1話目! 転生、完了
『俺、転生したいっす』
イケオジは、俺の話をゆっくり聞いてくれた。
さらに今思いだすとイタイとしか言えないような、たくさんの要素を盛り込んでも、ニコニコと優しく頷いては微笑んでくれた。
なんていいやつなんだイケオジ!!!最高だったよイケオジ!!!
その優しさ、今生じゃお手本にさせてもらいます!!!
そんな回想はさておいて。
「知らない天井だ」
今度も味気のない真っ白天井だ。・・いやよく見るとなんかうにゃってるようにも?
まぁいいか。
硬い床から立ち上がり、自分の姿を確認するために鏡の前へ行く。
「おぉ・・!」
誰?この人。かっこかわいい・・・って俺か。
姿ヨシ!
声は、詰まってる感じが無くなって、空気が綺麗に喉から抜けていく感じがする。
ひょっとして声も楽しめる?
「あ、あ〜・・あ〜、あ〜」
・・おぉ!
「あ〜、あ〜」
おぉ!
「あ〜、あ〜・・・ゴホッ、ゴホッ・・無理しすぎたか」
にしてもこの喉、音域広いな?
なんだこの喉・・なんだ、俺の喉か・・
ふむ・・
「イケオジィィ!!やっぱアンタ最高だよぉっ!!ォホッゴホッ!・・ぅえぇ・・」
流石に喉痛いか・・
ここまでやってくれるとは・・さすがイケオジ・・・やっぱイケオジって最強なんやなって。
うぇ・・それにしても喉痛いな。水・・ってか家のことなんも知らね。水飲むついでに歩き回るか。
〜〜転生したオタクのTANSAKUタイム〜〜
わかったこと。
この家、めっちゃ広い。豪邸も豪邸。
なに?家にプールは聞いたことあっても、家に道場とか弓道場とかは一般家庭じゃ聞いたことないのよ。
弓道場から見えたけどうちの家の塀の見た目頑丈すぎでしょ。
なに?一般家庭の塀に有刺鉄線とか巻き付かないのよ。監獄かと思ったわ。
部屋数、多い。ベッド数、両手じゃ足りない。
・・誰用?・・・俺用?
最初に起きた部屋。
機材めっちゃ置いてある。機械とかよくわからんけど、説明書がデスクに置いてあった。
・・わかりやすかった。これでパソコンの使い方もかんぺき〜。・・まだ起動させてないけど。
スマホと説明書とは別に、イケオジからの手紙もあった。
つまり、イケオジは神様ってことよ。っっぱイケオジなんよ。
「それで、目下の問題はこれだよな」
デスクのイケオジからの手紙、内容は割愛させてもらうとして、問題なのは最後に書かれた文章。
『この世界で生きる覚悟を決めたら、隣のスマホでこの番号に電話してください。
【007-xxx-yyy】政府特務課男性保護担当職員
あ、スマホのパスワードは1901です。』
「生きる覚悟、ね」
正直な話、自分で望んだ世界で、自分の望んだ『自分』で、生きていくことに少し恐怖している部分もある。
この世界はもう、この体はもう、妄想の中じゃなくて俺が生きる現実なんだっていう実感が、家の中を見回って、少しずつ少しずつ湧いて出てきている。
俺は、察しの悪すぎる人間じゃない。
有刺鉄線の意味も、ありえん数のベッドの理由も、ちゃんとわかってる。
だから、少し怖い。
俺は、『貞操逆転世界』に本当に来てしまったのだ。
そしてきっと、この実感は、この恐怖は、この番号に電話をかけたときから猛スピードで膨らんでいくんだって、わかってる。
でも。
だけど。
『俺、転生したいっす』
あのとき決めた覚悟は、そんな恐怖じゃ揺らがない。
それになにより、俺はこんなにも『悪くない』ってドキドキしてる。ワクワクしてる!
大きく深呼吸をする。
画面をタップする指先が震えながら動く。
発信音が鳴る。
『はい、男子保護課の佐藤です!』
「もしもし、桜川蒼夢という者ですが」