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ピンクのガーベラの花言葉12

生徒会室は嵐の前のような静けさで満ちていた。


東堂元会長が画面をスクロールして最終審査の結果発表のページを見ていると……


「あ…あった…」


そう囁くように言ったのは……鳳だった。


「やったわね!鳳ちゃん!」


そう叫びながら美空は鳳に抱きつく。


鳳は『信じられない』といった表情でパソコンの画面を食い入るように見つめていた。


「く…久瀬さん……わ、私…や、やりましたよっ!」


「私は最初から分かってたけどね(笑)」


祝杯ムードで盛り上がる美空と鳳。それとは対照的にパソコンの画面を見つめ続ける蒼汰。


「……風陰。……残念だったな…」


そう言うと操は大きく息を吐いた後。蒼汰の肩をポンっと叩いた。俺は東堂元会長の手を振り払い。


「…待って下さい会長っ!…見逃してるだけかも!」

「…風陰」


俺は画面をスクロールして戻し。最初の当選作品のタイトルからもう一度確認し始める。


「…見逃してるだけです」

「風陰」

「俺らの作品が当選しない訳ないんです」

「風陰」

「あんなに…あんなに頑張ったのに…落ちるわけないんです!」

「風陰!!」


操の言葉にスクロールする手を止める蒼汰。


「……私達の作品はここの中にはない。……私達は…負けたんだ」


東堂元会長の「負けたんだ」という言葉に俺の中で今まで感じた事ない感情が芽生えてきて。体の奥底から『怒り』でも『悲しみ』でも『憎しみ』でもない感情が溢れてきた。


「…まだです…さ、最後まで…見てみないと…」

「風陰」


東堂元会長が俺の肩を強く掴む。


「……いくら探しても私達の作品はない」


操のその言葉にやっと現実を受け入れた蒼汰の目からは自分の意思とは関係なく涙が溢れ出ていた。


さっきまで祝杯ムードで盛り上がっていた美空と鳳は、蒼汰と操のやり取りを静かに見ていて。鳳は少し涙ぐみながら蒼汰を見つめていた。鳳とは対照的に美空は真顔で蒼汰を見つめている。


「…どうやら私達の負けのようだな。…約束だ。私の叶えてやれる範囲でお前らの願いを叶えてやる」


そう言いながら操は席を立って美空の前へ立つ。


「願いはなんだ?」


「…私の願いは一つよ…蒼汰を返して」


久瀬さんからの思いも寄らない願いに俺は驚いたが…会長は違っていた。


「やはりそうきたか。…まぁ…奪ったつもりは無いけどな。…ほらっ!風陰立て!」


椅子に座りながら下を向いて涙を流している俺を東堂元会長が無理矢理腕を引っ張って立たせる。


「…サヨナラだ…相棒」


俺の耳にだけ入る声で東堂元会長はそう言葉を吐くと。俺の背中を強く叩いて。よろけながら俺は久瀬さんと久しぶりに対面する。


「……」


「…帰るわよ蒼汰」


そう言うと久瀬さんは俺の腕を掴んで引っ張りながら出入口へと向かって歩き出す。


生徒会室を出る直前に見た東堂元会長の表情は…とても穏やかで微笑んでいた。


放課後に残っていた生徒達と何度か廊下ですれ違う場面が起きたが。久瀬さんはその生徒達の視線を気にかける事もせずに俺の腕を引っ張り続けていた。


久瀬さんが目指していた場所は部室で。久しぶりの部室を目にすると俺は久しぶりの部室に懐かしさを感じていた。


部室のドアを開けて中に入る久瀬さんと俺だが。鳳は中へは入らず部室のドアが閉まる。


久瀬さんは俺の腕を離すと俺に背を向けたまま俺と少し距離を空けてから口を開いた。


「…蒼汰。…率直に聞くわ。…負けた感想はどう?」


久瀬さんからのその問に俺は唇をギュっと強く噛み締めてから問に答える。


「……悔しいです……」


「……そうでしょうね」


久瀬さんはまだ俺に背を向けたまま言葉を続ける。


「…私が鳳ちゃんの作品に手を加えたと思ってる?それで負けたと…そう思ってる?」


「…そんな事は微塵も思っていません。…Hibari先生はそんな事はしないと知っています」


美空は蒼汰の言葉を聞くと振り返り…空よりも蒼い空色の目から涙が零れそうなのを我慢している表情をしていた。


「…悔しいわよね。私も知ってるわその悔しさ。…何で私が鳳ちゃんの作品に手を加えてないと思ったの?」


「…Hibari先生はそんな事はしません。…だって…雑誌のインタビューで…『自分の力で勝ち取ったモノにしか価値は生まれない』と言っていましたから。…そんな事を口にする人が…鳳に手を貸すわけがないと俺は最初から分かっていました」


