極楽鳥花の花言葉6
こんな早朝の校舎の中に生徒がいるはずもなく。いつも生徒で賑わっている靴箱は静か過ぎて不気味だった。
普段は行けない場所をここぞとばかりに巡った蒼汰は満足して教室に向かう。教室に着くと黒板の日直欄に『風早』と書かれていて、俺は『風陰』と書き直す。
「誰だよ『風早』って。黒髪ロングの子と恋に落ちろってか?」
ブツブツと独り言を言っていると教室のドアが開いて誰かきた。
「ん?…ふぁっ!?」
教室のドアに姿を現したのは……さっきのヤバい子だった。
「あら?風陰さん。今日はお早いですね」
俺はモブぼっちのスイッチがONになってしまいあたふたしてしまった。
「あ、そ…その………あれ?今…『風陰』って?」
「はい。そう言いましたわ。…私…変な事でも言ってしまいましたか?」
そう彼女は言うと、上品に右の手で口元を隠す。
「いや、あの…俺なんかの名前を知ってるとは思っていなくて…」
「ふふっ」
上品に微笑むとその子は音を立てずに近づき。俺の顔を見上げて口を開く。
「性は『風陰』名は『蒼汰』…ずっっと前から存じていますわ。何故なら…私は貴方をずっっと見ていましたので」
「えっ…それは…どうゆう…意味?」
その時、LINEの通知音が鳴る。
「うわっ!ビックリした…ん?久瀬さん?」
『どこ?もう学校?』
「ご、ごめん。少しいい?」
「はい。構いませんよ」
『今、教室です』
『いつもの場所にすぐ来て』
『かしこまりました』
「ごめん。俺、ちょっと行かないといけなくて。えっと…」
目の前の子の名前が出てこなくて(出てくるわけない)。焦っているとその子は黒板の日直欄を指差す。
「えっと…柳生…ことぶき?」
「柳生寿と申します。本日は日直、宜しくお願い致しますね風陰さん」
「えっと…よろしく?」
久瀬さんから連続でLINEがきて、俺は慌てて教室を出た。
「あっ!ヤバっ!ごめん柳生さん、俺行かなきゃ!」
慌てて教室を出て行く蒼汰の背中に柳生寿は手を振る。
「お気をつけて。……………チっ!………久瀬…美空」
教室を出た後、後から妖気がした気がしたが俺は急いで元弓道部の部室に向かった。
「すいません久瀬さん!」
「遅い!寒くて凍死するとこだったじゃない!」
「す、すみません!」
「家に迎えに行ったら風陰いないし。寒いし。ホント最悪な朝…」
(…ん?俺を迎えに?)
寒そうに震える久瀬さんに俺は問う。
「…何で俺を迎えにきたんですか?えっと…もう怒ってないんですか?」
「…よくよく考えたら…風陰はそんな事をする奴じゃないって思ったし…そ、それに…こんだけ朝早ければ…誰も見てないし…一緒に登校出来るかなって…思って…」
顔と耳を紅く染め。照れながら金髪の毛先をイジる久瀬さんのその言葉を聞いて。俺の体温は一気に上昇する。
(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい…可愛すぎだろ!!!)
「な、何よ?」
何も言わない俺を少し睨みながら久瀬さんはそう言い、体を震わせた。
「え、あ…あっ、そうだ」
俺はブレザーを脱ぐと久瀬さんに差し出す。
「これ良かったら使って下さい」
「えっ、いいの?風陰は寒くないの?」
「俺は大丈夫です!ほらっ!」
俺が走る真似をすると久瀬さんはクスッと笑い俺に近づく。
「じゃあ…お言葉に甘えて…」
俺から久瀬さんはブレザーを受け取ると上から袖を通さずにブレザーを羽織る。
「…さっきまで風陰が着てたからかな?…凄く暖かい。ありがと。風陰」
久瀬さんの笑う顔を見てると俺はTシャツとGパンだけで南極で過ごす事が出来るかもしれない。
「教室行こ?」
俺と久瀬さんは教室へと向かって歩き出した。
ブレザーを二枚重ねしている久瀬さんより。俺の方が体温は確実に高いだろう。
一時間目の休み時間。
(あ〜今朝は最高だったな〜。……ラノベ読もー)
鞄からHibari先生のラノベを出そうとしていると。誰かが俺を呼ぶ声がしてきた。
「風陰さん。このプリント今日までに纏めて、先生に日直が提出するようにと仰ってました」
「柳生さん。あ、そうなんだ。分かった」
(えっ…超だるいんですけどー)
柳生さんからプリントを受け取ると、教室の雰囲気が変になってる事に気付いた。
(えっ…なに?なんなの?)
