ピンクのガーベラの花言葉4
ノートパソコンのキーボードを叩く音が部室内に響いている。
久瀬さんがお兄さんに頼んで持ってきてもらったノートパソコンを借りて俺と鳳はコンテストに出品する作品を創作中だ。
鳳はパソコンに慣れていないのでタイピングはゆっくりだが。確実に創作活動は続いている。それに対して俺はというと…
(…あっかーん…何も出てけーへんわぁー)
思わず関西弁が出てしまうほど何もアイディアが出ずにずっとノートパソコンとにらめっこしているだけだった。
鳳を見てみると。相変わらず描いている場面で表情がコロコロ変わり。今は少し険しい表情をしているのでシリアスな場面なのではと勝手に予測する。
未だに白紙の画面を眺めながら。何も見えない自分の白紙の将来をずっと眺めているような気分になってきて…不安で体がガクガク震えてしまう。
「どうしたの蒼汰?何で震えてるの?」
「あ、いや…そのぉ…何でもないです」
「少しは描けた?」
「……全く描けてません」
「…前に描いたヤツをもう一度、作り直してみるのは?」
久瀬さんのその言葉に鳳が反応する。
「お、お前…か、描いて、い、いた…のか?…む、昔?」
「…まぁ…そんな時期もありました俺にも」
「わ、私に、よ、読ませて、く、くれな、ないか?」
(……何で?)
鳳の言葉がきっかけとなり。何故か俺の家で俺の黒歴史のお披露目会が開催される事になった……普通に嫌なんですが?
「ただいまー」
「お帰りおにーちゃん」
「小陰ちゃん。久しぶりー」
「美空さん!?お久しぶりですね!」
「お、おじゃ、おじゃましま…す」
「いらっしゃい石川さん!」
料理を中断して小陰が久瀬さんと鳳に駆け寄る。
「今日はどうしたんですか?ご飯は食べて帰ります?」
「今日はね。蒼汰が昔に描いたラノベに用があってね。ご飯いいの!?食べる食べる!」
久瀬さんは小陰と話し込み始めたから。俺と鳳は俺の部屋に向かいクローゼットの中から黒歴史ボックスを取り出す。
(く〜ろ〜れきし〜ボッ〜クス〜)
段ボールを開けると鳳は女の子座りをして中身をあさり始める。手に取ったのは小学生の時に描いたラノベだった。
その場でノートを開いて食い入る様に読み始めた鳳。
ベッドに腰かけてネクタイを緩めながら俺の黒歴史を読んでる鳳の背中を見つめていた。
(絶対バカにされるだろうな)
と、思っていたが。鳳は一冊目二冊目と何も言わずにただ読み進めていき。次に中学の時に描いたラノベを手に取り読み始める。
「ご飯出来たよー」
小陰が部屋のドアを開けてそう言ったが静かにするようにのジェスチャーをして。察しがいい我が妹は静かに部屋のドアを閉めて一階へ降りていった。
何時間くらい経ったのか分からないが。鳳はまだ女の子座りをして言葉を一言も発さず。俺の黒歴史を読み続けている。
(…腹減ったなぁぁ)
両手を後に着いて天井を見上げていた時。俺の膝を鳳がトントンと軽く叩いた。
「読み終わったか?」
俺がそう言うのと同時に紙の束を俺に差し出した鳳。
「え?なに?」
「こ、これ…これが…い、一番好き、だ、だった」
差し出された紙の束を受け取る蒼汰。
「ぜ、全部…おも、面白かった…けど。…こ、これがい、一番…つ、続きが…き、気になった。…つ、続き…か、描いて、く、くれ」
受け取った作品を読んでみると。女子に人気がある男子に恋をする地味な女子の学園ラブコメの話しだった。
「…えっこれ!?これが一番気に入ったの!?」
「う、うん…こ、この…女子が…ど、どうなるのかが、き、気になる…」
「あっ…そう」
俺の予測ではこうだった。
①『全ての作品を鼻で笑いながらバカにする』
②『バカにした顔で飲み終えて総括してバカにする』
③『途中で読むのを止めて「死ねっ」と言う』
④『この世に存在してはいけないと。全て燃やす』
俺的には④が希望だったのだが…俺の予測に反して鳳は「全部面白かった」と言ってくれた。…全部は絶対ウソだと思うが。
「た、頼む…蒼汰。つ、続き、か、描いて…く、くれ」
真剣な表情でそう伝えてくる鳳のお願いを断れるわけがない。
「…分かったよ!やってみるよチクショー!」
「ほ、本当かっ!?た、楽しみに、し、してるぞっ!」
子どものように(見た目は子どもだが)嬉しそうに目を輝かせながら喜ぶ鳳を不覚にも少し可愛い(ロリコンではない)と思ってしまった。
「おにーちゃんまだ?」
「私達もう食べちゃったよ?」
ベストなタイミングで部屋に入ってくる我が妹と我がHibari先生。やはり二人は神なのか。
「ご飯食べようぜ鳳」
「う、うん」
「…ちゃんと続き描くから心配すんなって」
「う…うんっ!」
俺と鳳は一階に降りて。小陰が温め直してくれた料理を二人で食べ。鳳が食べ終えると久瀬さんと鳳は帰って行く。
風呂を終えてベッドに横になりながら鳳に続きを描いてくれと言われた作品を読み返す。鳳がこれのどこをどう気に入って続きが知りたいと言ったのか理由は聞かなかったが俺には分かってしまった。
「…これが一番マトモなストーリーだったんだな」
読み終えた俺は机に座って久瀬さんから借りたノートパソコンを開いて白紙だった画面に文字を埋めていく。
「おにーちゃ…まだ…起きてるの…?」
眠そうな目を擦りながら小陰が部屋を覗いてきた。
「小陰もう寝るのか?」
「何言ってるの?…もう夜中の四時よ?」
そう言われて時計を見てみると針が丁度深夜四時を過ぎた頃だった。
「えっ!?マジかっ!?ぜんぜん気づかなかった…」
「何をしてたの?」
「コンテストに出す作品を描いてた」
「コンテスト?文芸部の活動?」
「そう」
「…そうなんだ。頑張ってね」
そう言うと欠伸をしながら小陰は部屋を出て行った。
暫くすると腹が鳴り。一階に降りて何か食える物を探そうと部屋のドアを開けると。部屋の前におにぎりが三個と漬物が添えてあるお皿がラップして置いてあった。
小陰の部屋に向かって少し頭を下げてお皿を手に取り机でおにぎりを食べる。
「…あっ!?」
おにぎりを皿に戻して指に付いた米を舐めてキーボードを叩く。
もうすぐ夜が明ける。