「…そんな昔の私の言葉…よく覚えてるわね。…でも…その言葉は嘘だった。…私はスランプの時に蒼汰に助けを求めた」


「でも…結果的に最後…Hibari先生は自分の力で作品を創りあげました」


「結果的にはそうだけど…幻滅とかしないの?」


「しませんよ。だって俺は……Hibari先生をこの世で一番愛しているから」

「だったらなぜ!」


久瀬さんは俺の両肩を掴む。


「だったらなぜ…私から離れたのよ…」


「……俺は…離れたつもりはありません」


「なっ!?…私より東堂会長を選んだじゃない!」


美空はそう叫ぶと蒼汰を強く突き離す。しかし、蒼汰は美空との間合いをすぐに詰めて。今度は蒼汰が美空の両肩を強く掴む。


「俺がHibari先生を裏切るわけないじゃないですかっ!…俺は自分の才能を試したかっただけです」


「…才能を?」


「そうです。…結果…才能はなかった…『今は』」


「…『今は』?」


「ある人がこう言っていました。…『才能あるね←って言わせた努力を才能と言う』と。…俺はその言葉の意味がやっと今日…分かりました」


蒼汰は美空の両肩から手を離す。


「今日…鳳に負けた時…俺は『悔しい』と心の底から思いました。そう思えたのは…俺の努力が足りなかっただけ。…『才能あるね』と他人に言わせるまで『努力』を続ける事が『才能』なんだと…そのある人は言っていたんです。…だから『今は』なんです。…だから俺はまだまだ描き続けますっ!…何年何十年何百かかっても…俺は諦めないっ!いつか…いつか…Hibari先生と並んで歩けるようになりますっ!」


蒼汰のアツい思いは美空とHibariの胸にしっかりと届いたが…自分が思っていた以上にカッコいいモブの姿に美空は何故か段々と笑いが込み上げてきた。


「…ぷふっ」


「…え?」


「ふっ…ははははっ(笑)」


「えっ…ここ笑うとこですか!?」


「ごめんごめん(笑)…やっぱり蒼汰は蒼汰だわ」


「それは…どういう意味ですか?」


「どんなにカッコよくても…モブはモブよね(笑)」


「ひっ、酷くないですか!?」


「何か…色々と考えてた自分がバカらしくなってきた」


美空は椅子に座ると足組みをして「はぁー…」とため息をつく。


「一つだけ約束して」


「な、内容によりますが…どうぞ」


「私を…Hibariを一生愛すると約束して」


「もちろんですよっ!…一生愛すると約束します!」


美空に少し近づいて蒼汰がそう叫ぶと美空は蒼汰の右手を掴んで自分のもとへ引き寄せた。


(うわっ!……えっ……)


勢いよく引き寄せた蒼汰の唇に美空は自分の唇を重ねた。


美空の唇は少しでも雑に扱うとボロボロに崩れ落ちてしまうほど繊細で柔らかくて暖かった。


「んんんっ!!…く、久瀬さん!?」


「…今のは美空からじゃないわ。…Hibariからのキス。…永遠に愛を誓った者同士はキスするものでしょ?」


「いやっ…なっ…えっ!?…えっ!?」


顔を真っ赤にしてあたふたしている俺とは対照的に久瀬さん…Hibari先生は笑っていた。


「あなたのそういうとこが私は大好きよ蒼汰。…今のも…Hibariからの言葉ね。…私と並んで歩くまでの先行投資と思って」


その言葉を聞いた俺はモブ値の限界を迎え。……その場で倒れた。


「そ、蒼汰ぁー!?」


美空の叫び声を聞いた鳳が部室の中へ飛び込んできて。倒れている蒼汰の姿を発見した。

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