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極楽鳥花の花言葉3

蒼汰の叫び声に美空は耳を両手で塞いで目をつぶっていた。


「…ビックリしたぁ」


蒼汰は右足首を押さえて床で転げ回っている。


唐突な叫び声に美空は少しイライラしながら床に落とした紙の束をしゃがんで拾いだす。


「ホントにバカなんだから風陰は。…コレって…」


手に取った紙には美空が見慣れている、いつも見ている。文字の列が目に入った。


「いってぇ〜。…あっ!く、久瀬さん!見ないでー!」


無表情で蒼汰の描いた作品を読む美空に、蒼汰はそう叫ぶ。


「…これって…風陰が描いたの?」


「えっと…いや…何か…友達が前来た時…」


「あんた私以外に友達いないじゃない」


(ぐふぉっ)


「これ、ちゃんと読んでもいい?」


「えっ!?」


美空はそう言うと机へ向かい。椅子に座ると静かに読み始める。


プロの作家に自分が描いた作品を読んでもらえる。ましてや、自分が一番好きな作家に読んでもらえる事に嬉しさと興奮がある反面。どんな反応をされるかという恐怖が蒼汰の中で入り混じっていた。


もはや、今の状況はコンテストに作品を出品したに近い状態で。蒼汰は黙々とページをめくる美空の背中をただ見つめる事しか出来なかった。



その頃。玄関では。

「行かせて小陰ちゃん!あのバカの頭をこれでカチ割らないと気が済まないのっ!」


「おばさん!お願いだから落ち着いて!ね?この焼きたてのマドレーヌあげるから!」


ゴルフクラブを持って中に入ろうとする隣のおばさんを小陰は必死に説得していた。


(何やってるのよ…バカ蒼汰っ!)


小陰は二階にチラッと目をやるが。力強いおばさんに少し押され気味になって。説得に集中する。


「おばさん!ほら、このマドレーヌね凄く美味しいのよ!あっ…お、おにーちゃん!逃げてぇー!」


小陰の叫び声が風陰家に響き渡る。


その頃、蒼汰は今か今と美空が読み終えるのを待っていた。


美空の読む手が止まり蒼汰に一気に緊張が走り、椅子を回転させて美空が振り返った。


「ど、どうでしたか?」


「中々よく出来てたわよ」


「ほ、本当ですか!?」


「うん。まぁ…素人にしてはだけど」


一方的に攻められる戦いのゴングが鳴る。


「まず結果から言うと、つまらなかった」


(ぐわっ…いや、それは分かっていた事だ…次っ!)


「ストーリー構成やストーリーの展開がめちゃくちゃ。物語と物事には順序ってものがあるでしょ」


(あべしっ!)


「それと。キャラの名前が全部、中二病が考える必殺技みたいな名前ばっかで覚えにくい。インパクトは大事だけど、インパクトしかない」


(へぎゃっ!)


そらからも延々と久瀬…Hibari先生からの攻撃は止まらず。俺はコーナーに追い込まれてただ殴られてるボクサーのようだった。


分かっては…分かってはいた事だが…俺は悔しかった。


寝る間も惜しんで描いた俺の物語は…そんなに薄っぺらいモノなのか。


右足首の痛さも忘れ俺は正座して、太ももの上で両手を強く握り締め…涙を堪えていた。


「…がダメね。………だけど…」

「おにーちゃん!!今すぐ逃げて!!」


Hibari先生が最後に何か言おうとしていた時。激しくドアを開けて小陰がそう俺に叫ぶ。


「どうした小陰?」


そう小陰に返した俺だったが。小陰の後から鬼の形相でゴルフクラブを持った隣のおばさんがスッと現れたのを見て。


(あっ…やっべ…)


死を悟る。


その後、何とか謝罪を繰り返し、頭をカチ割られる事は回避出来たが。隣のおばさんの背後から「◯す◯す◯す」という目に見えない文字が俺にはずっと見えていて…


「本当にすみませんでしたっ!」


「あ、あなたは謝らなくていいのよ。全部、このバカが悪いのよ。このバカは昔から…」


隣のおばさんは、俺が今までどんな悪事を行ってきたかペラペラと久瀬さんに話し。その話しを久瀬さんは笑いながら聞いていた。


話した事でスッキリ(まだ俺を睨んでいるが)した隣のおばさんは自分の巣へと帰っていく。


「美空さんまで一緒に謝らせてごめんなさい」


「いいのよ小陰ちゃん。私にも責任あるから」


「本当にごめんなさい。…ほらっ!おにーちゃんも謝って!」


そう言われ。小陰に頭を無理矢理下げさせられた。


「本当にすみません久瀬さんっ!」


疲れ切った小陰は「お風呂に入ってもう寝る」と言い、部屋を出て行く。


また椅子に腰かけた久瀬さんは足と腕を組んで「はぁ~…」とため息を吐く。


「本当にすいません…久瀬さん」


「別にこのくらいいいわよ。本当に…あんたといるといつも…賑やかで暇しなくて済むわ(笑)」


そう言って笑う久瀬さん。


「あ、もうこんな時間!?帰って原稿やらないと!」


「Hibari先生の貴重な時間をこの私めごときに使って…」

「もういいからそういうの。じゃ。またLINEするね」


「お疲れ様でしたー!」


そう言うとバッグを拾って部屋を出て行った久瀬さん。


俺は床に転がり込んで何も考えず。天井を見ていた。


「…あんなとこにあんな模様あったか?…」


そう呟くとドアが開く音がした。


「…小陰か?久瀬さんなら帰ったぞー」


「風陰…あのね…」


久瀬さんの声に反応して起き上がる。


「…さっき最後に言おうとしてた事なんだけど…読んでもらう人に楽しんでもらおうって気持ちは凄く伝わってきたわよ。じゃ、おやすみー」


そう言って久瀬さんはウィンクをしてドアを閉めた。


「………何だあのかわいい生き物」


それから数ヶ月後。Hibari先生の新作は大ヒットし、出版してからすぐに増販とアニメ化が決定した。


「ん〜…はぁ…このシーン好き過ぎて何度でも読み返せる〜」


「き、キモいぞ、か、風陰」


放課後。元弓道部の部室の屋根の上でHibari先生の新作を読んでニヤニヤしている俺に石川さんがそう言った。


「わ、私のと、友達が作った、ほ、本を…そ、そんな、気持ち悪い、か、顔で、み、見るな…い、犬め」


「……」


この小さい子(合法ロリ)は、日に日に俺へのあたりと口が強くなっていくな。この場所に最初、登った時の動画をばら撒いてやろうか。


「あの時の石川さんの方がプルプル震えて小犬みたいだったよ」


とは言わず。俺を見下した表情で見てくる石川さんを俺は見ていた。


「な、なんだ。い、犬」


暴言ばかり吐くくせに。いつも俺に絡んでくる石川さん。


まぁ、久瀬さんが居ないからだと思うけど。


何だかんだで一緒にいる時間が長いよな。まぁ、俺の不幸を見逃すまいと一緒にいるのかもしれないな。


でも…普通。嫌いな人とは一緒にいないよな。


(…だとすると)


「…ねぇ、石川さん」


「な、何だ?ま、また、ろくでもない、こ、こと、考えて、いるん、だ、だろ」


「…俺の事、好きだよね?」


「…し、死ねっ!!!!」


違ったようです。

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