薔薇には棘がある2
この前、授業をサボった事を先生は全く気付いていなかった。
というよりクラスメイト全員、俺が授業に出ていない事に気付いていない様子であった。
こういう時、心底「モブでよかったぁ〜」と思う。
そんなモブの特権を利用し、午後からの授業を頻繁にサボるようになってしまった俺は。体育館横にある元弓道部の部室の屋根の上でラノベを読み漁っていた。
別に頭が悪い方でもいい方でもない俺の成績はいつも大体、真ん中の順位で。それ以上に上下する事はなかった。
なので授業に出ようが出まいが、成績が変わる事はない。
「授業に出てないところは自分で勉強しないといけないのが授業をサボる唯一の難点かなぁ…」
「久瀬…好きだ!俺と、俺と…付き合って下さい!」
(はぁー…またかよ…これで3日連続だぞ)
屋根の下を覗くと久瀬美空がまた男子に告白されていた。
(今度は3年生か…)
ここからの展開は決まっていた。
「私のどこをどう好きになったの?」
「顔がタイプなんだ!」
(はい。アウト〜)
お決まりのあのセリフを言われた3年生は泣きながら立ち去って行った。
久瀬美空は不満そうに大きなため息を吐いてその場から立ち去ろうとしたが、イタズラな風が久瀬美空の股下を全速力で通り過ぎてスカートがフワッとめくれると、慌ててスカートを抑えながら周りを見渡す。久瀬美空は屋根の上に目をやり。
(ヤバっ…)
と、隠れてから数十秒後、恐る恐る顔を出すと久瀬美空の姿はなく、ホッと安堵した。
「危なかったぁ〜。久瀬美空ってあんな顔もできたんだ…」
一瞬だったが、スカートを抑える久瀬美空の恥ずかしそうにしている表情が見えた。その、恥ずかしがる表情は『孤高の女王』と呼ばれているクールな女王とはかけ離れた、普通の女の子の姿だった。
俺は脳内メモリーをチェックし、久瀬美空の恥ずかしがる顔が保存されている事を確認すると屋根を降りた。
「おにーちゃーん!お風呂沸いたよぉ!」
体を洗い、湯船に浸かると自然と…
「アァァ〜…」
と声が出てしまうのは何故だろう。
「んん〜…これ、どこかの大学が本気で研究しないかな…?」
「何を研究するの?」
声のする方を見ると、小陰がバスタオルを巻いて中に入ってきていた。
「…なにをしているのかな?小陰ちゃん?」
「お疲れなお兄様のお背中を流してあげようかと思って」
「…なにをしているのかな?小陰ちゃん?」
「お疲れなお兄様のお背中を…」
「それはもう聞いたよ」
こんなに可愛い妹がこの世にいるかね?
いつか現れる、小陰の大事な人にこれだけは言いたい……(小陰と先にお風呂に入ったのは俺だっ!ざまぁみろぉ!)
…自分で言っといてなんだが…とても悲しくってきた。
世界一可愛い小陰もいつかはどこの馬の骨か分からない人と一緒になり、こうやって一緒にお風呂に入ったりするんだろうなぁ…
「…小陰…幸せになるんだぞ…」
「だからなにそれ?」
小陰に背中を流してもらいながら俺は、久瀬美空の事を考えていた。
久瀬美空はたぶん、高校では誰とも付き合う事はないだろう。
付き合えるとするならば、あの久瀬美空の質問に完璧に答えられる人だと俺は推測している。…あくまで推測だけど。
これも推測になるのだが。Hibari先生が最初に書いたラノベの中に、久瀬美空の質問に完璧に答えられる答えがあるはずだ。
シチュエーションは全く違うのだが。言葉の一つ一つ。久瀬美空とヒロインの表情。(表情といっても描写だけど)
あまりにも似すぎているというか…似すぎて逆に違うような気がしてくるような…
ん〜。…あれ…あれれ…待てよ…
俺は久瀬美空の質問に確実に答えられるではないか。
となると…俺の推測に俺と久瀬美空をあてはめると…俺と久瀬美空は付き合える!?
