空木の花言葉5
あれから二週間が経った。
俺は相変わらず家では机に齧りつき。学校でも授業中ずっとスマホに入れたHibari先生の新作を読んでいた。
授業中に作品を読みながら独り言を言っているようで、周りの人から気味悪がられているが…ど、どうでもいいさ。
(本当は少し嫌。…このクセ直さないとな)
「ふ〜…これで、138回目を読み終えたな。相変わらず…面白かったですHibari先生」
同じ本を読み返すギネス記録があるとすれば、ギネス記録更新を俺は毎日してる事になるな。
そう思いながら天井を見上げているとLINEの通知がきた。
『蒼汰どう?何か掴めた?』
LINEの送り主は久瀬美空(Hibari先生)だった。
『今138回目を読み終えたとこです』
『それで?』
『今回も何も』
『そう。分かったありがと』
『何回読んでも面白いです!やっぱりHibari先生の作品は素晴らしいですね!』
既読はすぐ付いたが。返信は少ししてからだった。
『ありがと。あんまり無理しないでね蒼汰』
『はいっ!ありがとうございます!』
スマホを机に置いて、俺は大きく息を吐く。
久瀬さんと連絡先を交換してからほぼ毎日LINEで連絡を取り合っている。
全男子生徒の中で久瀬美空の連絡先を知っている男子生徒は俺一人。…優越感が半端ない。それを思い返す度に俺はドヤ顔に自然と顔がなる。
「おにーちゃんごはん出来たよー。…何その顔?」
「妹よ。俺は今…全人類の男の中の頂点に立っている」
「……ごはん冷めるから早くきてね」
冷たい目線と冷たい口調でそう言ってドアを閉める小陰。
(…脳内メモリーに保存保存)
脳内メモリーに妹を保存していると。またLINEがきた。
『蒼汰、明日一緒にお昼食べない?』
何故か知らないが。LINEの中だけ久瀬さんは『蒼汰』と俺を名前で呼ぶ。普段は『風陰』と名字で呼ぶのだが、LINEの中だけは名前呼びだ。
(ドヤっ)
俺も何度かLINEで『美空』と送ってみようとしたのだが…そんな勇気が一流のモブぼっちに初期設定で備わってるわけないだろ。
腹が減ってるのでご飯を食べてからLINEを返そうと。机にスマホを置くとまたLINEの通知がきた。
『死ねっ』
(……)
LINEの送り主は石川鳳で。コイツとも流で連絡先を交換したのだが。数時間置きに『死ねっ』『クズ』『ロリコン』と、単語だけ送ってくる。
まぁ…嫌われてるのは感じていたが。逆に嫌いを通り越し過ぎて逆に好きなのでは?と思う時がある。
(…石川さんの返信も後ででいいか)
スマホを閉じたが。後で久瀬さんとゆっくりLINEしたいので、石川さんには今返信して終わらせようと思った。
『ムリです』
「これでよしとっ。…………あれ!?…あぁぁぁーー!!!間違えて久瀬さんに送ってしまったぁぁぁぁ!!!」
鳳に送ったつもりの『ムリです』を間違えて美空に送ってしまった蒼汰。
神のイタズラなのか。神の戯れなのか。神からの罰なのか。
『蒼汰、明日一緒にお昼食べない?』
『ムリです』
会話が成立してしまった。
「どうしよう!?どうしよう!?どうしよう!?あっ!既読付いた!どうしよう!?どうしよう!?」
「おにーちゃん!ごはん冷めるでしょ!何してるの!」
「…小陰ぁぁー!助けてぇぇ〜」
LINE通知が鳴り続けるスマホを片手に妹に泣きつく高校二年生の風陰蒼汰。
…こんなヤツが人気作家のスランプを解決出来るのか不安で仕方なかった中学三年生の風陰小陰であった。
「…美空さん。ダメかもしれない」
午後から体調不良(本当は編集者と打ち合わせ)で早退した久瀬さん。
そして、自主的に授業をサボって元弓道部の部室の屋根の上で寝っ転がりながら空を見ていた…俺。
ここに来ると…何か…色々と思い出すなぁ。
あの頃の俺にとってHibari先生は雲の上より更に上の、遠い遠い存在に思えてた。しかし、今は…手の届く距離にいる。
…そういやここで久瀬さんが告白されるのをよく覗い…見守っていたな。
まさか、俺がここで久瀬さんが告白される場面をずっと前から見ていた事なんて、予想もしてないだろうな。
(…言ったら殺されそうだから、墓場まで持って行こう)
そもそも告白って何だっけ?
何で告白ってするんだっけ?
相手に自分の気持ちを伝えて、相手も自分が好きだったらカップル成立…そんなの前情報で相手が自分をどう想ってるか知ってればただの出来レースじゃん。
そんなのの何が楽しいんだ?何が嬉しいんだ?
相手が何を想ってるか。何を考えてるか。
分からないから相手を知ろうとする。
それが『恋』だろ。
それが『成長』だろ。
「って…恋をした事がないモブぼっちがなに考えてるんだ」
(…そういや。俺はどうやってHibari先生を好きになったんだっけ?)
「……確か……最初は……」
目を閉じて暫くすると。蒼汰は飛び起きた。
屋根から降りると同時に走り出す蒼汰。
途中、先生に止められそうになったが。それを振り切って学校を飛び出ると、サボり中のタクシーに乗り込んだ。
「な、なんだ!?」
「前の車を追ってくれっ!じゃなかった。『紅文社』まで行ってくれ!」
「紅文社?ちょっと遠いぞ?」
「いいから飛ばしてくれ!ワトソンくんっ!」
「よく分からねーが…俺はワトソンだ!」
ワトソンは帽子を被ると、アクセル全開で車を走らせた。
紅文社の前。
打ち合わせを終えた美空はタクシーに乗り込もうとしていた。
「Hibari先生ー!!」
自分を呼ぶ声にタクシーに乗り込むのを止め。声のした方を見ると蒼汰がいた。
「風陰!?どうしたの?学校?」
Hibariに近づく蒼汰。
「えっ…なに?なんなの?」
蒼汰はHibariの目を真っ直ぐしたアツい眼差しで見つめて。
人目も気にせず叫んだ。




