極楽鳥花の花言葉2
自室にて。
「痛い痛い!もっと優しくやってくれよ小陰!」
「男なんだから我慢して!おにーちゃん!」
部屋で小陰に右足首の簡単な治療をしてもらっていた俺だが。思っていたより痛くて声が出る。
「あっ…あっ…あぁぁー!!」
「もうっ!うるさい!」
何とか治療を終え。息をハーハー言わせてベッドで仰向けに寝ている俺に救急箱を閉じた小陰が俺の腰くらいの位置の横に腰かけた。
「おにーちゃんにしては、よく頑張ったね」
そう言って微笑む小陰は俺の頭を優しく撫でる。
(て…天使か?…おれ…死ぬのか?)
「では…最後の治療をしたいと思います」
(ん?)
そう言うと。小陰は俺の右足首に手をかざした。
「痛いの痛いの…飛んでけ〜」
(ダルビッシュっ!!!!!)
小陰の可愛さに訳のわからない擬音が俺の中から飛び出て。俺のライフはゼロになった。
『風陰蒼汰ここに眠るパート3』
「へへっ。これで大丈夫だよおにーちゃん」
そう言って笑う小陰。
漫画やラノベの世界から飛び出してきたような世界一かわいい俺の妹…風陰小陰。
そんな小陰もいつかはどこの馬の骨か分からんクソ野郎のクソったれと結婚し。こんな事を毎日するようになるんだよな…いつかは……
そんな事を考えていたら…まだ見ぬクソ野郎のクソったれに段々と腹が立ってきた。
蒼汰は真剣に小陰を手放さなくて済む方法を考えていた。
①『「ダメ人間な俺から離れるな」と泣きつく』
②『男がどうゆう生き物なのか間違った知識を教える』
③『俺以外の全人類の男を抹殺する』
④『俺と小陰が結婚する』
(んん〜……一番現実的なのは……③と④だなー)
③と④をどうしたら実現出来るか蒼汰は更に真剣に考える。
俺以外の全人類の男を抹殺するには『権力』がいるし。俺と小陰が結婚するには自分の思い通りに出来る『力』が必須だよな…
9割ラノベ。1割脳の脳ミソをフル回転させ蒼汰はある最適解を導き出した。
「…小陰」
「ん?」
「…俺…王様なるわ」
「…なれば?」
夕飯を済ませた俺はベッドで仰向けになって石川鳳の描いたラノベを思い出していたのと同時に、自分が以前、描いていたラノベを思い出していた。
「俺にも描いてた時期あったよなぁ…。えっと…あれ?どんなの描いてたっけ?」
ベッドから飛び起き。包帯が巻かれた右足首を引きずりながら、クローゼットに向かいドアを開けた。
「いてっ」
膝立ちして一番奥にある段ボールを取り出すと『開けたら爆発する』と書いてある紙が張ってあった。
紙を破き、段ボールを開けると…本当に爆発した。…わけなく。中には懐かしい黒歴史の数々が眠っていた。
「うわっ、懐かしいなー」
色んな物が入っていたが。どれもこれも手に取るとすぐに、思い出が蘇る物ばかりで。一番下に紐で厳重に縛ってあるノートと紙の束が大量に出てきた。
「あった…」
紐をほどいてノートをパラパラめくると。不格好な字で埋め尽くされたページが顔を出す。
「確かこれ…小学生の時に描いたやつだ」
次に紙の束を手に取る蒼汰。
「これは…中学の時にノートパソコンで描いたやつだ」
その場にあぐらをかいて大きく深呼吸する蒼汰。
「…よしっ!」
意を決してノートを手に取りページをめくると。凄まじいダメージが全身を突き抜ける。
「うわっ…これは酷いな。え?何この描写(笑)…これどういう意味?」
ツッコミどころ満載の小学生時代のラノベを流し読みで数冊読み終えると。今度は紙の束を手に取った。
「…えっ…なかなかいいんじゃん。何か…成長したなって感じがするな(笑)」
最初は小学生時代より数段良く出来ているラノベに笑みが溢れていた蒼汰だったが。その顔は徐々に素の顔に戻っていった。
「……ダメだダメだー!こんなのがラノベと呼べるかっ!だいたい意味分かんねーよ!勇者がいきなり覚醒してマシンガン使うって!ジャンルは何だよ!描写もクソだし!…バカじゃねーの中学の時の俺!」
そう言って後に倒れて天井を見上げる蒼汰はこの前、母、日向に言われた言葉を思い出す。
「…才能と言わせた努力が…才能…かっ」
「何してるの?風陰?」
「うわっ!く、久瀬さん!?」
急に視界に久瀬さんが入ってきて驚いた蒼汰は慌てふためいて立ち上がった。
「ど、どうしたんですか急に?」
「え?いや、元気かな?って思って様子見にきた」
「さ、作品の方はどうですか?」
「まぁ…何とかなりそうかな」
そう言って少し笑う美空の顔を見て、蒼汰は安堵した。
「そうですか。新作…楽しみにしてますHibari先生」
「楽しみにしといてー。…ところで…本当に大丈夫なの?」
「えっ?…あ、元気ですよ俺は!見て下さいほらっ!」
蒼汰はその場で走る真似をした。
「なら良かった。鳳ちゃんから風陰が足を捻挫したって聞いたからさ」
(…ん?)
「それだけ動ければ大丈夫そうね(笑)」
左足を上げて走る真似を止めた蒼汰。
「……石川さんに聞いた?」
「うん」
「…捻挫?」
「うん。捻挫」
ゆっくり足下に目をやる蒼汰の目に。包帯が巻かれた右足首が入ってきた。
「…風陰?どうしたの?」
蒼汰の大きな叫び声が住宅街に響き。近所の犬が一斉に吠えだした。
玄関にて。
「本当にすみません。本当にすみません…」
近所の人達が風陰家の玄関に押し寄せ。小陰はずっと謝罪しながら頭を下げていた。
「小陰ちゃんが謝らなくていいのよ!…あのバカ兄の方は…いつか◯す」
隣のおばさんは恐ろしい言葉を口にして去って行く。
その頃。蒼汰は自室のベッドでシクシク泣いており。その様子を美空はベッドに片肘をついて右手で頬を支えながら蒼汰を見ていた。
「まったく…ホントにバカなんだからぁ」
「痛いよー…痛いよー…」
両手で顔を押さえてシクシク泣いる蒼汰を見ていた美空は微笑み。ベッドに腰かけた。
「うっうっ……久瀬さん?」
美空は蒼汰の右足首を右手の人差し指で指差し。
「痛いの痛いの飛んでけ〜」
と、言って右手を天井に向けた。
「…どう?痛いの飛んでった?」
そう言って少し恥ずかしそうに微笑む美空。
(フレディーマーキュリーっ!!!)
また蒼汰の中から訳のわからない擬音が飛び出し。今度は確実に蒼汰は死んだ。
『風陰蒼汰ここに眠る「完」』
「…ねぇ。あれ何?」
「……」
土に還った蒼汰からの返事は当然なく。美空は蒼汰の黒歴史グッズに近づいていく。
美空が紙の束を手に取ると。奇跡的に息を吹き返した蒼汰は、美空が紙の束を持っているのに気付く。
「あっ!久瀬さん!それは!」
そう言ってベッドから飛び起き。右足を床に着けた瞬間……近所の犬が一斉に吠えだし。隣の家からゴルフクラブを持った人が風陰家に向かって歩いていた。




