プロローグ
目を覚ます。
目に入るのは、昨日寝る前に見上げたものとは異なる真っ白い壁。
これは、ひょっとして・・
「・・・知らない天井だ」
・・言えたじゃねぇか。人生で言いたいセリフランキング10位以内には入る『知らない天井だ』。
まさか俺が言う日が来るなんてな・・
「おはようございます、信心深いお方よ」
「うわぁっ!」
なんてヤロウだ・・俺の後ろに立っていながら一切気配がしなかったぜ・・
とか言って、なんの鍛錬もしてないし気づけなくて当たり前なんだけど。
いやそれよりも、こいつの顔、かっけぇ・・」
「ありがとうございます、こういうのを人の世では『いけおじ』と言うのでしょう?」
「っと、声に出てました?」
「はい、それはもうバッチリと」
振り向いた俺の目に入った声の主は、執事服に身を包んだ白ひげをはやしたイケオジだった。
あぶねぇ・・俺が女だったら間違いなく惚れてたね。
「それでここは?というか、信心深いって?」
「説明いたしましょう。ですがその前に」
イケオジがパチンッと指を鳴らすと、目の前にはティーセットが椅子やテーブルとともに現れる。
か、かっけぇ・・・
「立ち話もなんですし、座ってお聞きください。もちろん紅茶や菓子は好きに食べてくださって大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
〜〜イケオジによるKANPEKIな説明タイム〜〜
「なるほど、つまり家の前にあるあの小さな祠を毎日拝んでた俺になにかしてあげたいと」
ふむ、打算で拝んでただけだが、実際にこういう事が起きると嬉しいな。
・・にしてもこのお茶もお菓子も美味いな。どっから出したんだこのイケオジ・・・
「そのとおりです。なんでも叶えて差し上げますよ」
「ゴフッ!な、なんでも?」
あ、あぶね〜・・
危うく、笑顔で頷いてくれたイケオジに紅茶ぶっかけるとこだったぜ・・
「・・え、そういうことならイケオジってあのお地蔵さんなの?」
イケオジは困ったように苦笑いをする。
クソっ!そんな行動も絵になるっ!
「えっと、なんと言いましょうか。そうだと言える部分もあれば、言えない部分もあるような・・」
「よくわからんが複雑ってことっすね?それなら無理しなくて大丈夫っすよ!」
どうせ素性がわかっても、俺だったらイケオジって呼ぶ気がするし。
それなら最初から聞くなって思うけど、気になるものは声に出して聞いたって仕方ないよなぁ!?
「ありがとうございます。・・それで、叶えたい願いはありますか?」
叶えたい願い、ね。
俺は別に裕福でも無ければ、特別顔が良いわけでもないし、なにか特筆すべき才能があるわけでもない。
いわゆる『凡人』である。
・・いやまぁ、オタクの妄想は捗るところがあるが、特筆したってなんにもならない、っていうかそれは別に才能じゃないからな。
いやしかし待てよ俺。
オタク・・・妄想・・・
いつだって憧れる世界・・・
「決めました」
覚悟を決めた俺にイケオジは優しく微笑み、続きを促す。
「俺、転生したいっす」