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空木の花言葉6

紅文社の近くを通る人の目はHibariと蒼汰に集まっていた。


Hibariは蒼汰が今から何か伝えようとしてくる事は感じられても。蒼汰が何を伝えてくるかは予想出来なかった。


何故なら。蒼汰の口から出てくる言葉はいつも。予想の斜め上を通り越していたから。


「Hibari先生…」


Hibariは真剣な眼差しの蒼汰から目を逸らさず。全身に力を入れて身構えた瞬間、蒼汰が地面に突き刺さる勢いで頭を下げた。


「……タクシー代を貸して下さいっ!!!!」


「……………………は?」


Hibariの全身から力が抜けていき少しふらついた。


「…どうゆうこと?」

「はいっ!…ここまでタクシーで来たのですが!思ったより料金が高くてお金が足りませんでしたっ!」


頭を下げたまま経緯を説明する蒼汰。


「はぁ…」と大きなため息を吐きながら鞄から財布を取り出し蒼汰に近寄るHibari。


「いくら?」

「はっ!1万8千飛んで500円ですっ!」


「飛んでないわよ」とツッコミを入れる気も起きず。財布から2万円を抜き取ったHibariはハッと周りの視線に気づいた。


紅文社の近くを通る人達は立ち止まってHibariと蒼汰のやり取りを見ながら。ヒソヒソと話をしていた。


「か、風陰…ほら、これで早く支払いしてきて…」

「はっ!ありがとうございますっ!先生!」

「声がデカいわよバカっ」


Hibariが周りからの視線に耐えてる間。蒼汰は2万円を両手で受け取ってタクシーのもとへと向かって支払いを済ませた。


「……んで?…何しにきたの?」


「答えが出ました!」


「えっ…風陰こっち来てっ!」


そう言うとHibariは蒼汰の手を掴んで紅文社へと向かって行く。


その姿を見ていたタクシー運転の田中ことワトソンは。


「アイツ。見かけによらずべっぴんな彼女いるじゃねーか。…俺も昔は…青春してたよなぁー…」


遠い目で遠くを見た後、タクシーに乗り込みドアを閉めた。


「…懐かしい思い出を思い出させてくれたから…まぁ…ここに着くまでに車内で3回吐いた事は大目に見てやるか」


ウィンカーを出してタクシーは去って行く。



紅文社へ入るとエレベーターで三階へと向かったHibari。三階に着くと入り口の前で蒼汰に「ここで待ってて」と伝えて中に入って行った。


入り口から出てくる人が蒼汰をジロジロと見てくる視線に必死に耐えてる蒼汰。頭の中で最近ハマっているアニソンを熱唱しているとHibariが戻ってきた。


「来てっ!」 


そう言うと。また、蒼汰の手を引いてHibariは歩き出す。


「Hibari先生。どこに行くんですか?」

「黙ってついて来て!」

「美空。その子は?」


見知らぬ声に目をやると。スーツ姿の男の人も俺達と並行して歩いていた。


(なんじゃこのイケメンっ!!…あれ?今「美空」って呼んだ?)



Hibari先生がドアを開けて中に入ると。そこは会議室だった。


一番前の椅子にHibari先生は座って腕と足を組んだ。


「風陰が見つけた答え。聞かせてもらいましょうか」


「…はいっ!」


俺はホワイトボードの前に立ち、大きく深呼吸した。


「すー…はぁー…俺が見つけた答えとは…何もしない事です」


「………は?………何もしない?」


「そうです。何もしないです」


蒼汰の口から。また、予想の斜め上を超えた言葉が出てきた。


「…こんなに私が苦しんでるのに…何もしないって!助けてくれないって言うの!?」


Hibariは立ち上がり叫んだ。


「これを見て下さい」


蒼汰は鞄から一冊のラノベを取り出した。


「それは…」


「これはHibari先生が三作目に出したクソ作品です。まぁ…俺にとっては神作品ですけどね」


Hibariはゆっくり椅子に腰かけて。蒼汰は言葉をつづける。


「この作品は、俺が初めて読んだHibari先生の物語です。最初読んだ時、正直『なんだこれ?』と思いました」


Hibariは昔を思い出す。


「この作品でこの作者の物語とはサヨナラだと思っていました。しかし、俺はこの作品がきっかけでHibari先生の作品を世界で一番愛するようになりました」


作品を作っている昔の自分の姿が脳裏に蘇るHibari。


「この作品は何を伝えたいのか。何を映したいのか。何を与えたいのか全く理解不能でした。でも、分かりやすい、先が読める王道な展開でも、登場するキャラに向けられた愛が伝わってくる描写だと俺は思いました。そして、それを知る為に…俺はこの作品を数え切れないほど読み返してきました」


