、生きてる?』


その中で俺はまず最初に鳳に返信した。


『おめでとう鳳』


次に東堂会長。


『期待に応えられなくてすみません。卒業式にはちゃんと出席しますので』


最後に久瀬さんにLINEを返信しようとしたが…なんて返信すればいいのか分からなかった。だから俺は久瀬さんからの通知画面はタップせずに既読を付けないでスマホを閉じる。


スマホを投げて仰向けになって天井を眺めているとスマホからLINEの通知音がしたのでLINEを開くと送り主は寿からだった。


『おはようございます蒼汰様。昨日の事でじっくりお話ししたい件がありますので時間がある時に』


寿のLINEには既読は付けたが返信せずベッドに入った。そして数分後、俺はLINEを開いて返信した。


『生きてますよ』


次の日。

どんな顔で久瀬さんに会えばいいか分からなかったので俺は教室へ向かわず体育館に向かった。


体育館の無駄に重たい扉を開けると誰かがいた。


(先生か?)


扉が開く音に気付いたその人は振り返って。振り返った人物は東堂元会長だった。


「会長!?」


「…風陰か?どうした?式はまだだぞ」


「あっ…いや…その…」


「…まぁいい。こっちにきて少し話しをしないか?」


そう言うと東堂会長は近くにあるパイプ椅子に腰かけ。俺は無駄に重たい体育館の扉を閉めて東堂会長のもとへ向かって隣のパイプ椅子に腰かける。


「何してるんだ風陰は?」


「俺は…会長こそここで何を?」


「私か?…今日で高校生活も最後だからな。色んな場所を巡っていたのさ」


「…そうだったんですね」


「三年かぁ…あっという間だったな…」


東堂会長は遠くを見つめながらそう呟く。


「三年前の入学式。新入生代表挨拶をしたのがついこの間のようだ」


「やっぱり会長、頭良かったんですね」


「ん?別に良くないぞ。ただ勉強が人より出来ただけだ」


「それを世間一般的には『頭が良い』って言うんですよ」


「ははっ。そうだな…私は頭が良い」


「そういえば聞いてませんでしたけど。卒業後は進学ですか?」


「あぁ」


「そっかぁ…華の大学生ですね」


「そうだな。…また一年生に逆戻りだがな」


俺と東堂会長は同時に笑い出した。


「まさかお前とこんなに話す仲になるとは思っていなかったよ」


「それは俺のセリフですよ」


「最初はただの変態かと思っていたが。話せば話すほど、関われば関わるほど、知れば知るほど…風陰蒼汰という人間の魅力に惹かれていく。…不思議な男だよお前は」


「いやっ…そんな立派な人間じゃないですよ俺は」


「それは分かってる。安心しろ」


俺と東堂会長はまた同時に笑った。


「東堂会長って…俺のこと好きなんですか?」


「そんな訳ないだろ。調子に乗るなよ」


「あっ…す、すみません」


「…好きなのは確かだが…『LOVE』じゃない。『LIKE』だな」


「あっ、ですよね」


「お前を好きになる事は一生ない」


「来世もですか?」


「来世もだ」


「それは…残念ですね」


「お前は私が好きなのか?」


「好きですよ」


「意外な答えだな。…『LOVE』か?」


「…『LIKE』ですね」


「だよな」


「『LOVE』だったらどうしました?」


「1秒でフルな」


「ですよねー」


「…私達はお互い『LOVE』になる事はないだろ」


「そうですね」


「逆に嫌いになる事もないのかもな」


「なんか…不思議な関係性が生まれましたね(笑)」


「あぁ(笑)確かに不思議だな(笑)」


お互いの笑う声が二人だけの体育館に響き。響いた笑い声が静まると静寂が訪れた。


「…風陰」


「はいっ」


「私は…」


そう切りだした東堂会長は一度言葉を呑み込んだ。


「…私は…卒業したくない…」


そう言うと東堂会長は涙を流した。


「…この学校を卒業したくない。…明日も明後日も来年も再来年も…ずっとこの鈴蘭にいたい…」


「会長…」


涙は流しているが泣き声は出さない東堂会長。流した涙が頰をつたって下に落ちる。


「何で卒業しなくてはならないんだ」


「そういう決まりだからですよ」


「三年間なんて…あっという間すぎないか」


「俺には長いくらいですけど」


「…悔いは残さないようにと三年間してきたつもりだが。…今、思い返すと悔いばかりが残っている」


頰をつたって下に落ちる涙はどんどん増えていく。


そんな東堂会長の涙を止める方法を俺は知らないし。知っていたとしても止められない。


東堂会長が流す涙の一粒一粒がこの場所で過ごしてきた思い出だから。


東堂会長は思い出を涙という形に変えて自分の高校生活三年間を振り返っている。


その涙の数だけ…思い出があるのだ。


「お前はいいな風陰。あと一年も高校生活が残っているから」


「俺にとっては『まだ』ですけどね」


「あぁーあ…本当に今日で卒業かぁー…」


「卒業おめでとうございます」


「それ今言うのか?」


「式後は会長。多くの人に囲まれてると思いますので。今言っておかないと言いそびれそうなので」


「何だそれ(笑)」


頬に涙を流した痕をつけながら東堂会長は笑顔を見せた。


「風陰」

「はいっ」


「…最後に風陰と話せてよかったよ」


「…俺もです。…もっと早く会長と知り合っておけば良かったと思ってます」


「バカたれ…もっと早く知り合ってたらこんな仲にはなってない」


「…『少しでもタイミングがズレていたら俺達は今も赤の他人だったと思う』」


「…『日が暮れる夕方や。月が照らす夜に。貴方をフッと思い出す瞬間は一生訪れなかったと思う』」


「『あの日あの時の一つ一つの選択があったから』」

「『あの日あの時の一つ一つの決断があったから』」


「「『今ここに…二人は二人で存在している』」」


蒼汰と操はHibariが二番目に描いた作品の最後にで出てくる主人公とヒロインの描写セリフを言い終わった後。暫しの沈黙の後に二人で顔を見合わせて笑い合った。


卒業式後。

操は蒼汰が予想していた通り、多くの人に囲まれながらいつもの生徒会長の姿を見せていた。そんな操に背を向けて蒼汰は歩きだす。


人混みに囲まれながら操は蒼汰の背中を見つけた。


(ありがとう…風陰)


東堂操は抱えきれない程の思い出と共に鈴蘭高校を卒業した。


風が操を通り抜ける。

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