ピンクのガーベラの花言葉7
「この豚野郎ぉぉぉ!!!」
「うわぁぁー!!!」
叫びながらベッドから起き上がると自分の部屋で。ちょうど部屋のドアを開けた小陰が俺の叫び声に驚いていた。
「…ビックリしたぁ〜…どうしたの?」
「……夢か……」
「怖い夢でも見たの?」
「…小陰…俺…生きててよがっだぁ〜」
昨日の夜。
何とか操の家から脱出できた蒼汰だったが鞄を持っていない事に気付いて恐る恐る操の家に戻ると、店の扉の前に操が鞄を持って立っていた。
操は蒼汰に気付き鞄を無言で手渡すと店の中へと入って行く。
小陰のLINEに気付いた蒼汰は小陰に電話しながら家までの帰り道を教えてもらって無事に家に帰る事ができたのだ。
昼休みの部室。
疲れきっていた俺はテーブルにうなだれていた。
「そ、蒼汰…ど、どうしたんだ?」
「………鳳は死にかけた事ある?」
「な、何だと、突然。…ま、また、何か…や、やらかしたのか?」
「……本当に死にかけても…死んだじーちゃんとばーちゃんは出てこないぞ」
「………そ、そうか」
鳳は蒼汰の身に何が起きたのか気になったが。それ以上に蒼汰の言っている事を理解するのが面倒くさくなったので会話を終わらせた。
「蒼汰様。お茶をどうぞ」
「寿。ありがと」
「昨日は大変でしたね蒼汰様」
「…えっ?」
「ご無事で何よりです」
そう言うと寿は「ふふっ」と右手で口を隠しながら笑って去って行く。
(……何で知ってるんだアイツ?…深く考えるのはやめとこう)
何故か昨日の夜の出来事を知ってる風な寿に疑問を抱いた蒼汰だったが。何故知っているのか聞く勇気が出なくて、疑問を抱く事をやめた。
またテーブルにうなだれると部室のドアが開いて美空が部室に入ってきた。
「二人とも。調子はどう?」
「じゅ、順調です…わ、私は」
「さっすが鳳ちゃん。…蒼汰は?」
「まぁまぁです」
テーブルにうなだれながら蒼汰は美空に返答した。
「まぁまぁか…。まっ、そういう時もあるわよね」
蒼汰の隣に美空は座ってお弁当を食べ始める。
「…俺、描ききれますかね…?」
不安そうな声で蒼汰がそう口にすると。美空は玉子焼きを口に運んでいた手を止めた。
「不安なの?」
「…不安というか…描ききれる自信がないです…」
「ん〜…自信がないかぁ…」
美空は玉子焼きを食べ。何か考える表情を見せる。
「そうねぇ…自信は一度描ききらないと付かないかもね」
「…なら一生…俺には自信は付きませんね」
「何で?」
「…分からないです。けど、そう思えて仕方ないんです…」
「ふ〜ん…」
久瀬さんはそれ以上、俺に何も言わずに黙々と弁当を食べ進め。食べ終えると鳳の作品に目を通し始める。
鳳の頑張っている姿を見ていると自分の情けなさがどんどんと大きくなってきた俺は部室を出て教室へと向かった。
(…こんなんでコンテスト間に合うのかよ…)
そう思いながら階段を上がっていると下から声をかけられる。
「風陰」
「ん?…か、会長」
「今日の放課後、生徒会室に来い」
そう言うと東堂会長は去って行く。
「……えっ…えっ…なに?…」
いきなり操に呼び出された蒼汰はなぜ呼び出されたのか予測する事が出来ず。午後の授業は何も頭に入ってこなかった。
放課後。生徒会室の前。
(こ、こぇー…)
恐る恐るノックをすると中から東堂会長の「入れ」という声が聞こえてきたので俺は恐る恐るドアを開けて中に入る。
「し、失礼しま〜す」
東堂会長は会長椅子に俺に背を向けて座っていた。
「あ…あのぉ…俺に…何のご用ですか?」
椅子を回転させて会長は机に両肘をついて両手を合わせた。
「昨日の件で呼んだのだが」
「…昨日?と、言いますと?」
「昨日お前が言っていただろ?」
「…『殺される』ですか?」
「まぁ…それもそうなんだが。アレだアレ」
「…あれ?」
昨日の記憶(あまり思い出したくないが)で覚えている事といえば会長のおと…父親に本気で殺されそうになった事しか覚えてないな。
時折ビクつきながら思い出そうとしている俺に痺れを切らした東堂会長が口を開いた。
「昨日『一緒に作品を作ってくれ』と言っていたじゃないか」
「…あっ…そういや…」
大きな包丁を持った殺人未遂者に追いかけまわされる記憶が強すぎて俺はその事をすっかりスッポリ忘れていた。
「いいぞ。お前に協力してやる」
「えっ…え!?…本当ですか会長!?」
「あぁ。本当だ」
暗くて先が見えない道に操の言葉で一筋の光が差し込んできて少し先が微かにだが見えてきた蒼汰の表情はいつもの蒼汰に戻っていた。
「よしっ!これでコンテストはどうにかなりそうだっ!ありがとうございます会長っ!」
「気にするな。ただし。私が協力するからには妥協は一切許さないぞ。もしもそういう態度をとったら…ぶん殴るからな」
(えっ、えぇ〜…ぶん殴るって…バイオレンス過ぎない?)
