ピンクのガーベラの花言葉5.5
地平線の果てまでも続く様な草原のど真ん中で俺は仰向けで空を眺めてた。
透き通るような蒼い空に、時折風が吹いて雲を運んでくる。
時間という概念を忘れ。何も考えずにどこまでも蒼い空を見つめていたら少し遠くの方から俺を呼ぶ声が耳に入ってきた。
「…誰?」
「…………」
その人は何か俺に伝えようとしているが距離があり過ぎて上手く聞き取れなかった。そして、その人は振り返って立ち去ろうとしている。
起き上がって、その誰か分からない人に俺は左手を伸ばして叫ぶ。
「ちょっと…ちょっと待って!」
そこで俺は目が覚めた。
(…夢か……)
夢にしては何か妙に現実的なところがある夢に思えた蒼汰。
夢の中で出てきたあの人が何を言っているのか分からなかったが二つだけ確かに分かった事があった。
その人は女性で。最後に「待ってる」と言っていた。
声は聞こえなかったが。口の動きでそう言っているのがハッキリ分かった。
(誰なんだあの人?…ん?…なんだぁこれ?)
左手に見知らぬ感触がした俺は。その感触を確かめるように数回手を動かして感触を味わう。
(何か…柔らかいな)
「おい、貴様」
「ん?」
声のする方へ目線を向けると東堂会長がいて。俺の左手は東堂会長の左胸を揉んでいた。
「……まだ夢の中かな?」
「そう思うか?」
東堂会長はそう言うと俺の左頬を強く叩く。
「ぶふっ!…痛い…夢じゃない?」
「この…変態め…」
東堂会長は両手で胸を隠し、頰を赤らめながら俺を睨見つける。
「す、すいませんでしたっ!!…ここは…何処ですか?」
「ここは私の部屋だ」
「会長の部屋!?…何で?」
「き、貴様を私が殴ったら…その…気絶して…」
(………あっ)
東堂会長のチャイナ服風の格好を見て全てを俺は思い出した。
「…いきなり殴った事は…悪かったと思っている」
そう言う東堂会長は恥ずかしそうにしていて。普段、学校で見ている『我こそが生徒会長だ』という姿と余りにもかけ離れ過ぎていて、やっぱりまだ夢の中なんじゃないかと少し疑ってしまう。
周りを見渡すと和室に勉強机と本棚とテーブルと。いたってシンプルな部屋だった。
俺の勝手な想像だったが。東堂会長は何処ぞのお嬢様で、大きな屋敷と大きな犬がいて執事が世話をしてくれる。そんな家庭に生まれたんだと思っていた。
「人の部屋をジロジロと勝手に見るなっ!」
「あっ!す、すいませんっ!」
「みさちゃん。お友達は大丈夫?」
部屋の襖が開くと。東堂会長が今より大人に成長したエプロン姿の女性が現れた。
「ひ、人前でその呼び方はしないでって言ってるでしょ!」
「そうだったわね。ごめんなさい。あなた…大丈夫?」
その女性は俺に話しかけてきた。
「あっ…だ、大丈夫です。ご迷惑をおかけしてすいません。えっと…東堂会長のお姉さん?」
俺がそう言うとその女性は嬉しそうに左手を頬にあてながら右手を左右に振る。
「お姉さん←だなんて嬉しいわぁ。私は…操の母です」
「東堂会長のお母さん!?」
(嘘だろ!?どう見ても大学生くらいにしか見えないが…)
はしゃいでいる母親を止めに母親に駆け寄るとまた誰かが部屋に入ってきた。
「唯奈。操。下が少し混んできたから戻ってくれないか?」
現れたの人の良さそうな顔をした人。たぶん、東堂会長のお父さんだと思う。
「あらっ、ごめんなさいあなた。すぐ行きますね」
「すぐ戻りますお父さん。…勝手に人の部屋をあ探るなよ風陰!」
そう言うと東堂会長と母親は部屋を出て行き。東堂会長のお父さんは俺に炒飯と餃子と中華スープがのったおぼんを差し出す。
「えっと…」
「これは操から君にだそうだ」
「えっ!?いいんですか?」
「殴ってしまったお詫びだそうだ」
会長のお父さんは俺の横に座る。
(マジか。会長…あざっす!!!)
