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3,優くんもう朝チュン!?

202×年3月下旬、水野優12歳


 朝、スズメの軽やかなさえずりとカラスの力強い鳴き声が外から聞こえる。その者たちに起こされる形で優は目を覚ました。

 カーテンから僅かな光が漏れ、朝なのかと優は気づく。そして布団の中で凝り固まった体をほぐすために寝返りをうつ。隣の布団には愛川がいる。一緒に住んでいることに慣れてきているつもりだったが愛川の変わり続ける姿にどうしても優は毎朝驚かされていた。

 昨夜も髪の毛を提供し、とうとう自分と同い年くらい、身長は超えられてしまった。

 優ぐらいの世代では女の子の方が成長が早く、優よりも身長が高い子は小学校の頃にも何人かいた。そのことを優は学校で習っていた、頭では分かっていたが、置いていかれるような感覚がなにより嫌だった。

 しかし愛川の寝顔を見るとそれを忘れるくらいの愛らしさがあった。可愛かった。リラックスしきっているのだろう、むにゃむにゃと何か寝言ように発しながら表情は穏やか。そんな愛川の表情に、先ほどまで少し険しかった優の表情も和らいだ。


(どんな夢を見てるんだろ?)


 むにゃむにゃ言う愛川をまじまじと見つめていると、目が合ってしまった。愛川が起きた。

 気恥ずかしい、優は今すぐにでも顔を逸らしたがったが今ここで変に動けばからかわれてしまうと優は思った。愛川は昨夜のように優のことをにまにましながらからかってくる時がある。愛川と話すことはすごく楽しいのだが、あの表情の時の愛川と話すのは恥ずかしかった。


「おはよう」


 ほどなくして愛川からあいさつが飛んできた。寝ていた時と同じく穏やかに。そんな愛川に優はますます恥ずかしくなりながらも、


「……おはようございます」


 身体のあちこちが恥ずかしさからくるのだろうか、むずむずした。それを誤魔化しながら愛川と合ってしまった目を逸らさずにあいさつを返した。

 そんな優の態度に気づいたのだろうか、愛川の顔はにまにまに変化していき、


「優くん、私の顔に何かついていましたか?」

「い、いえ!ついていないですよ!」

「そう?ならなんでこっちを見ていたのかな~?」

「い、いや!それはその……愛川さんがむにゃむにゃ寝言を言っていたので……どんな夢を見ているのか、気になって……」

「そうだったの?むにゃむにゃ言っていたの?なんか夢見ていたっけ?」


 愛川はそう言うと思い出すために視線を自分の眉間の方に上げた。

 優は早く身体を起こしたいと思っていた。こうして二人で寝たきりで部屋は薄暗く狭いリビングで、その環境が優の羞恥ゲージをドンドン上昇させていた。

 愛川はまた優に視線を戻し、


「うーんと、優くんなんの夢を見ていたとおもう?」

「ふえ?!クイズですか?!」

「そう、せっかくだから当てて貰おうと思って」

「え、えーと……何かを食べている夢、とか?」

「何食べていたと思う?」

「え?!なにを……うーんと、そのケ、ケーキ、とか?」

「いいねー!そうね~この時代のケーキ食べてみたいわ。今度一緒に食べましょう!」

「は、はい!あれ?夢ってケーキじゃなかったですか?」

「夢はね、思い出せかったの。だからなんでもよかったのよ」

「え、えー……!」

「だからケーキを食べていたっていうことにします。そろそろ起きましょ!」


 愛川はにまにまな表情から最後はにかむような笑顔を見せた。終始翻弄された優は最後にクリティカルダメージをもらった。

 愛川は布団を畳み、カーテンを開ける。シャーという音は朝に聞くと心地いい。優も続くように身体を起こした。愛川がクローゼットを開ける。そこに各々の布団と敷布団をしまう。そしてリビングの隅に追いやれていた座卓を中央に戻す。優の住んでいるリビングはフローリング、そのままではひんやり冷たいので大きめのカーペットを這わせている。そのため座卓を引きずることはできないので愛川と二人で持ち上げて運んだ。

 そうして朝ごはんの準備が始まる。愛川はそのまま作り置きの味噌汁が入っている小鍋に火をつける。優は洗顔と歯磨きを始める。これがいつもの週間になったいた。



 朝食をとり、朝の支度を済ませ、優は座卓で勉強前の休憩をしていた。

 優は小学校の頃はそこそこな成績だったが今後のためにも学力は一定以上、できるならパーフェクトに高めなければと思っていた。

 対面に同じく休憩している愛川が思い出したように優に話しかける。


「そういえば優くんはどんな夢見たことある?覚えているのある?」


 優はいじっていたスマホを座卓に置き、


「えっと……遊園地のジェットコースターがレールから外れて落ちる夢を見たことがあります」

「え、なにそれめちゃくちゃ怖いじゃん。随分具体的に覚えているのね」

「怖い夢とかはよく覚えていますね。えっと……自分の住んでいる家が骨組みだけになっているのとか、内容は忘れましたけどドロボー!って叫びながら目覚めたことなんかあります」

「ツッコミが追いつかない!骨組みの自宅とか怖すぎ!外からモロバレじゃん!ヒョロヒョロじゃん!あと自分の声で起きるやつね~。叫んだことはないけど、ん?今寝言言った?みたいな形で目を覚ますことはあるわね~」


