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向日葵が咲く

料理を食べながら久瀬と小陰のトークはどんどん盛り上がりを増し。俺がこの場にいる事を忘れているのではないかと思うほどに話しは盛り上がっていく。


この状況に居づらくないかって?


ふっ。バカを言っちゃいけないよ。俺を誰だと思ってるのさ。


俺は『超』が付くほどのモブぼっちさっ。


こんな相手にされない事くらい、朝めしを通り越して昨日の夜めしも通り越して、昨日の昼めし前さっ。


「…何してるのおにーちゃん?」


意味不明な決めポーズを取っている俺に、小陰が冷たい目でツッコミを入れてきた。…ので、決めポーズをといて席に座る。


「すいません久瀬さん。うちの兄はまだ中2なので…」


「ぜんぜんいいよ。…風陰…面白いし(笑)」


久瀬は両手で口を抑えながら声を殺して笑っていた。


(こいつ…あの屋根の上でのあれを思い出してるな)


「久瀬さんとおにーちゃんはどういうご関係なんですか?」


小陰の質問に、俺と久瀬はピクッと反応した。


(俺と久瀬の関係か…何なんだろう?…友達?ではないし…恋人でもないし…あれ?…俺と久瀬って…ほんとに何なんだ?)


色々なことを頭で考えながらストローでコーラを飲んでいると、久瀬が小陰の質問に答えた。


「私と風陰は友達よ」


「えっ…えぇぇぇ!!」


小陰の声は店中に響き渡った。


「おいっ、小陰。そんな大声出したら店にめ…」

「ホントのホントに兄と友達なんですか!?」


俺の言葉を遮って小陰は久瀬に質問する。


「ホントのホントよ。私達、友達よね?」


テーブルに片肘をついて少し微笑みながら久瀬は俺に言葉を投げた。


「…まぁ…友達かな…(一応)」


その言葉を聞いて小陰は泣き出し。両手で涙を拭いながら口を開いた。


「よかった…おにーちゃんと友達になってくれる人がいて…」


「小陰…」


今までを思えば小陰の涙も納得できる。


自分とは正反対の友達がいない俺を小陰はどれだけ気にかけて心配してきたことか。家で友達を作る特訓をしたり。家で友達を作る作戦を2人で考えたり。近所の子どもを紹介してくれたり(これはさすがにどうかと思ったが)。


たくさんの心配と苦労をかけてごめんな小陰。


俺は小陰の頭をそっと撫でた。


「ホントに良かった…」


「小陰ちゃん。本当に風陰が好きなのね」


泣き続ける小陰を久瀬は優しい顔で見守っていた。


「…だっておにーちゃん…」


(ん?)


「口を開けばやれ『あのヒロイン』が『あのシーンが』とか。ラノベの話ししかしないし」


(うっ…)


「外では陰キャぼっちのクセに、家の中だけ態度デカくなってウザいし」


(うっ…うっ…)


「もう高校2年だっていうのに、まだ中2を卒業してないし」


(うっ…うっ…うっ…)


「それから…」

「小陰ちゃん小陰ちゃん!もう止めてあげて!風陰…また瀕死になってる…」


「えっ…」


小陰は蒼汰に目をやると、イスにもたれかかり灰となっている姿の蒼汰を見て慌てて蒼汰を揺らした。


「ご…ごめんおにーちゃん!死なないで!」


小陰に揺らされながら蒼汰は反省していた。


(まさか小陰がそんな事を思っていたとは…ごめんよ小陰…おにーちゃん…これから色々と気をつけるから…)


「ふふっ」


俺と小陰を見て久瀬は笑った。


「風陰と小陰ちゃん。本当にいい兄妹ね」


久瀬の笑顔は人を笑顔にする笑顔だ。


久瀬が笑っている姿を見ていると、何だかこっちまで不思議と笑顔になってくる。


「なぜ笑顔になる?」と聞かれても理由は分からない。


彼女が笑うと、向日葵が一面を埋めつくすように周りも笑って見えてくる。


久瀬美空は美しく棘がある『薔薇』のイメージがあるが。久瀬美空を花に例えるなら間違いなく『向日葵』だ。


小陰は残っている涙を拭い、店員を呼んだ。


「すいませーん!」


「はい。なんでしょうか?」


「この店、赤飯ってありますか?」


「バカお前。こんなお洒落なレストランに赤飯なんて」

「はいっ、ありますよ」


(えっ……マジ!?)


