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第1話 魔法のコイン

目を覚ました時、(アオイ)の手には()()があった──────


手のひらに、すっぽりと入る『コイン』。

大きさは五百円玉くらい。

見たことのない絵がかいてある。


──────だれかの落とし物だろうか?



「コイン? ……え、あれ? ここ、なに……?」


しかし、それよりも、問題はここが()()かということ。

知らない森。そして、知らないコイン。

一体、自分の身に何が起こっているのか。

その時のアオイには、何も分からなかった。





アオイは、知らない森を見まわす。

少しはだ寒いが、あたりは明るく、朝か昼のようだ。

けれど、この場所にはまったく見覚えがない。

とりあえず、アオイは大きな声でさけんでみる。


「あの、だれか! ……だれかいませんかっ!」


しかし、声は少しこだまするだけで、深い森に消えていく。

アオイは、胸が少しだけゾワゾワと寒くなってしまう。

はっきり覚えているのは、小学校からの下校のときまで。

友達と何かをしていたがよく覚えていない。

アオイは少し考えて、まず持ち物をたしかめてみることにした。


「えっと、ランドセルは? ……あ! おサイフ! お兄ちゃんからもらった……、うそ……。何にもない……」


だが、何もない。

ランドセルだけでなく、ポケットの中もすべて。

家のカギや小銭入れ、ハンカチやティッシュすらも全部だ。


無くしてしまったなんて言ったら、お母さんはおこるだろう。

勉強のノートだって、最初からやり直しになってしまう。

それに、小銭入れは10歳の誕生日にプレゼントされたもの。

お兄ちゃんがバイト代で買ってくれた大事なものだった。

泣いたらダメだと分かっていても、なみだが出てくる。

アオイは土の上に座り、ひざをかかえて小さくなってしまう。


持っているのはただひとつ。

不思議な『コイン』。

数字や文字は書かれておらず、表と裏に同じ絵がかいてある。

コインにかかれた絵は、美しい大人の女性だ。

ただ不思議と人間ではないような気がした。

それをグッとにぎりしめた。


その時だ。


「こんにちわ」

「えっ⁉︎ ……あ、こ、こんにちわ……」


アオイは急に話しかけられ、びくんと身体を縮こませる。

声をかけてきたのは、知らない少女だった。





少女は、アオイと同じ年ごろだろうか。

長い髪がサラサラとそよ風にゆれている。

切れ長の目に細い身体の、とてもきれいな子だ。


「平気?」

「へ?」

「だって、泣いてるし」

「……な、泣いてない」

「ふぅん……、いいけど。これからどうするの?」

「これから……?」


急に現れた不思議な少女は、アオイに何度も質問をする。

アオイはどう答えてよいか困っていると、少女がぐいっと手を引いた。


「こっち。ねぇ、こっち来て」

「あ、ちょっと!」


アオイはなんだかよく分からないまま、少女に連れられていく。

だが、その先にあったのは、大きな動くかたまり。


「ごふーっ、ごふぅーっ」



大きく荒い息をはきながら、()()がふり返る──────


とてつもなく大きい『イノシシ』。

四つ足で立っているが、その背中は大人よりも高い。

そして、大人の腕ほどもある、大きなキバが四本生えている。

真っ赤な目が、ギョロリとにらみつけてきた。


──────アオイはすぐに理解する、ありえない生物だと。



「……あ、ああ……」


あまりのことに声が出ない。

足がすくんでしまい、にげることもできない。

だが、少女はにっこりと笑った。


「だいじょうぶ、もうすぐ来るから」

「え?」


少女の言葉はよく分からない。

だが、こうしている間にもイノシシがつっこんでくる。

その体当たりをくらえば、大けがどころか死ぬかもしれない。

アオイは身体にぐっと力が入り、思わず目をつぶってしまう。


その時、森の間を何かが走ってきた。

そして、女性の声が聞こえた。


「『スリップ・ヴェール』……っ!」


ものすごい音がして、地面がゆれた。

おそるおそる目を開けると、知らない女性が立っている。

大人の女性で、物語の戦士のように身体がとても大きい。

革製の鎧を着て、手には大きな金属の板を持つ。

その板は剣のように見えるが、とにかく大きい。

なにせ女性の背たけほどもあるものだ。


その女性は、ちらりとアオイを見た。


「オイ、ガキンチョ。怪我ぁないか?」

「え? ……あ、はい、だいじょうぶです」

「なら、ちっと待ってな。すぐ、終わらせっからよ」


いつの間にか、イノシシはアオイの左後ろでひっくり返っていた。

おそらく、イノシシの体当たりをその剣で受け流したのだ。

どう考えても人間技ではない。

そして、彼女は本当にただの人間ではなかった。

彼女の額には小さな角が生えており、肌が赤みがかっている。

アオイの頭の中に、『赤鬼』という言葉がうかぶ。


「『ヘビィ・バイト』……っ!」


女性はつぶやきながら、大きな剣をふり回した。

どこからともなく水が現れ、剣にまとわりついていく。

女性の足元の地面がしずみ、ものすごい音をたてヒビが入った。

もしかすると、女性の剣はとんでもない重さになっているのかもしれない。


「……魔法……?」


アオイは、目の前の光景が信じられなかった。

それは、『魔法』という以外に説明しようがないのだ。


そして、女性は、イノシシの体当たりに剣を打ち下ろした。

剣は見事にイノシシの頭をとらえ、体当たりはつぶされてしまう。

そのままイノシシは地面にめり込んだ。

すると、パッと光がはじけ、イノシシは光と一緒に消失した。

そのあと、何か小さな()()が落ちる。


──────それは一枚の『コイン』だった。

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