「それでも…貴様は私に協力を求めるか?」
蒼汰は一瞬躊躇ったが。覚悟を決めて操の目を見る。
「それでも俺は…会長に(ぶん殴られるのは嫌だが)協力して欲しいですっ!お願いしますっ!!」
勢いよく頭を深く下げてそう叫ぶ蒼汰に操は少しはにかんだ笑顔を向けた。
「よしっ。よく言った。一緒にいい作品を創ろう風陰」
「はいっ!!」
この瞬間。生徒会長とモブぼっちの異色のコンビが誕生した。
その日から蒼汰は頻繁に生徒会室へと向かう様になり。その様子を美空と鳳と寿は怪しんだ目で見ていた。
「ちょっと行ってきまーす!」
そう言うと蒼汰は部室を出て行った。部室に残された三人は蒼汰の最近の行動について疑問を抱いていたが。誰もその話題を出そうとはしなかった。
しかし。痺れを切らした美空がその疑問の扉を開ける。
「…ねぇ。最近の蒼汰…変じゃない?」
「わ、私も。そ、そう思います」
「やっぱりそうよね?…アンタは何か知ってるんじゃないの?」
お茶を煎れている寿に美空がそう尋ねると。寿はお茶を煎れている手を止めた。
「…ため」
「え?なに?」
「蒼汰様の為。蒼汰様の為。蒼汰様の為。蒼汰様の…」
「え!?なに!?」
寿は歯を食いしばり両手の拳を強く握ると美空と鳳に駆け寄る。
「な、何だ、お、お前!?」
「蒼汰様が…蒼汰様が……『俺の為だからストーキングはするな』と仰ったので…私も今、蒼汰様が何をしているのか知らないのです!!!」
そう泣き叫び両手で顔を覆う寿。
(こ、こいつ。ストーキングを認めたな今)
ドン引きしている鳳。
「アンタも知らないとなると…本当に蒼汰は何をしてるの!?」
「知りませんわっ!!!…蒼汰様ぁ〜…」
寿の泣く声が響く部室はまさにカオス状態で、その状況から抜け出す方法はないものか美空は頭をフル回転させる。
「…これはもう…蒼汰の跡をつけるしか方法はないわね」
「く、久瀬さん…そ、それは…い、いいんですか…ね?」
「そうですわっ!私は蒼汰様を裏切る事は出来ませんっ!」
((前から(アンタ)(お前)は蒼汰を裏切ってるだろ))
美空は机を強く両手で叩いて立ち上がった。
「とにかくっ!これは文芸部の部長が何をしてるか探る必要が部員の私達にはあるわっ!…いい?二人とも。…蒼汰の跡を追うわよ!!」
「そうですわ…部長が部員に黙って何かしているのを探るのは当然の事ですわねっ!久瀬さんあなた…たまにはいい事言いますわね」
「『たまに』は余計よ『たまに』は」
結束したのか決裂したのか分からないまま美空と寿は不適な笑いをしながらお互いを見ていた。そんな二人を鳳はこう思いながら見つめている。
(あ、あいつ……部長だったのか……知らなかった)
部室でそんな事が起きている事を知る由もない蒼汰は生徒会室へと向かう。




