ピンクのガーベラの花言葉6
お風呂から上がった小陰は蒼汰からのLINEに気付いた。
「あ、LINEきてる。…えっ…おにーちゃん迷子?」
高校二年生にもなって迷子になるはずがない。と、思った小陰だったが。
「……おにーちゃんだしな……」
自分の兄なら十分にありえる話しだと思い。急いでLINEを返信する小陰。
『おにーちゃん大丈夫?本当に迷子?』
小陰からのLINEが蒼汰のポケットに入ってるスマホに通知された時。蒼汰は操がHibari先生のファンだと発覚してテンションが上がり、小陰からのLINEに気づかなかった。
「会長もHibari先生のファンなんですか!?」
「そ、そうだが。…まさか…お前もか風陰?」
「はいっ!!」
蒼汰は自分の鞄を探してHibariの本を取り出し。操に向けて両手で突き出す。
「俺もHibari先生の大大ファンですっ!!まさか、うちの学校にHibari先生の愛読書が俺以外にいるなんてくぜ…」
「…くぜ??」
テンションが上がった蒼汰は思わず美空の名前を言いかけそうになったが途中で言葉を呑み込んだ。
(あっぶねぇー!思わず久瀬さんの名前出すとこだった)
「……く、くZっっ!!!」
「………それは何だ?」
何とか誤魔化そうと俺は思わずマジンガーを召喚して決めポーズを取ったが。東堂会長は可愛そうな人を見る目で俺を見ていた。
「何なんだそれは?」
「……ロケットパンチ見ますか?」
「…私が…人が理解できる言葉で話せ」
(ですよねぇ〜)
変な空気にはなったが。勢いで美空の名前を出すのを止めた自分を褒めたいと蒼汰は思っていた。
「…えっと…会長はHibari先生のどこが好きですか!?」
変な空気にはなったが。蒼汰はHibari愛をゴリ押しして操に質問をした。
「えっ…どこって…ストーリーも描写とかも好きだし」
「分かります!!」
「登場するキャラの一人一人にちゃんと個性があって」
「そうですそうです!!」
「あと。Gojira先生のイラストも私は好きだな」
「さすが会長!分かってますね!」
蒼汰と操のHibariトークは盛り上がる。
少年の様にキラキラと目を輝かせながらHibariのどこが好きかを話す自分の話しを聞く蒼汰に操は少し心を許し始める。
蒼汰もそうだが操もこんな身近に自分と同じHibariの愛読書がいた事に驚いていた。初めてHibariについて語り合える同士に思わぬ形で出逢えた事に蒼汰と操の距離は一気に縮まる。
その証拠に…今の操の姿は『生徒会長』という肩書を何処かに置いてきたかのように。いつも蒼汰に対する態度ではなく。純粋に自分の好きなモノを理解してくれる『友達』として自然に接していた。
「風陰お前…ちゃんと話してみればいいヤツじゃないか」
「会長こそ。普段は『我こそが生徒会長だ』みたいな感じの女王様タイプで、『偉そうな奴だな』って思っていましたけど。話してみるとめちゃくちゃフレンドリーで話しやすいですね」
「…あぁ?」
(あっ…やっべ…)
「ち、違います違います!ほ、褒めてるんです!」
「ぜんぜん褒められてるようには感じないが?」
「か、会長…その手に持ってるのは…何ですか?」
「これか?これはお父さんが私にくれた『防犯グッズ』の中の一つ『撃退棒』だ」
(防犯グッズって…会長が犯罪犯しそうなんですが…)
素敵な笑みを浮かべながら俺に近寄ってくる東堂会長。
(あっ…これ、マジのヤツだな)
本気な目をしている東堂会長。俺はこの場から逃げようと襖に向かおうとしたが東堂会長が先回りして出入り口を塞がれてしまう。
(ヤバいヤバいヤバいヤバい)