俺に微笑んでから柳生さんは自分の席へと戻って行く。
休憩時間の度に俺の所へやってくる柳生さん。そして、その度に教室の雰囲気が変になる。
(何なんだ!?何が起きてる?)
昼休み。
昼になると朝より暖かくなっていたので。いつものメンバーで元弓道部の部室の屋根の上に集まって弁当を食べていた三人。
「風陰!あれはどうゆう事?」
「え?何がです?」
「な、なぜ。や、柳生寿が。お、お前みたいな、く、クズに。は、話しかける?」
「え?んー…日直が一緒だからかな?…あと俺はバカだけどクズじゃないからね石川さん。最近、口が悪いよ」
「日直が一緒とかそういう問題じゃないの!いい?柳生寿の声を今日!クラスの全員が初めて聞いたのよ!?」
「そうなんですか?」
久瀬さんによると。柳生さんは入学してから一度も言葉を発する事なく今まで過ごしてきたようで。喋れない病気なのでは?と噂されていたようだ。
一年の頃。同じクラスだった久瀬さんは隣の席になった事があるみたいで。何も喋らないけど微笑むその姿を見て恐怖を覚えた記憶があると話していた。
(…てか一年の時も同じクラスだったのか)
なので。さっき教室で柳生さんが俺に話しかけてきた時、教室が変な雰囲気になったようだ。
「へ〜。そうだったんですか」
「『へ〜』じゃないわよ!これは異常よ!何かの前触れよきっと!」
(それ、久瀬さんがフラグ立ててるような気が…)
「『へ〜』と。し、しか、は、反応できない、お、お前は、や、やはり…バカだ。…へ、変態」
(『変態』は関係ないと思うよ石川さん)
俺は寝っ転がり空を眺める。
(俺には普通の女の子にしか見えなかったけどな…ハッ!?)
蒼汰は今朝、弓道場で見た光景を思い出し。上体を起こしてガタガタと震えだす。
「ど、どうした?」
裏と表が凄まじくて裏の部分を垣間見た事を忘れていた蒼汰。あの顔と叫び声を思い出すと…体が勝手に震え出してくる。
「た…確かにヤバい子かもしれない…」
「やっと分かった?」
「はい。…でも、何でそう思うんですか?何か過去にあったんですか?」
「『女の感』よ!」
(感かーい)
午後からの休み時間も柳生さんは俺の席にきて。その度に教室が変な雰囲気になり。俺と柳生さんを久瀬さんと石川さんはガン見していた。
そして、放課後。俺と柳生さんは先生へプリントを提出して教室の施錠も先生に頼まれて教室へ戻る。
(自分でやれよあのハゲ)
教室に着くと柳生さんは戸締まりを確認する為に窓やドアをチェックし始める。
その間。俺は教卓の横から外を眺めてた。
(久瀬さんは『気をつけろ』って言ってたけど。特に何も問題なかったな…)
「カチャっ」
(…ん…カチャっ?)
後を振り返ると柳生さんが教室のドアに鍵をかけて俺の方を振り返った。
「……あのぉ……柳生さん?」
「やっと……二人きりになれましたわ」
「……はぃ?」
柳生寿は音を立てずに蒼汰へと近づく。
「や、柳生さん!?」
柳生寿は楽々と蒼汰の間合い入ると…蒼汰に抱きついた。




