空木の花言葉4
最後のページの最後の文を読み終え、俺はひと息吐く。
「ふぅー…」
「読み終えた?」
「Hibari先生!?居たんですか!?」
「ずっといたわよ」
(マジか…ぜんぜん気づかなかった)
「それで…どうだった?」
蒼汰は腕組みしながら目を閉じ、間を空けて口を開く。
「もう一度…読んでもいいですか?」
蒼汰の言葉に美空は噛みつく。
「面白くなかったって事!?それとも意味が分からなかったって事!?」
美空は少し声を荒げて蒼汰にそう言った。
「あ、違います違います!ストーリーは凄く面白かったですよ!さすがHibari先生って感じです」
その言葉に少しホッとした美空だったが。「ただ」と言葉を繋げた蒼汰。
「ただ…表現がぎこちないと言うか…何と言うか…」
「いいわよ風陰。ハッキリ言って」
「…俺の頭の中で、今回はキャラに色が付いてなかったです」
そう言われた美空は怒りが込み上げてきた。
誰に向けられた怒りなのか分からないが、無性に腹が立ってきて衝動的に机の上にあるノートパソコンを掴んで投げようと動いた。
「ダメです!せんっ…ぶふぉあ!」
「あっ!ごめん風陰!」
衝動的に動いた美空にいち早く反応した蒼汰は。ノートパソコンを守ろうと体を入れて守ろうとしたが。急に蒼汰が視界に入ってきた事に驚いた美空が蒼汰の右頬にフックを入れた。
「ごめん風陰!大丈夫!?」
「だ…大丈夫っしゅ」
蒼汰は右手の親指を立てて美空にこう言った。
「いいフックでした。Hibari先生も世界、狙えますよ」
その言葉を聞いた美空から怒りは消え。鼻血を出しながら変な笑顔で笑っている蒼汰を見て、笑いが込み上げてきた。
「ふっ…はははっ(笑)何それ?(笑)」
いつもの笑顔に戻った美空を見てホッとした蒼汰。
「鼻血出てるよ。ティッシュある?」
ベッドで対面で座り。美空がティッシュで蒼汰の鼻血を拭きとると、ベッドの上に蒼汰は正座し両手を着く。
「お願いですHibari先生!もう一度、俺にあの物語を読ませて下さい!お願いします!」
そう言うと蒼汰は頭を下げ。何度も「お願いします!」と美空に懇願した。
「…勝手にすれば」
と、蒼汰に背を向けながら美空はその言葉を口にし、ベッドから降りて部屋を出て行った。
美空が部屋を出てからも蒼汰は暫くベッドの上で土下座のポーズをとりながら頭をフル回転させて美空の放った「勝手にすれば」の言葉の意味を見つけようとした。
(………分からん)
結局、答えは見つからず考えるのを止めた蒼汰。
「まっ、Hibari先生から何回でも見れる許可は取った。よしっ!答え見つけるまで何度でも読むぞ!」
気合いを入れる為、蒼汰は頬を両手でパチンっと叩いたが……右頬を負傷している事をすっかり忘れていた。
美空は部屋から出た後、ドアの壁にもたれて中で蒼汰が行っている奇行を全て音と声と叫び声だけで感じていた。
「何回も見ていいとは言ってないわよ。バカね」
蒼汰がベッドで土下座をして懇願してきた時。美空は自分の為にこんなにも必死になってくれる人がいる事の嬉しさと。衝動的に行動し、商売道具であるノートパソコンを投げようとした未熟な自分への怒りで、涙が込み上げてきていたから蒼汰に背を向けたのだ。
「いいわよ。納得するまで読み返して。その間、私も次の物語を作るから」
そう言うと美空は溢れる涙を拭ってスマホを取り出した。
「…もしもし、おにいちゃん。今から言う場所にパソコン一台持ってきて」
次の日の早朝。
カーテンを開けると陽の光が眩しかった。
一睡もせずに何回も読み返してみたが。結局、俺は何にも見つける事が出来なかった。でも、一つだけ再確認出来た事がある。それは…やっぱりHibari先生の作品は何回読んでも面白い。
部屋を出てリビングに向かうと。Hibari先生はテーブルの上に伏せて寝ていた。
起こさないようにそっと洗面所がある風呂場に向かうが、急に眠気が襲ってきて、半分夢の中な状態で風呂場のドアを開けた。
「なっ…か、か、風陰…」
ドアを開けると中では鳳が朝風呂に入る為、上の服を脱いだところだった。
蒼汰は半分夢の中にいたので、目の前にいる相手が鳳だと認識する事が出来なかった。
「お、おま、お前…」
(…なんだ?この小さい子は?迷子か?)
「…お母さんとお父さんとはぐれたの?」
「し、死ねッーーー!!」
鳳の叫び声で目を覚ました美空と小陰と蒼汰。
(…なんだ!?なんだ!?……ん?何で石川がいるだ?)
「…石川さん何してるの?」
「お、お前が、何し…て、るんだよ!」
「あ?俺?俺は…顔を洗いに来た」
そんな会話をしてるうちにお風呂場へとやってきた美空と小陰に蒼汰はこの後、たっぷり説教されました。
ソファーから顔だけ出して威嚇してくる石川さんの視線が気になるが。俺は朝食を済ませるとまた、机に齧りついた。
今日は土曜で明日は日曜。時間はたっぷりある。その間に何か…何か一つでも答えを見つけ出さないと。
日曜の夜。
「…ダメだぁー。何にも見つけられない…」
蒼汰はベッドへダイブし、仰向けの状態で頭を掻きむしって暴れだす。
……あれから約2時間の仮眠以外はずっと読み返しているが。まだ何も答えは見つけられない。読め返せば読み返すほど面白いのだが。ただそれだけ。
(……どうすりゃいいんだぁー)
「おにーちゃん。ご飯出来たよー」
そう言いながら小陰が部屋に入ってきた。
「小陰…部屋でたべ」
「ダメっ!ご飯は揃って食べるのが兄妹のルールでしょ!」
「…知ってますー。言ってみただけですぅー」
「ぜんぜん可愛くないよ?」
「………ご飯、食べますか」
「うん!」
一階へ向かい。俺の定位置に座ると。小陰がテーブルに次々と料理を並べていく。
「よしっ!食べよおにーちゃん」
「よしっ。いただきます」
「いただきます」
俺と小陰は料理を食べ始める。
今日の昼過ぎまで久瀬さんが家にいたから。小陰と二人でご飯を食べるのは久しぶりな気がするな。
久しぶりの兄妹での食事は、ここ数日間の張り詰めた緊張感を溶かして、何とも居心地が良かった。
「あれ?玄関からカギが開く音しない?」
「ん?俺が見てくるよ」
立ち上がって玄関に向かうとスーツ姿の女性がヒールを脱いでいるところだった。
「あれ?…かーさん!?」




