イースターリリーの花言葉3
それっぽい服を着た蒼汰を美空と小陰は冷たい目で見ていた。
「…あんた何やってるの?」
「おにーちゃん…私…おにーちゃんの妹なのが恥ずかしい…」
「なっ…なぜアジトがバレた!?」
「長官っ!彼女です!彼女が裏切ったのですっ!」
寿が指差す方を見ると。鳳がスマホを片手に美空のもとに駆け寄る。
「おのれ…貴様ぁ〜」
「わ、私がいつ、お、お前らの仲間になると、い、言った?わ私は…い、いつでも、く、久瀬さんと、い、妹さんのみ、味方だ」
美空の後から顔を出して鳳はそう言う。
異次元な状況に戸惑う少年は、スクリーンに映し出されている自分の写真が目に入ってきた。
「あ、あれ?…これは…僕?」
「長官っ!ここは一度引いて体制を立て直してから出直してわ!?」
「そうだな。そうするとしよう…行くぞっ!寿くんっ!」
完全にそれっぽい役になりきっていた蒼汰は部室の窓から逃げようとしたが美空がそれを止める。
「いい加減にしなさぁーいっ!!」
「いってっ!!」
美空に頭を叩かれた蒼汰は正気を取り戻した。
「いてててっ…あれ?…ここは…部室?…って、何で小陰がここにいるんだ?」
「もぉ…本当にバカなんだからっ!おにーちゃんはっ!」
そう叫んだ小陰は恥ずかしさから耳を赤くして両手で顔を覆う。
「か、風陰さん?大丈夫?」
心配そうに優しく小陰に近寄る少年を見て蒼汰は激昂した。
「おいっ!お前ー!小陰に気安く近づくなっ!」
少年に飛びかかろうとしたがマントを足で踏んでしまった蒼汰は地面に顔から倒れ込み。そのまま意識を失った。
蒼汰が目を覚ますと身動きが取れない事に気付いて自分を見てみると。体に紐をグルグルと巻きつけられている事に気付いた。
「なっ!?なんじゃぁこりゃあぁっ!?」
「やっと目を覚ましたのね風陰」
「く、久瀬さん!?どうしてこんな事を!?」
「当たり前でしょ!あんた暴れ出すじゃないのっ!」
怒りの表情で久瀬さんは俺にそう叫ぶ。
周りを見てみると寿の姿は見当たらなかった。
(寿くんは上手く逃げきれたようだな…)
蒼汰はまだ少し役になりきっていた。
「それでおにーちゃん。何でこんなバカな事をしたの?」
「そっ…それは…そいつのせいだっ!」
蒼汰は春風来斗を睨みつける。
「えっ!?僕…ですか?えっと…僕が何かしましたかお兄さん?」
「俺をお兄さんと呼ぶなっ!!」
「ひっ…す、すみません…お兄さん」
「また呼びやがったなっ!!この野郎っ!!」
椅子から立ち上がろうとするが。椅子にも紐を巻きつけられていて立ち上がる事が出来なかった蒼汰。
「はぁ~…ごめんね春風くん。うちのおにーちゃん…本物のバカなの…」
小陰の言葉に美空と鳳が激しく頷く。
「何を勘違いしてるか知らないけど。私と春風くんはそういう関係じゃないからね」
「ほ、本当か!?」
「そうですお兄さん。僕と風陰さんはそういう関係じゃ…」
「お前には聞いてないっ!…あと、お兄さんと呼ぶなっ!」
「ひぇっ…僕……そうとう嫌われてますね…」
後に少し下がって蒼汰との距離を取る春風来斗。そんな春風に美空が声をかける。
「大丈夫よ春風くん。コイツを大人しくさせて尚且つ。春風くんに敵意を向けない方法を知ってるから」
そう言うと久瀬さんは鞄からノートを取り出してサラサラっと何かを描くと。そのノートを春風に渡した。ノートを受け取った春風は久瀬さんが描いた何かを読むと椅子に座ってノートに何かを書き始める。
(ん?何だ何だ?…何をしてるんだコイツは。…はっは〜ん。さては遺書を書いているのか。その潔さは褒めてやろう)
「…これでいいんですか?」
何かを書き終えた春風は久瀬さんにノートを渡した。
そのノートを見た久瀬さんはグルグル巻かれた紐を解いてノートを俺に差し出す。
「はいっ」
「えっと…」
「いいから見て」
ノートを受け取って開くと……何と驚くべきことに……そこにはGojira先生のイラストが描いてあった。
「えっ!?何で!?何でGojira先生の絵が!?」
驚きながらノートを食い入る様に見る俺に久瀬さんが口を開く。
「まだ分からないの?…Gojira先生の正体は春風くんよ」
「…………えぇぇぇーー!!!???」
蒼汰の凄まじい叫び声に春風はビクッとなる。
「そ、そんなバカな…」
「その絵を見ても信じられないの?」
「そっ…それは…」
ノートの絵は確かにGojira先生の絵だった。Hibari&Gojiraの世界一のファンである俺がGojira先生の絵を見間違えるわけがない。
「……じゃあ……このお方は……」
(このお方!?急に!?)
