しまった!
揺蕩う夢から目を覚ませば、柔らかな朝の光が室内に溢れていた。淡く白い光はまるで天国のようで、眩しさに幾度か瞬きをして起き上がる。
なんて爽やかな目覚めだ。頭はスッキリしているし、体も軽い。ここ最近、休みもなく働いていた疲労感が吹き飛んでいる。
ああ、素晴らしい。
鼻歌混じりに服を着替えて、コーヒーを淹れる。立ち昇る香りを堪能しながら、テーブルにカップを置いて届いた新聞を手に取る。
いつのも椅子に腰掛け、新聞を広げてコーヒーを口にする。
その時、目に飛び込んできた新聞の日付に口に入っていたコーヒーを全て吹き出してしまった。
「あ、え、うそ、嘘だああああ!!」
両手で新聞の日付を何度読んでも変わらない。
十二月二十五日。
なんてことだ。クリスマスになっているじゃないか。
「まさか、寝坊したのか!!」
二十四日は大事な予定があった。どうしても外せない大事な、大切な用事だ。
慌てて寝室に戻れば、ベッドの近くの棚の上に昨夜着るはずだった服が綺麗に折り畳まれて置かれていた。
誰よりもカッコよくキメる為に選んだ一張羅だ。ダイエットを頑張った成果がベルトの穴ひとつ分だ。
プレゼントだって、昨日のために色んな人にそれとなく聞いたり、過去のプレゼントから分析したり、友達にも意見を聞いて悩んで悩んで決めたのに。
乗り物だって、長年の愛車を磨いて艶を出したし、夜景を見る準備も万端だった。急足で玄関を出ると、そこにあるはずの愛車がない。庭の杭に黄色い紙が貼られヒラヒラと風に舞っていた。手にしてみれば『駐車違反』の文字がデカデカと書かれている。
「そんな……、うそだ、だれか、嘘だと言ってくれーー!!」
頭を抱えて絶叫する。
心は絶望感でいっぱいだ。滂沱の涙を流しながら切に夢であってくれと願った。
はっ!と目を開けると薄暗い室内が目に入った。
ドッドッドと早鐘を打っている心臓を服の上から押さえる。目をキョロキョロと動かす。
待て。いま、何時だ?いや、何日だ。
起き上がると狙ったようにそばに置いていたスマホからアラームが鳴った。震える手でアラームを止めて、日時を確認すれば表示されたのは十二月二十四日十八時ちょうどだった。
崩れ落ちるようにベッドへ倒れ込む。安堵に涙が浮かんだ。
「夢………ゆめ、だった。はは、良かった。夢だ、夢だった」
両手で頬をパチンと叩けばちゃんと痛い。
良かった。本当に、良かった。
そうと決まれば準備だ。勢いよく起き上がり、棚の上に置いた一張羅を手に取って着替える。全体を見回して、おかしなところがないか確認すれば、ちゃんとベルトの穴ひとつ分締まっていた。体調もバッチリだ。
淹れたてのコーヒーを堪能しつつ、準備していた軽食を食べる。付けたテレビ番組はどこもクリスマスが溢れていて、幸せそうだった。
さあ、行こう。
厳選したプレゼントを手に、玄関を出ると長年の愛車を引くトナカイたちが準備万端と待っていた。どの子たちもやる気に満ち溢れている。
「さあ、みんな、出発だ」
たくさんの子供たちの夢を守るため、愛車のソリに乗り込み、真冬の空へと駆け出したのだった。
おわり