ゆっくりと迫ってくる東堂会長から距離をとろうと後退する俺の足が、開けっ放しだった鞄に当たって、鞄の中から創作中の俺の作品が出てきた。
「ん?何だこれは?」
「あっ!それは!」
東堂会長は散らばっている紙を一枚拾うと目を通し始める。
「か、会長…」
撃退棒を下に下ろして両手で散らばっている紙を集めると。会長はベッドに腰かけて、まだ未完成の作品を読み始めた。
真剣な眼差しで未完成の作品に目を通している東堂会長に俺は声をかける事が出来ず。ただ、会長が読み終えるのを待つしか出来なかった。
「……これは風陰が描いたのか?」
紙に目を通したまま東堂会長が口を開く。
「…そうです」
「文芸部の活動か?」
「えぇ…まぁ…そうですね」
「ふーん。…なかなか面白いじゃないかこれ」
「えっ…ほ、本当ですか!?」
「本当だ。少しHibari先生の作品に似ている部分があるな」
「さすが会長っ!よく分かりましたねっ!」
「まぁな。…ただ」
「ただ?」
東堂会長は「ただ」と言葉にした後。俺の作品で気になった点やもっとこうした方が良かったかも。と、俺の作品について語りだす。
東堂会の言葉は自分で思い描いていたけど形に出来なかった未完成な空白だらけのパズルに、次々と的確な形と色のピースを埋めていき。最後の言葉が埋まると…俺が本当に思い描いていた場面が頭の中で完成した。
「…の方がいいかな。…おい。聞いてるのか風陰?」
あ然とした表情の蒼汰に操がそう尋ねると。蒼汰は操に駆け寄り片膝立ちして、ベッドに腰かけてる操の左手を両手で掴んだ。
「なっ!?いきなりなんっ」
「東堂会長!」
蒼汰は操の目を真剣な表情で真っ直ぐに見つめる。
「俺と…俺と一緒にこの作品を作ってくれませんか?」
「…は?…」
「会長のアドバイスを聞いていたら。頭の中で俺が本当に思い描いていたモノが見えました。会長のその的確なアドバイスをもっと俺に下さい!…そして…俺が創る物語の中の人達を…」
操の手を強く握る蒼汰。
「みさちゃーん」
「一緒に幸せにしていきましょうっ!」
蒼汰が最後の言葉を言う前に操の父が部屋の襖を開ける。操の父は自分が溺愛する娘と、その娘の手を握り片膝立ちしているクソ野郎の光景を見て、クソ野郎の言葉を聞き間違えた。
「お、お父さん!?」
「…い、一生…幸せに…い、生きて…いきましょう?」
「……あのぉ……えっとぉ……」
操の父は凄い勢いで一階へと階段を降りて行き。開けっ放しの襖から一階にいる操の母の声が聞こえてきた。
「あら、アナタ?どうしたんです?そんな大きな包丁を引っ張り出して?何か大きなモノでも捌くんですか?」
もの凄い足音と共に大きな包丁を右手に握り締めた操の父が、息を荒くしながら姿を現した。
「……あっ…あのぉ…」
「てめぇぇ…さっき言ったよなぁぁ」
「ちっ、違うんです!お、お父さんっ!」
「俺をお義父さんと呼ぶんじゃねぇぇ!!明日の炒飯の具はてめぇで決まりだぁぁー!!!」
「まっ、ぎぃやぁぁぁぁぁー!!!」
部屋の中を泣き叫びながら逃げる蒼汰を操の父が鬼の形相で追いかけ回す。
「逃げるなクソ豚野郎ぉぉ!!」
「違うです!!誤解ですお父さーん!!」
「誰がお義父さんだぁぁ!!!」
さっきの真剣な表情から一変して、泣き叫びながら必死に逃げている蒼汰の表情の落差を見て。操は笑いが込み上げてきた。
「…ふふっ。…こんなバカで面白いヤツは初めて見た」
蒼汰のポケットに入っているスマホに返信がない事を心配した小陰からLINEが入る。
『おにーちゃん、生きてるの?』
騒がしい中華料理屋の二階に通行人は足を止めて二階を見上げる。




