ピンクのガーベラの花言葉5
「…た。…うた…」
(…んん…なんだぁ?)
誰かの声が遠くから徐々にと大きくハッキリと聞こえてきた。
「蒼汰!…起きろっ!蒼汰!」
「うわっ!……ここは…どこ?」
「ここは教室よ。昨日、寝てないの?」
周りを見渡すと教室には久瀬さんの姿しか見当たらなかった。
「…俺…ずっと寝てました?」
「三限目からずっとね。ほらっ」
「三限目から!?」
おそらく状況的に今は放課後なので。俺は三限目から放課後までずっと寝ていたようだ。
「あんまり無理しちゃダメよ。…ま、人のこと言えないけど」
眠い目を擦りながら美空に蒼汰は口を開く。
「やっぱりHibari先生もオールで創作とかするんですね」
「よくある事よそんなの。部活行けそう?」
「大丈夫です。行きましょう」
鞄を手に取って部活へと向かう。部室では鳳がすでに創作活動を行っていて、俺も対面の席に座ってノートパソコンを開く。
部活中。俺と鳳が言葉を交わす事はなかった。
時折、弓道場の方から矢が的に当たる音が微かに耳に入ってきて。寿が弓道場で矢を放っている事が分かった。
自室にて。
「んん〜…この先の展開…どうすれば…」
机でストーリーの展開をどうしようか悩んでいると部屋に小陰が入ってきた。
「どう?進んでる?」
「んん…なかなか進まない…」
「そうなんだ。…大変ね。ラノベを描くって」
ベッドに腰かけてて小陰はそう言う。
「美空さんも毎回そうやって悩んで苦しんで作品を世に出すのよねぇ。怖くないのかなぁ?」
「何が怖い?」
「だってさ…一生懸命描いた作品を全員が全員「面白い」と言うわけじゃないんでしょ?」
「まぁ…そうだな。ハマらない人にはハマらないな…」
「それを覚悟して作品作って作品を出す美空さんって…やっぱり凄いよね?」
「まぁ、向こうはプロだしな。…俺らのなんて作文コンクールの延長みたいなモノだからな」
「でも。そのコンテストで優秀だと思われた作品は出版されるんでしょ?…それも凄いと私は思うけどなー」
そう言って小陰はベッドに横になる。
(…出版かぁ…)
そんな果てしない先の景色なんて俺に見れる訳がなかった。
目先の景色さえあやふやなのに。そんなずっっと先を見ようとする勇気も覚悟も俺にはない。でももし…タイムマシーンがあったら未来に行って自分の結果は知りたいとは思う。
今更ながら。風陰蒼汰という人間(自分)が面倒くさくて自分の事が嫌になってくる。
その夜は何もいいアイディアが出てくる気配がしなかった蒼汰は早々と床についた。
次の日の放課後。
今日はそれぞれ用事があって、用事も予定も無い俺だけ部活に行く気になんてなれずに俺も学校が終わったらすぐ帰宅する事にした。
いつもの通学路を歩きながら頭の中では創作中の作品の事ばかり考えている。
(ん〜…ここで一つ…新キャラ出すってのはどうかな…)
頭で色々と考えながら無意識に歩き続けていた蒼汰がハッと周りを見てみると。いつもの通学路からいつの間にかルートを外していて、知らない街の景色が目に飛び込んできた。
(………ここ………どこ?)
来た道を戻ろうとしたが…まずどっからどう来てここに立っているのかさえ分からないので。来た道を戻る事さえ出来ずにいた蒼汰。
(……まっ、いっか。てきとうに歩いてればそのうち知ってる道に出るだろ)
そう思った蒼汰はまた頭で作品の事を考えながら歩き出した。
(……ぜんぜん知ってる道に出ないのだが?)
少し日が暮れてくるまで歩き続けていた蒼汰だったが。知ってる道になかなか辿り着けずに少し焦りを感じてきた。そして、時間が経つにつれて人が多くなっていくのにも焦りを感じていた。
(……これって……完全に迷子じゃね?)
急いでスマホを取り出して小陰にLINEする蒼汰。
『小陰ー!おにーちゃん迷子になった!助けて!』
風陰家。
蒼汰が小陰にLINEを送った時。小陰はお風呂場の脱衣所で服を脱いでいた。蒼汰の帰りが最近遅いので、早めにお風呂に入って長風呂をするのが日課になっていた。
そんな事を知る由もない高校二年生にもなって迷子になる蒼汰からのLINEが通知された小陰のスマホがリビングのテーブルの上で鳴る。
見知らぬ街中。
(これでよしっと。…後は小陰からの助けを待つだけだな)
少し余裕が出てきた蒼汰だったが…一向に既読が付かないスマホの画面を見ながら再び焦りが出てきた。
(なんで既読付かない!?何してるんだ小陰!?)
慌てた蒼汰は小陰にLINEを再び送る。
『おーい!小陰!』
『何してる!?』
『おにーちゃん迷子なったんだけど!』
蒼汰がいくらLINEを送ったところで。小陰のスマホにLINEが通知されるだけであった。
日は完全に落ち。辺りは暗くなっている。
スマホを片手に持って無の表情で呆然と立っている蒼汰のお腹が「グー」と鳴る。
(……腹減ったな)
スマホをポケットに突っ込んで人混みを避けながら何となく思ったままに蒼汰は歩き出した。
(まぁ…そのうち知ってる道に出るだろう)
迷子になった焦りより食欲の欲求の方が勝った蒼汰は何か食べようと、一人でも入れそうな飲食店を探し始める。
人混みを避けて歩き続けてると人混みが少なくなってきて。パッと目に少し古びた建物の中華料理屋が目に入った。
(…ここなら…一人でも大丈夫そうだな)
知らない街の知らない飲食店に少しドキドキしながら中華料理屋の引き戸を「ガラガラ」と開ける。
店内は客が少ししか居なくて、蒼汰の見立ては正確だった。
「いらっしゃいませー!お一人様…で…しょう…」
迎えてくれた店員と蒼汰は互いに互いを見て…驚いた。
「えっ!?…東堂会長!?」
「なっ…何で貴様がここにいる!?」
俺を迎えてくれた店員はなんと…鈴蘭高校生徒会長の東堂操だった。
「……バイトですか?」
「違うわっ!……ここは……私の家が経営する中華料理屋だ」
俺が知らない街でたまたま入った中華料理屋は…東堂会長のご両親が経営する中華料理屋だった。
(こんな偶然ってあるのか!?…しかし…)
俺はチャイナ服風の格好をした東堂会長に見惚れていた。
普段は堂々として『我こそが生徒会長だ』と言わんばかりの振る舞いを見せる男見のある東堂会長とは正反対な可愛いチャイナ服姿……ありだな。
「貴様ぁ…」
全身を両手で隠しながら顔を赤らめる東堂会長。
「ジロジロとイヤらしい目で私を見やがって…」
(あっ……これアカンやつや……)
「このっ……変態めっ!!」
東堂会長の右パンチが俺の頬にクリーンヒットした俺はその場で回転して倒れた。
『K.O』
(そういや…チャイナ服で屈強な男達と戦う女性いたな…)
そんな事を思いながら蒼汰の頭の中で終了のゴングが鳴り響いた。
一方その頃。風陰家では。
「フンフフン♪」
兄がストリートファイトに負けた事など知らず。湯船の中で鼻唄を歌っている小陰であった。