いや、ね。まさかね。
「ふっ…それはないな…ふっ」
「何がないの?」
「ん?いや、なんでもないよ小陰」
「変なおにーちゃん。ねぇ、そんな事より…このバスタオルの下…気にならない?」
小陰は体を隠しているバスタオルを小悪魔な笑顔で取ろうとする。
「気になるでしょー?」
「どうせ水着を着てるってオチだろ?」
「なっ…!?なんで…分かったのぉ?」
「ははっ。俺がどれだけラブコメラノベを読んできてると思っているんだ妹よ。こんな展開は朝めし前を通り越して、昨日の晩めし前さっ…あっ…」
決めセリフにテンションが上がった俺は思わず、立ち上がって小陰の方を向いて決めポーズを取ってしまった。それ故、下半身を隠していたタオルがハラリと下に落ちる。
「いっ…いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
小陰は俺が座っていた椅子を掴み取り投げてきた。
放たれた椅子はさながらヤマトのキャノン砲並の威力で俺のデリケートゾーンを砲撃し、俺は撃沈する。
風呂場から出て行く小陰艦長に。
「こ…小陰よ…イ、イスカンダルは…と、遠い…ぞ」
『風陰蒼汰ここに眠る』
「いってぇ〜。クソッ、小陰のやつ。いざって時に使い物にならなかったらどうするんだよぉ…ま、いざって時なんて俺にはこないけどな。…それはそれで、なんか悲しいな…」
部屋でデリケートゾーンを氷で冷やしながら俺はまた、あのシーンを読み返していた。
次の日の放課後。久瀬美空はまた告白されていて、いつも通りの流れで告白した相手を玉砕していた。
いつも通り大きなため息をついて久瀬美空は立ち去る。
その姿を見送ると、屋根の上で横になり空を見る。
(このままのペースでいくと…俺以外の男子生徒全員に告白されるんじゃないか久瀬は)
その時、スマホからLINEの通知音が連続で鳴る。
(ヤベッ!サイレントにするの忘れてた!)
急いでサイレントに設定し、LINEを開くと小陰からだった。
『昨日のこと、まだ許してないからね』
『今日は外食でいい?』
『もちろんおにーちゃんの奢りだからね!』
LINEを読むとすぐに周りを見渡すが、久瀬美空の姿はなかった。
「…ほっ。もう帰った後だったか。あぁ~ビックリしたぁ」
スマホにまた小陰からLINEが届いた。
『ここがいい』
『URL』
送られてきた店のメニューを調べて驚愕した。
『バカ!中学生と高校生が食べるにはここは高すぎる!』
既読はすぐ付き、返信もすぐにきた。
『この位の食べないと昨日の事は許せません!』
『あれは事故だろ!他の店…ないか?』
『URL』
『もっと高くなってるじゃねーか!』
『おにーちゃんの小遣い、いくらか知ってるよな?』
『知ってるー♪ヘソクリあるのも知ってるー♪』
「えっ…何でヘソクリの事、小陰が知ってるんだ?」
『ごちになります(笑)』
『待て待て。家族会議を招集する!』
「ねぇ、あんたずっとここで見てたの?」
「あ?あぁ…そうだけど?」
『ちなみに…ヘソクリは小陰が持ってきてます(笑)』
「はぁぁぁ?」
『集合はどこにしますか?(笑)』
「ねぇ、あんたこの作家の作品よく読むの?」
「あ?読むけどなに?」
『お願いです小陰さん。それだけは勘弁を…』
「この作家のどこが好き?」
『話合いは…ムリです(笑)』
「あぁぁ!クソっー!ん?なに?なんか言った?」
『俺がどれだけあのヘソクリを頑張って貯めたとおもっ…』
(…あれ?…俺…なんか今…誰かと会話してなかったか?)
「この作家のどこが好き?」
声のする方に顔を向けると。
久瀬美空が、俺の本を持って俺の隣に座っていた。