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第3話 不思議の少女

アオイは、少女といっしょに町の裏手にいた。

そこは広場になっているが、あまり人通りはなかった。


アオイは、さっき買った古着を着ていた。

そしてウデには、ガントレット型のウィザード・ギア。

大人用だったので、無理やりつけている。

大きすぎて、ヒジの方にはみ出していた。


「やっぱりちょっと大きいなぁ。でも、コインも一枚つけてくれたし、古着とギアでお得だよね。どう? かっこいい?」

「ふぅん、まぁそんなもんじゃない」


アオイはポーズをつけてかっこうつけたが、少女はぶっきらぼうに答える。


「よし、魔法を使ってみるよ」

「ダメって言われてなかったっけ?」

「そ、そうだけど……、ちょっとだけ。グリーズには言っちゃダメだよ? ……えっと、コインをセットして、イメージするんだっけ? で、『ファイア・ボール』っ! あれ? 出ない? ……『ファイア・ボール』っ!」


アオイの手から火がふき上がった。


「うわぁ、やった! すごい! ……って、え⁉︎ あ⁉︎ わ、うわああ⁉︎」


だが、その火はアオイの手に燃え移り、身体を上ってくる。

全身が真っ赤に燃え上がってしまうが、アオイにはもう止められない。


その時、女性の怒鳴り声がひびいた。


「何してんだっ! バカっ! 『アクア・ショット』!」

「わっ⁉︎」


アオイは頭から魔法の水をかけられ、水びたしになってしまう。

ゆっくりふり向くと、そこにいたのはグリーズだった。


「何してんだアオイ! なんでギア持ってんだ! だから、ダメだって言ったろ! 使うには、イメージの練習が必要なんだ。オレはオマエのためを思って……」


グリーズは、赤い肌をさらに赤くさせて本気でしかった。

だが、アオイはグリーズの顔を見ると、涙がボロボロとあふれてしまう。


「ごめん……、なさい……」


グリーズはびちょぬれのアオイを抱きしめた。

アオイは、身体の芯からふるえていた。

ほんの軽い火遊びのつもりだったのに、全身が燃えてしまったのだ。

そのおそろしさは、今まで感じたことのないほどのものだった。


「まったく、オマエは。身体はだいじょうぶか? 『来い来い』って声がするから、走ってきてみれば……。ダメだろ、一人でこんなところへ来て。さぁ、今日はもう宿に行くぞ。オレの魔法で手当てしてやるから」

「ごめんなさい……。あ、待って、あの子が……、あれ? いない?」

「あの子? だれのことだ?」

「え? ほら、あの子。馬車に乗ってた……」

「ん? 何を言ってるんだ、アオイ。馬車にはオマエしかいなかったろ?」

「え……」


あの少女の姿はどこにない。

森で出会った少女は、どうやらグリーズには見えていなかったようだ。


二人は宿屋に着くと、すぐに部屋に入った。

グリーズは、さっそくアオイをベッドにねかせ、回復の魔法をかける。


「『ヒール・スプリング』。……この魔法は、体力を回復させるだけで、ケガとかは無理なんだよ。幸い、火傷にはなってないし、一日休めばだいじょうぶだろう。まぁこれにこりたら、ギアはとうぶん使うなよ」


大ケガにはならなかったものの、アオイはすっかりこわくなってしまう。

さすがに、もう二度と魔法を使う気にはなれなかった。

そして、その日はそのままねむる。


「……あの子は、一体だれだったんだろう……」


疑問だけが残った。





朝起きて、アオイとグリーズは朝食をとった。

宿屋の一階は食堂で、たのめば好きなものが食べられるのだ。

それから二人は部屋に戻り、グリーズは出かける支度を始めた。


「昨日言ったけど、オレはギルドの仕事で魔物退治に行ってくるからな」

「だいじょうぶなの?」

「心配すんなって、オレの強さは知ってるだろ? 余裕さ。アオイはここで待っているんだ、今日はちゃんと休めよ。あとギアは……」

「うん、もう使わないよ……」

「そうだな、それがいい。じゃあ行ってくる。昼飯は宿にたのんであるから、あとで下で食べな。じゃあ行ってくる」

「うん、気をつけてね」


グリーズは、アオイの顔を心配そうに見て、それから仕事に行った。

アオイは部屋に一人残り、ギアを見つめていた。


「もう使わないの、それ」

「うわっ!」


少女だった。


「キ、キミは一体だれなの? グリーズには見えていないんだよね?」

「ふふ……、だれでしょう」

「もしかして……、ゆうれいじゃ……」

「なんだっていいじゃない。ねぇ、そうだ。異世界のこと聞かせてよ」


それから少女の質問ぜめが始まった。

だが、しばらくしゃべっていると、ノドがかわき、お腹も空いてきた。


「そういえば、お昼は下で食べろって言ってたな。キミも来る?」

「うん。でも、私はご飯食べないけどね」


アオイは、宿屋の食堂でご飯を食べ始める。

少女は、アオイが食べる様子をニコニコと見つめていた。


だが、その時、大人の男性が食堂に飛びこんできた。


「オイ、大変だ! 森の魔物の大量発生、どうやら『ギガント・トータス』が原因みたいだぞ! 見たやつがいるってよ! こっちに向かってるって!」

「なんでそんなのがここにいるんだよ! オ、オイ、にげた方がいいじゃねぇか?」


アオイは何のことか分からないが、とても危ない状況なのは分かる。


「ギガント・トータスって? キミは知ってる?」

「大きなカメ。それも、山のように大きな、ね。いつもは谷にいるんだけど。あ、そういえば、あのお姉さんの仕事も同じ方向ね。巻きこまれないといいけど」

「え……、ど、どうしよう」

「どうしようっていっても、アオイに何かできるわけでもないでしょ」

「そうだけど……」

「なら、助けに行く? あのギアを持って……。まぁ私はおすすめはしないけど。だって、アオイが行ったって……」


その時、アオイはすでに走っていた。

二階の部屋にもどり、ウィザード・ギアをにぎりしめる。


「何してるの? まさか、行くつもり?」

「ボクに何かができるとは思えないけど……。でも、グリーズはボクを助けてくれたから。グリーズに何かあったら、ボクは絶対後悔するから」

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