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薔薇には棘がある3

「ねぇ、答えてよ。この作家のどこが好き?」


久瀬美空はそう問うてきたが俺の頭の中はパニックになっていて、その問にまともに答えられる状態ではなかった。


「…私の声…聞こえてる?」


「こ…」


「こ?」


「こ…こんにちわぁ…」


なんと情けない声と返事と挨拶なんだ…


孤高の女王にそんな態度をとったもんなら。世が世なら死刑は確定だぞ。


「ふっ…ふっははは(笑)なにそれ?(笑)めっちゃウケる(笑)」


久瀬美空の笑う姿を見て俺は思った。


今まで久瀬美空に抱いていた『孤高』『女王』『クール』というイメージが全て勘違いだったと。


こんなに素敵な笑顔を、俺は今まで見たことがなかった。


金髪の髪をかきあげ、腹を抑えながら笑う彼女の姿を玉砕していった男達に見せてやりたい。


「私のどこをどう好きになったの?」の問にいくつでも答えられるだろう。


…まぁしかし…この女…ちょっと笑い過ぎじゃないか?


いくらあんな変な返事をしたからって、ここまで笑われる筋合はない気がしてきた。


「…なぁ。ちょっと笑い過ぎじゃないか?」


「ごめんごめん(笑)…いや、ちょっと待って…ムリだ(笑)」


ダメだこりゃ。今、俺が何を言っても久瀬は笑い出すだろう。仕方ないから、笑いが収まるのを待つか。


数分後。

「あぁ〜…久しぶりにこんなに笑ったぁ…」


笑いが収まった久瀬美空は空色の目から零れる雨を指で拭った。


「…もう大丈夫か?」


「うん。大丈夫。ありがとう風陰」


「えっ!?…俺の名前…知ってるの?」


「同じクラスなんだから当たり前でしょ。風陰、最近、午後の授業いないと思ってたら、こんな所でサボってたのね」


確かに同じクラスなのだが。クラスに俺の名前を知っている人が久瀬の他に何人いるだろうか。担任ですらたまに俺の名前を間違えるのに。


「ねぇ、さっきの質問だけど」


(質問?…あぁ、あれか)


「この作家のどこが好き?」


「えっと…まず、描写の表現が…ぁああ!しまった!」


「えっ…なに?ビックリするじゃない」


久瀬に気を取られて小陰の事をすっかり忘れてた。


LINEの画面を見て見ると…現在進行形で『なにしてるの?』と、間髪入れずにLINEが送られてきていた。


「ごめん久瀬さん!ちょっと待って!」


久瀬に待ってもらい、俺は小陰にLINEを返す。


『なにしてるの?』

『なにしてるの?』

『なにしてるの?』

『すまん!小陰!』

『やっと返事きた。今どこ?』

『まだ学校』

『私、もう店着くけど』

『分かった!すぐ俺も行く!』


「誰と連絡取ってるの?」


「えっと…妹。これから妹とご飯食べに行くもんで」


「へぇー。仲いいんだ妹と」


小陰よ。今日はおにーちゃんのヘソクリで何でも食べさせてやるからな。


小陰のおかげで、『妹とご飯行くから』という大義名分でこの場から堂々と去る事が出来るのだからな。


やっぱりお前は世界一の妹だよ。


「…そうい訳で。妹を待たせてるから俺は帰るわ」


そう言うと俺は本を手に取り、さっさと帰ろうとしたが…


「待って!…私もついて行っていい?」



店の中。

「おにーちゃんおそぉ〜い…」


両肘をテーブルにつきながら、両手で顔を支え、唇を尖らせながらテーブルの下で足をブラブラさせながら小陰はブツブツと独り言を言っていた。


「こ…こなたぁ…おまたせぇ…」


弱々しいか細い老人に近い声で小陰を呼ぶ声が聞こえてきたが、その声の主が蒼汰であることを小陰はすぐに分かった。


「おにーちゃん遅いよっ!…ってどうしたの!?」


小陰が目にした蒼汰は衰弱しきっていて、蒼汰は小陰の姿を見ると安心してその場に倒れてしまった。


「おにーちゃんっ!」

「風陰、大丈夫?」


小陰に仰向けにされた蒼汰は小陰に久瀬を紹介した。


「こなたぁ…こちら…同じクラスの…久瀬さんです…」


「あ、どうも。久瀬です」 


「あ、風陰蒼汰の妹の小陰です…って!そんな事してる場合じゃないでしょ!?何があったのおにーちゃん!?」


「じ…実はな…」


瀕死の蒼汰は小陰にどうやってここまでたどり着いたかを説明し始めた。


学校を出て店に着くまでに大勢の人が久瀬に声をかけてきて、モブぼっちの蒼汰にそれに耐える耐性など持ち合わせておらず耐えきれる事が出来なかった。


しかも、久瀬と一緒に歩いていると否応なしに目立つので、それも蒼汰を瀕死に追いやった原因の1つでもあった。


「それは…大変だったねおにーちゃん…安らかに眠って…」


「妹よ…俺はまだ…死んでないぞ」


小陰の目から一粒の涙が零れ落ち、この兄妹のやり取りを見ていた久瀬は思った。


(面白い兄妹ね)


「え〜…改めまして紹介します。こちら、クラスメイトの久瀬さんです。そして、これが妹の小陰です」


「「あ、どうも」」


コーラを飲んで回復した俺は、改めて小陰に久瀬を、久瀬に小陰を紹介したが、テーブルの雰囲気はやはり重かった。


それもそのはずだ。小陰からして見れば、兄がいきなり女を連れて来たのだからな。それも…誰もが振り返る美人のクラスメイトを。


周りにいる男性客。窓の外を通る男達。男性スタッフ。


誰もが久瀬を見ていた。


重く苦しい雰囲気の中、料理が運ばれてきて、テーブル一面に料理が並ぶと、重苦しい雰囲気はどこかへ飛び去って行った。


「えぇー!何これ!全部、美味しそう!」


「ホントですね!あ、写真撮らなきゃ!」


久瀬と小陰はテーブルに並んでいる写真を撮り。互いに撮った写真を見せ合いながら互いのどの写真が良いかを褒め合っていた。


その光景を黙って見ていた蒼汰は大きく息を吸い、大きく吐くとこう思った。


(なんか…最高の景色じゃね?)


料理の写真をきっかけにすぐ打ち解け合った久瀬と小陰は、料理を食べながら女子トークに華を咲かせていた。


心做しか、このテーブルからマイナスイオン的な何かが出ているようで。他のテーブルにいる人達(主に男性)にも効果があり、店全体に華が咲き誇る幻覚が見えてきた(主に男性)。


「しかしまぁ…(よく喋るなぁこの2人)」


コーラを飲みながら久瀬と小陰が話す姿を、蒼汰は静かにみていた。




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