「えっと…じゃあ…いただきます!」
腹が減っていた俺は東堂会長のお詫びの中華料理を飛びつくように食べ始める。
「う…美味い…」
「そうだろそうだろ」
会長のお父さんはそう言うと人の良さそうな笑顔を見せる。
小陰が作る炒飯も美味いが。さすが本番と言ったところか。プロが作る炒飯は家庭で出す炒飯とではレベルが桁違いに美味かった。
無我夢中で料理を食べている俺に会長のお父さんが話しかけてきた。
「…君は操とはどんな関係なんだい?」
「お…僕と会長ですか?…そうですね。同じ学校に通う生徒と生徒会長…なだけですね」
「そうかそうか」
そう言うと会長のお父さんは俺に近寄り耳元で。
「その距離をキープしろよクソ野郎。それ以上近づいて親しくなったり。それ以下に離れてみさちゃんを悲しませたりしたら…てめぇを細切れにして炒飯の具にしてやるからな…」
あまりの恐ろしさに料理を食べる手が止まる蒼汰。
「今回はみさちゃんのお願いだから部屋に入るのを許してやるけど…今回だけだ。俺の天使に変な事してみろ。…その時がお前の命日だからなこのクソ野郎のクソったれ」
体の震えと冷や汗が止まらない蒼汰。
「俺は本気だぞ」
恐る恐る会長のお父さんの目を見ると……本気だった。
「分かったか?」
「…わ、わ、分かりましたお父さん」
「俺をお義父さんと呼ぶんじゃねぇ!クソ野…」
「どうしたの?何か大声が聞こえたけど」
襖が開いて東堂会長が現れた。
「いや。何でもないよ操。そろそろ厨房に戻らないとな。ゆっくり食べてなキミ」
そう言うと会長のおと…父親は人の良さそうな笑顔を見せて部屋を出て行った。
ガクガクと震えている俺を東堂会長が不思議そうに見る。
「…どうした?」
「い、いやっ…な、何でもありません」
「変なヤツだな。それ食べたらさっさと帰れよ」
「は、はいっ!(今すぐにでも帰りたい)」
急いで料理を食べ切ろうと食べるペースを上げて食べ始めると。東堂会長は隣に座って少し微笑んだ。
「…美味いか?」
「ふぁい。ふぉいひーでふ(はい。おいしーです)」
「食べ終えてから話せ。…まったく。ほらっ、ここについてるぞ」
そう言うと東堂会長は俺の頬に付いているごはん粒を取ろうとしてきた。…しかし、俺は襖の方から殺気を感じ取り慌てて自分でごはん粒を取った。
「だ、だ、大丈夫です!そのくらい俺でも自分で出来ます!」
「お、おお…そうだな」
襖の方をチラっと見てみると。少し開いてる襖の隙間から鬼が俺を今にも殺しにかかってきそうな目で睨みつけていた。
(あっ…あっぶねぇぇぇー!)
「…ところでお前はこんなところで何をしていたんだ?」
「え?あ、俺っすか?…そういや…何してたっけ…おれ」
「自分が何をしていたのかも忘れたのか?」
「…はい」
少し間を空けて会長は肩を揺らし始め。その揺れは徐々に大きくなっていく。
「ふっ…ふふ…ふっはははは(笑)」
東堂会長は腹を抱えて大声で笑い出した。
「…そんな笑います?」
「いやいや、すまんすまん。…ふふっ…貴様の顔があまりにも面白くてな。…ふふっ…ふふっ…」
口を押さえて幼い少女の様に笑顔を見せる東堂操。
普段、学校では絶対に見せないであろうその姿を脳内メモリーに保存しようとしたが。頭に強い衝撃を受けたせいで上手く脳内メモリーに保存が出来なかった蒼汰。
「あっ、いてっ」
頭痛が少しして顔を操からそらした蒼汰の目に本棚が飛び込んできた。その中によく知っている本があり、蒼汰はその本が何なのかすぐに分かった。
(あれは…Hibari先生の本!?)
本棚の方を見ている蒼汰に気づく操。
「どうした?」
そう操が言うと。急に蒼汰は操の両手を掴んだ。
「なっ!?…何だ!急に?」
「東堂会長もHibari先生のファンなんですか!?」
二人の距離が急劇に縮まる。