蒼汰は急に立ち上がると急いで自分の鞄へ向かい。鞄の中から本を取り出すと春風に本を差し出して頭を深々と下げた。
「えっ!?な、な、何ですか急に!?」
「数々のご無礼をお許し下さいっ!!それと…コレにサイン下さいっ!!」
「えっ!?あ、…はい…」
蒼汰から本を受け取るとGojira先生はサラサラっとサインと絵を描いて蒼汰に渡した。
「ど…どうぞ」
「ありがとうございますっ!!」
Gojira先生のサインと絵を見て上機嫌になった蒼汰はその場で本を上に向けてその場でクルクルと回りだした。
「やったぁー!あぁ〜何ていい日なんだ今日は〜」
蒼汰の態度が180度変わったことに困惑している春風来斗ことGojira先生は蒼汰を指差して美空と小陰に。
「し、失礼なことを聞きますが…この人…大丈夫なんですか?」
美空と小陰は「はぁ~…」と深くため息をついて。
「「こういう人なの」」
と、同時に春風に答えた。
ルンルン気分で踊っている蒼汰の耳を小陰が強く掴む。
「痛い痛いっ!何するんだ小陰っ!」
「『何するだ』じゃないでしょおにーちゃん!…帰ったらたっぷり説教だからねっ!」
「そっ…そんなぁ…」
蒼汰と小陰のやり取りを見ていた美空と鳳と来斗はなんだか可笑しくなってきて三人とも笑い出した。
「風陰さん。面白いお兄さんですね」
「ただのバカよバカ」
「ほ、本当に…そ、蒼汰はバカだな」
(うんうん。これで一件落着ね……ん?……今、鳳ちゃん…風陰を『蒼汰』って呼ばなかった?)
鳳は蒼汰に近づきバカにした笑顔で蒼汰に言葉を投げる。
「ま、まったく…そ、蒼汰は…せ、世話がかかる、い、犬だな」
「本当に石川さん連絡してくれてありがとうございます」
「いてててっ!」
小陰は蒼汰の耳を引っ張りながら鳳に頭を下げた。
事件?は無事に解決して。皆は部室を出ようとしていたが美空がまだ棒立ちしている事に気付いた蒼汰は部室から出るのを止めて美空のもとへ行く。
「どうしたんですか?久瀬さん?」
「…名前…いつから?」
「名前?」
「鳳ちゃん…風陰の事を『蒼汰』って…」
「あぁ〜…最近ですよ。なんか、いきなり名前で呼べって言ってきたんですよ鳳のヤツが」
「蒼汰も鳳ちゃんの事を名前呼びなの?」
「えっ?…まぁそうですね。…それが何か?」
少し間を空けて久瀬さんはテーブルを両手で強く叩いた。
「うわっ!ビックリしたぁ」
「風陰…私とデートするわよっ!」
(…………デート?………ってなんだっけ?)
「……デザートの間違いですか?」
美空は蒼汰を空色の目で真っ直ぐ見つめる。
「風陰…明後日は予定空けといて」
開けっ放しのドアから冷たい風が入ってくる。