「それじゃあ、赤飯を3人前お願いします」


「かしこまりました。少々お待ち下さい」


一礼をして店員はテーブルを去って行く。


(あっ…そういえば…)


小陰がら送られてきた店のURLから店の情報ページにとび、お店の『セールスポイント』の欄を確認すると、『大体なんでもある』と書かれていた。


「大体なんでもあるって…ま、さすがにケバブとかはないだろうな(笑)」


「ありますよ?ご注文しますか?」


たまたまテーブルの横を通りかかった店員が俺の言葉に反応した。


「…あ、いや…大丈夫です…はいっ…」


「そうですか。ごゆっくりどうぞ」


その店員と入れ違いで赤飯が運ばれてきた。


「それでは、おにーちゃんの友達が出来た記念日を祝して…カンパーイ!」


「カンパーイ!」

「か、カンパーイ…」


世界は広いとはいえ、世界中のどこを探しても赤飯で乾杯する人達などこのテーブルに集いし3人しかいないだろうな。


「久瀬さん。兄って学校ではどんな感じですか?」


「おいっ小陰。それ聞くのやめろよ」


「学校での風陰?そうねぇ…面白くて、いいヤツかな」


そう言うと久瀬は俺に微笑む。


(面白くて、いいヤツって…今日、初めて話したばかりだろ)


でも、妹の前で兄としての尊厳を守ってくれた久瀬様に心から。


(ありがとうございます)


「そうなんですね。友達の久瀬さんが言うなら…信じます」


「私は、家での風陰の事をもっと知りたいなぁー」


「えっ、いいですよ!おにーちゃんはですね家では…」


「おいっ!やめろ小陰!」


「なぁに?私と久瀬さんの話に入ってこないでよねー」


「お、いいのかそんな事を言って?」


「なによぉ?」


「あの事…バラしちゃうぞー」


「えっ?なになに?教えて風陰!」


「小陰な、実は去年まで…」

「あぁぁ!ダメダメ!それは言わないって約束でしょ!」


「そんな約束はしてませーん」


俺と小陰は言い争いを始め、久瀬の存在を忘れて言い争っていたが、久瀬は静かに俺らの兄妹喧嘩を見ていた。


「ねぇ~久瀬さん。このバカ兄をどうにかして下さい…」


「え…あ、ごめーん。今の聞いてなかった。……なんかさ、風陰と小陰ちゃん見てると、兄妹モノも描いてみたくなったなぁ…今度は兄妹モノ描いてみよっかなぁ」



久瀬はレモンティーをストローで飲み始める前にサラッとそう言ってレモンティーを飲み始めた。


「えっ…描くって…なにを?絵とか?」


「私は絵は得意じゃないよ(笑)私が得意なのはこっち」


そう言うと久瀬は右手でペンを持ったフリをして何かを描く真似を見せた。


「…小説とか描くの?」


「うん。描くよ」


「ラノベとか?」


「私は基本ラノベしか描かないね」


「……ペンネーム教えてもらっていい?」


「ペンネームは『Hibari』」


「ローマ字で?」

 

「うん。ローマ字で」


(…いや…いやいやいや、ありえない。たまたま同じペンネームだったんだな。うん、そうだ。…一応…聞いてみるか)


「えっと…そのペンネームにした理由…は?」


「理由?えっとねぇ…名前の『美空』と言えば『美空ひばり』でしょ?その『ひばり』をローマ字にしただけ。安直すぎたかな?(笑)」


俺は机を叩いて立ち上がった。


「えっ…なに?どうしたの風陰?」


初めて久瀬美空が告白された場面を見た時から今までずっと続いていた違和感や疑問や推測が、全て今繋がった。


「ねぇ…なんなの?ちょっと怖いんだけど…」


俺は鞄の中から急いで本を取り出す。


「な、なに…マジで怖いんだけど…」


俺は本を両手で真っ直ぐ差し出し、腰を90度に曲げて叫んだ。


「サイン下さいっ!!!!」



俺の声は店内中に響き渡り、数秒だけ時が止まった。



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