極楽鳥花の花言葉7
夕日がもうすぐ完全に顔を隠そうとしている薄暗い教室で蒼汰は柳生寿に抱きしめられていた。
「や、柳生さんっ!?」
「……ずっっと…ずっっっっと…二人きりになれる時を心待ちにしてしておりました蒼汰様」
「蒼汰様!?」
「…貴方は…私の夫となるお方です」
「夫!?」
いきなり抱きつかれたこと。『様』呼び。『夫』になる。
色んな驚きが蒼汰を駆け巡り、蒼汰は混乱していた。
「ちょっと…一回落ち着こうか柳生さん」
「私のことは寿とお呼び下さい蒼汰様」
「いきなり名前呼びは…てか、お願い!一回離れて!」
「嫌です!もう離れません!」
そう言うと寿は抱きしめる力を強め。何とか離そうとする蒼汰だったがモブぼっちの貧弱男より寿の方が力が強くて離す事が出来なかった。
(いててててっ!…何だこの子!?ゴリラにででも育てられたのか!?)
「蒼汰様…私を『愛してる』と言って下さい」
「え!?…そ、そんな…いきなり言われても…」
(だ、誰か助けてくれぇー!)
その時、教室の外から誰かの声が耳に入ってきた蒼汰。
「あれ?何で鍵が締まってるの!?開かないんだけど!?」
教室のドアは磨りガラスで。誰かがいる事は分かっても、誰なのかは分からなかった。
「だ、大丈夫です久瀬さん。わ、私に、ま、任せて、く、下さい」
(その吃った喋り方は…)
ドアの外から「カチャカチャ」と音がして数秒後。ドアが開いた。
「風陰!」
ドアから現れたのは久瀬さんで。その後にはピッキング道具を両手に持っている石川さんがいた。
「風陰!大丈夫!?……って何してるのよあんた達っ!!」
「久瀬さん!た、助けてぇー!」
美空に手を伸ばしそう助けを求めて叫ぶ蒼汰。その蒼汰に抱きついている寿が後をチラッと振り返る。
「…チっ!…久瀬…美空」
「風陰から離れてっ!」
そう言って美空が寿から蒼汰を引き離すと、蒼汰は美空に泣きながら膝立ちで抱きつく。
「久瀬さ〜ん…怖かったよぉぉ…」
「よしよし。もう大丈夫だから」
美空はそう言うと蒼汰の頭を撫でる。
「か、風陰」
「うっ…うっ…石川しゃん…」
「か、貸一つ…だ、だからな」
そう言うと石川さんはピッキング道具を素早く何処かに収納する。
(石川さん…アナタはルパンの末裔かなにかなの?)
その様子を見ていた寿が下を向き、体を震わせながら床を激しく踏む。
「…あんた…どういうつもり?」
「…久瀬…美空…お前さえ…お前さえ現れなければ…」
顔を上げた寿は激しい怒りの表情で美空を睨みつける。
「…お前さえ現れなければ…蒼汰様は私のモノだったのに!」
「蒼汰…様?」
美空が寿の『様』呼びに反応すると。教室に先生が現れた。
「お前達っ!何をやっとるだ!」
先生の声に反応して寿が振り返る。先生の前に姿を現したのは、穏やかな表情の柳生寿であった。
「申し訳御座いません。少々、込み入った事情がありましたので。お騒がせして申し訳ありません」
そう言って頭を下げる寿の何故か分からない圧に圧されてしまう先生。
「あ、その…込み入った事情なら…仕方ないか。早く帰るように」
「はいっ。ありがとう御座います」
先生は教室から立ち去り。頭を上げた寿が振り返って蒼汰達を見る。
「ここでは邪魔が入りますので場所を変えませんか?」
そう言うと柳生寿は笑った。
柳生さんについて行くと。向かった先は元弓道部の部室だった。
柳生さんは鞄から鍵を取り出して部室の鍵を開けると中に入って行く。中から「どうぞお入り下さい」と声が聞こえてきたので俺達は部室の中へと入って行った。
「えっ…マジか」
「な、中は、こ、こんな感じ、だ、だったの…か」
外から見るとボロくて古い建物だったが。中に入るとちゃんと舗装されていて、思っていた中のイメージと大幅に違った。
「さっ、椅子にお座り下さい。あ、蒼汰様はここに」
「あ、はいぃ…」
部屋の真ん中にテーブルと椅子があり。柳生さんはそこを指差して座るように指示してきた。
俺達は怪しみながらも柳生さんが指示した場所にそれぞれ座って柳生さんはお茶を煎れるとそれぞれの前に湯呑みを置く。
俺の前に湯呑みを置くと隣に座り。椅子をくっつけてきてまた抱きついてきた。
「あっ!?ちょっと柳生さん!?」
「寿と呼んで下さいと何回言わせる気ですか蒼汰様」
俺と柳生さんのやり取りを久瀬さんはプルプル震えながら見ていたが、我慢の限界がきたようで、テーブルを強く叩いて立ち上がった。
「いい加減にしなさい!あんた何なの!?風陰から離れて!風陰も風陰よ!何で抵抗しないのよっ!?」
「だ、だって…」
(『俺より力強いから』とか言いたくねぇ…)
「あら。嫌ですわ。そんな怖いお顔をしてそんなはしたない声を出すなんて大和撫子の恥ですわ」
口元に右手をあててバカにしたように微笑んで寿は美空にそう言う。
「はぁぃぃ?何か言った?」
「あっ、久瀬さんは金色の髪をしていますので、日本人じゃなくて外人さんですものね。ふふっ」
そう言ってサラサラの長い黒髪を柳生さんは撫でて久瀬さんを挑発する。
久瀬さんの怒りが限界の限界を超えてきたのを俺は察知し、体の震えが止まらなくなった。
「あんたねぇ…」
「く、久瀬さんは!か、かわいいっ!」
久瀬さんが何か言おうとしたが、石川さんが被せて入ってきた。
「く、久瀬さんは…せ、世界一…か、かわいい。わ、私の、あ、憧れの人…だ。そ、そんな久瀬さんを…ば、バカにするなっ!」
珍しく俺以外の人に口調を強めてそう言う石川さん。
「…鳳ちゃん…」
それを聞いた柳生さんが石川さんへ言葉を返す。
「…いつから居られたのあなた?ぜんぜん気付きませんでしたわ。…迷子かなにかでしょうか蒼汰様?」
さっき柳生さんが椅子の席を指定した時、俺と久瀬さんの席しか指定しなかったし。湯呑みも石川さんの分だけなかったり。と、俺は薄々そな気がしていた。
石川さんは俺によく向けてくる表情を柳生さんに向け。
(あっ、俺がよく見る顔だ)
「…し、死ねっ…」
一方その頃。風陰家では。
「おにーちゃん遅いなー」
小陰がテーブルに座りながら椅子の下で足をブラブラさせていた。
「ハッ!?…感じるわ…何かがおにーちゃんに起きてる!?」
そう言って立ち上がる小陰。
「……なんてね。何か最近、おにーちゃんのリアクション真似しちゃうんだよねぇぇ(笑)」
風陰家は平和であった。




