極楽鳥花の花言葉8
静寂な夜の公園のベンチで見つめ合う蒼汰と美空。
「………それって………つまり…………」
美空の空色の瞳に吸い込まれていた蒼汰は美空の言葉で現実世界に戻ってきた。
「…私のこ」
「あ、『愛してます』と言ったのはHibari先生のことです!」
また二人の間に沈黙が訪れる。
「………そっかぁ」
寂しそうな声でそう美空は呟いた。
「そ、その…俺はHibari先生を愛していますし、世界で一番好きな作家です。この気持ちは死ぬまで変わりません。……あれ?…久瀬さんはHibari先生だからHibari先生は久瀬さんということになるから…俺は久瀬さんが…あれ?ん?どういうことだ?…分かんなくなってきた…えっと…もう一回最初から考えてみるか…」
「ん?」「あれ?」と言いながら頭にクエスチョンマークを大量に付けて考えている蒼汰の姿が段々と可笑しくなってきた美空。
「…ふふっ。……まぁいいわよ」
「んん~…え?何か言いました?」
「別になにもぉ〜」
そう言って立ち上がる美空は蒼汰に背を向けた。
「…今はそれでいいわ」
そう蒼汰に聞こえない小さな声で美空は呟く。
「…寒いから帰ろ?」
振り返って美空は笑顔を見せた。
「ただいま〜」
「遅いよおにーちゃん!!」
リビングを開けると怒った小陰が待っていた。
「ごめんごめん。ちょっと色々あって」
「色々?まぁ…無事におにーちゃんが帰ってきてくれて良かった。すぐ料理温め直すね」
「おー。そうしてくれ」
ソファーにブレザーをかけて制服のままテーブルに座ると。料理を温めな直す小陰が思い出したように口を開いた。
「そういえば。おにーちゃんが留守の間におにーちゃんにお客さんきたよ」
「俺に客?宗教の勧誘とかか?」
(俺に客なんてそんなヤバいヤツしかこねーよ)
「えっとね…柳生さんて人」
小陰が発した名前にネクタイを緩めていた手が止まった。
(もっとヤバいヤツだったぁー!!!!)
俺はテーブルに手をついて立ち上がる。
「それで!?その人は何か言ってたか!?何もされてないか!?」
「え?えっとねぇ…おにーちゃんは留守だって言ったら。『また来ます』って。あと、『可愛い妹さんですね』って言われた。…へへっ」
(それ絶対…妹って言ってるわ…)
「すっごい美人な人だったね。あっ…もしかして…おにーちゃんの彼女?(笑)」
「そんなまさかね(笑)」と顔に出してクスクスと笑う小陰に近づき両肩を俺は掴んだ。
「えっ、なに?」
「アイツはヤバいヤツだから関わるな!」
「え?…そんな風には見えなかったけど」
「アイツは…俺の…ストーカーなんだっ!」
「……『アイツの俺は』の間違い?」
このあと、小陰に今日あった事を説明したが………信じてもらえなかった。………というか。何か知らないが俺が小陰に説教された。
次の日の朝。
「!?!?!?」
キョロキョロと挙動不審に登校している俺を周りの人が変な目で見てくる。
曲がり角まで壁に背中をつけて進み。
(何処だ…何処から俺を狙ってる…そこかっ!)
曲がり角の先を覗いたが…誰もいなかった。
(……考えすぎか…ふ〜)
「おはようございます。蒼汰様」
「ぎぃゃぁぁあああー!!!」
後から急に声をかけられて驚いた俺は大声を出して飛び跳ねた。
「どうかなさいましたか蒼汰様?」
「…や、柳生さん…いつからそこに?」
俺の問に柳生さんは口元を右手で隠して少しニヤけた。
「いつからだと思われます?」
(こ、こ、こぇぇーー!!!)
恐怖で震える俺の左腕に柳生さんは抱きつく。
「そんな事より遅刻しますわよ蒼汰様。行きましょう」
「い、行くけど…離れてくれない?」
「嫌ですわ!…私から離れるというのですか?」
そう口にした柳生さんのスカートのポケットからチラッとカッターのような物が見えた。
「行きましょう」
「はいっ!」
ニコニコと俺の左腕に抱きついて歩く柳生さん。そして、ガクガクと震えながら歩く俺。そんな俺達を一緒に登校していた久瀬さんと石川さんが口をポカーンとしながら見ていた。
(た…助けてぇぇ…)
道行く人が皆、俺と柳生さんに道を開ける。
休み時間の度に俺の席に柳生さんがきて。傍から見れば清掃な黒髪のお嬢様が俺のとこへ向かってる様に見えるが。俺にはダース・ベイダーがライトセーバーを構えて近寄ってくる様にしか見えない。
一人になりたかった俺は四時限目の授業が終わる前にこっそり教室を抜け出した。それに気付いた人は教室内で三人だけだった。
柳生さんから離れたかった事も(それが一番)あるが。俺は他の目的を達する為に一人である場所に向かっていた。
屋上へと続く階段の下に着くと大きなため息をついた蒼汰。
「はぁ~…」
階段を上り屋上に出るドアを開けると一人の女性教師がフェンス前で煙草を吸っていた。
(やっぱりここか)
ドアを閉めて女性教師に近づく蒼汰。
「綾鷹先生。校内は全面禁煙ですよ」
「……おぉ…蒼汰か。久しぶりだなぁ〜」
女性教師は振り返るとそう言って煙草の灰を携帯灰皿に落とす。
「学校では『風陰』って呼んでって言ってるでしょ」
「おぉ…そうだったな…すまない蒼汰」
(ダメだこりゃ)
そう言って煙草の煙を吐くいつも眠そうな顔でぼーっとしている女性の名前は。綾鷹日陰かーさんの妹。つまり、俺の叔母さんだ。
「…私に何か用か?」
「そうだった。綾鷹先生、俺らの顧問になってくれませんか?」
「……蒼汰のお願いは…断らないよ」
そう言って煙草の火を携帯灰皿で消した綾鷹先生。
「本当!?にいいんですか!?」
(…って。まぁ分かっててお願いしたんだけどね)
「じゃっ…そういう事でよろしいお願いします」
そう言って綾鷹先生に背を向けて急いで帰ろうとする俺を綾鷹先生が後から抱きしめた。
「ちょっ!綾鷹先生!」
「……もう少し…ここにいてよ…蒼汰」
「学校で抱きつくなって何回言えば分かるんだ日陰ねーさん!」
日陰の手を振りほどいて蒼汰は屋上を出て行く。蒼汰が屋上から去って行くと煙草に火をつけて煙を吐く日陰。
「……蒼汰…かわいい」
階段を急ぎ足で下りる蒼汰。
「…やっぱりあの人は苦手だなぁ…」
蒼汰は母の妹の日陰が苦手だった。その理由は…日陰は蒼汰の事を宇宙で一番愛しているからだ。
実の叔母さんが甥っ子を一人の男性として見ている事は信じがたいが。綾鷹日陰が風陰蒼汰を愛してるいるのは事実である。
「はぁ~…だからあんまり会いたくないんだよなぁ。…でも、顧問を頼める先生って日陰ねーさんしか俺にはいないからなぁ…」
階段を下りきると久瀬さんからLINEがきた。
『今日の放課後、元弓道部の部室に集合』




