俺、生まれ変わったら【フィギュア】になったけど…
……俺は、フィギュア。
1/8スケール、塗装済みのレジンキャスト製、販売価格19800円。
昔、俺は人間だった。
名前は忘れたが、手先の器用な男だった。
何らかの事故で命を落としたとき、俺は願った。
「生まれ変わったら、うっとりするような出来のフィギュアになりたい」
そう願ったのには、理由がある。
俺の作るフィギュアはとにかく完成度がハンパなくて、作った本人でさえ魅入ってしまうレベルだったのだ。
顔も、名前も、姿も、何一つ覚えていないのに…ワンフェス会場に乗り込んでいく高揚感だけは忘れられなかった。
神原型師と言われて狼狽えた事と、自分の作品が劣化コピーされて売られているのを知って激高した事だけが、いつまでも心に残っていた。
願いが叶ったのだと喜んだ瞬間は、確かにあった。
だが、しかし。
―――良いなあ、おいらもこんな作品が作れるようになりたい…
俺を購入したのは、アニメファンの青年だった。
俺は願った。
「一刻も早く、生まれ変わりたい」
そう願ってしまうのは、当然である。
青年は俺を眺めては将来を夢見るだけで、いつまでたっても知識を得ようとしたり技術を向上させるための努力をせず…我慢がならなかった。
美しい造型を眺めているだけでは何一つ成長することなど出来ないのに、売れたらフィギュア御殿を建てるんだと息巻いていて…地獄でしかない。
恐ろしい願いをしてしまった事と、願いが叶ってしまった事が、いつまでも心をえぐり続けた。
……願いが叶ってしまって、もう…どれくらい、たっただろう?
―――なんかココ、ハゲてるじゃん!つか、すげえ指紋ついてる、減額だな!
オタク仲間がやってきて、小さな塗装ハゲを指摘した。
ろくに手も洗わず素手でケースの中から取り出しては気のすむまで眺めていたせいで、俺の価値は下がっていた。
俺は願った。
「専門家に依頼して、再塗装してくれ」
そう願ったのには、理由があった。
レジンキットはきっちりヤスリをかけてプライマー処理をすれば、また美しく塗装し直すことが可能だからだ。
青年は塗装業者を探し始めたが、依頼料が高すぎてバイト代だけでは到底支払えそうになく…イラついていた。
俺という芸術作品が現実に物体として目の前に存在しているのに、二次元データでしかないただのアプリゲームのイラスト補完を優先するため…金を出し渋られている事が心をえぐり続けている。
……お気に入りアニメのアプリゲームへの課金をやめて、その金で依頼すればいい
―――そうだ、今こそ…自分の力を試す時じゃね?!
青年は、フィギュア塗装をするための道具を5000円ほど出して買い揃えた。
どんな流れになるのか事前に学習せず、実践に移すための練習もせず、初心者向けの塗装入門サイトを見ながら…乱暴に240番のヤスリをかけ始めた。
俺の願いも…むなしく。
ざらざらになった俺の表面に、コテコテにアクリルミニを乗せて…はみ出ただの、筆が悪いだのと叫んでいる。
全色買い揃えたアクリルミニは肌色と黒色のビンのふたしか開けない状態でゴミ箱に突っ込まれ、筆は真っ二つにへし折られて押し込まれ、その上にまだ塗料がべたついている俺が投げ込まれた。
ああ、次に・・・生まれ変わったならば。
おれは・・・
・・・
こちらのお話とわずかにリンクしております(*'ω'*)
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なお、2024/2月の投稿作品はすべて生まれ変わりをテーマにしています。
他にもおかしなモノに生まれ変わってしまった人のお話を書いているので、気が向いたら見てね!!
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