蒼汰はHibariに近寄る。


「そして…そしてなにより重要な事に気づきました」


片膝立ちして本を差し出す蒼汰から本を受け取るHibari。


受け取った本はボロボロだった。


「それは…Hibari先生の作品は面白い!!」


蒼汰の言葉を聞いて。Hibariは我慢していた涙を堪えきれず流した。


「Hibari先生の作品は何度読んでも面白い!何度読んでも感動する!何度読んでもドキドキする!……Hibari先生はスランプなんかじゃなかった。俺の助けなんていらなかったんです」


「…な、何言ってるの!?私はスランプよ!?現に、今だって面白いと自分で思える作品を、蒼汰の家で描いたあれ以来!ぜんぜん描けてないんだからね!」


Hibariは涙声で叫ぶ。


「…Hibari先生。一つ忘れていませんか?」


蒼汰はボロボロの本を握っているHibariの左手を優しく右手で掴んだ。


「『面白い』か『面白くない』かを決めるのは『読者』です」


蒼汰の言葉が胸に刺さる。


「Hibari先生の作品を待ってる人は俺を含めてたっっくさんいます。…面白い作品…待っています。…Hibari先生の歩みを止めていたのは俺です。助けようとしていた俺がHibari先生を苦しめていました。俺は読者なのに作者に近づき過ぎた」


蒼汰は立ち上がり、両手拳を握って天高く突き上げ、上を向いて叫んだ。


「Hibari先生の作品は何度読んでも面白いーー!!!!」


蒼汰の声はオフィス中に響き渡り。誰もが一瞬動きを止めた。


顔と手を下ろした蒼汰はHibariと目が合うと、少年のような笑顔を見せて笑った。


「ただそれだけ。それだけで良かったんです。Hibari先生の作品に、Hibari先生以外の言葉なんて必死ないんです」


蒼汰の純粋な笑顔を見て。空色の目から少し雨を降らしながら美空も。


少女のように笑った。



笑い合う二人を入り口付近で壁にもたれながら腕組をして見ていたスーツ姿の男が口を開いた。


「美空。もう大丈夫そうだな」


(うわっ!ビックリした…え、居たのこの人?)


「うん。もう大丈夫!」


残ってる涙を拭って美空は元気よく答える。


「そうか。よかったな美空」


(チッ!さっきから気安く「美空」「美空」って馴れ馴れしいヤツだな。つか、編集者ならちゃんとHibari先生って呼べよ!)


スーツ姿の男にイライラしていた蒼汰。


「気をつけて帰れよ美空」


蒼汰のイライラは限界を超え。スーツ姿の男に指を差して近づく。


「おいっ!あんた!ちゃんとHibari先生って」

「うん!ありがとうおにいちゃん!」


ゆっくり顔だけ振り返る蒼汰。


「……おにぃ…ちゃん…?」


「うん」

「初めまして。美空の兄でHibari先生の担当編集を務めてます。久瀬零士(くぜれいし)です」


「……」


ちょっと整理しよう。

久瀬さんのお兄さん→妹を名前で呼ぶ→Hibari先生の担当編集→神の右腕……神の…右腕


「神の右腕ぇぇー!!!」


蒼汰は1秒かからず土下座し、おでこを地面に着けた。


「初めまして神の右腕様!!数々のご無礼お許し下さいっ!!」


零士は真顔で蒼汰を指差して美空を見た。


「おいっ、美空。何だこの面白い生き物は?」


零士の質問に嬉しそうな笑顔で美空は答える。


「私の友達。面白いでしょ?」

 

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