 愛川は優の言葉に全力でリアクションをする。優はその光景が今の愛川の見た目もあって可愛いなと、笑った。


「怖い夢ね~……あ、富士山が噴火する夢とか見たことあるわよ!」

「なんでそんな具体的なんですか?!」


 今後は優がリアクションをする。


「初日の出あるじゃない?それの中継でよく富士山映るじゃない、多分それで見たのよ!なんで噴火しちゃったのかは分からないけど、恐ろしすぎるわ……」

「そうですね……具体的すぎるのめっちゃ怖いです、夢だけでお願いしたいです」

「楽しい嬉しい夢は見たことある?私はね……なんだろう?覚えてないかも」


 愛川は顔に手を当てながらめいいっぱい身体をかしげる。優も思い出そうとするが、


「そうですね。僕もパッと出るのはないです」

「やっぱそうよね~……だったらこれから覚えちゃえばいいんじゃない?」

「そんな簡単に見れますかね?」

「大丈夫よ!きっと見られるわ!優くんには見て欲しいな!」


 そう愛川ははにかむ。優はその表情にどこか切なさを感じたが、楽しい夢を思い出せなかった優自身がそう見させたのか、分からなかった。



「もう少しで山頂だね!優くん頑張ろう!」


 愛川は優に手を差し伸べる。

 薄くなる酸素、暗がりの峠、重い脚、優は心が折れそうになっていた。そんなときに愛川の優しい表情が目に入る。今までの蓄積疲労は取れることはないが幾分か軽くなった気がした。そして愛川の差し伸べた手を取る。


「はぁ、はぁ……愛川さんは本当に元気ですね」

「だってもうすぐご来光だよ!エベレストから見られるなんて最高じゃない!」


 周りには雪、冷たい風がこれでもかと吹いているのにも関わらず、愛川はスカート衣装で元気に優を引っ張る。


「まさか巡り巡ってこんなところまでこれちゃうなんて夢みたいね~!」


 愛川の何気ない語りかけで優は重い足を一歩、確実に進めることができた。


「はぁ、はぁ……つ、ついた!」

「やったよ!優くん!おめでとうー!」


 山頂につくやいなや優は愛川に思いっきり抱きしめられた。この寒い山、彼女の体温をより鮮明に感じ取ることができた。少し照れくささを覚えつつも、


(愛川さんと一緒に来れたから地球イチ高い山を登ることができた!)


 優がそう考えているも束の間、


「優くん!優くん!ご来光だよ!」


 愛川が指さす方を確認する。太陽がゆっくりと顔を出し始めていた。高い山から見る、淀んだ空気が邪魔することなく、雲もない、クリアな太陽が優たちを照らし始める。


「凄い綺麗だよ!凄い!凄い!」


 愛川は優の胸の中でぴょんぴょんと跳ねながら、ご来光の感想を優に教えていた。

 しかし、


「あれ?身体が溶ける!アチー!」


 愛川の身体が太陽の光を吸収しきれず、少しずつ小さくなっていた。


「愛川さぁぁん!」



「はっ!」


 優はカバっと上半身を起こした。先ほど明るくなっていた外は真っ暗で狭い部屋に変わっていた。


(ゆ、夢を見てしまった!)


 今は何時か机に置いてあるデジタル時計を確認する。夜中の3時だった。

 体が少し汗ばんでいたので冷ますついでにトイレにと水分補給をそーっと済ます。その後一息つき布団に戻る。


(なんだか凄い夢を見てしまったな……今からまた寝られるかな?)


 そう思いながら優は横になる。ふと愛川の様子が気になり、寝返りし確認する。愛川は昨日同様むにゃむにゃと小さく寝言を発していた。その表情は穏やかだった。


(というか日中に話したことまんま夢になるなんて……エベレストって世界一高い山だなーって習ったことあったけど。まさか富士山から進化するなんて……そういえば愛川さんスカートだったし!エベレストでスカートは絶対大変なことになる!でもご来光かー。ちょっと見てみたいかもなー。エベレストは絶対無理だけど……あ、そういえば……)


 優は愛川の顔を見ながら先ほどの夢を思い出していた。そして愛川に抱きつかれていた場面にたどり着く。まだ夢から覚めたばかりなので記憶は鮮明、情景をそのまま思い出し優は顔を真っ赤にする。


(夢って、自分の願望とかけっこう出るって……僕ってそんなに愛川さんに抱きしめられたかったの?!)


 優は異姓に対して、興味を持ったことがなかった。自分のことで精一杯だった。確かに小学校のクラスメイトでは可愛い子や人気な子がいたがだからといって魅かれることはなかった。女の子からお遊びに誘われることは何回かあったが基本的に断っていた。急に好意を向かられるのが怖かったからだ。

 しかし愛川はそんな女子とは違う。結果的に最初から距離が近いというのはあるかもしれないが、まだ一緒に暮らしてひと月も経っていないというのに心地良さがあった。

 今は優と同い年の見た目になっているが、愛川本人も言っていた通り大人の女性なのだろうと思っている。雰囲気、言葉遣い、佇まいが同い年のそれとは違う。だからだろうかお姉さんのような、そんな暖かさがあった。

 愛川は優を世話してくれる。それが凄く嬉しかった。理由はまだはっきりしたことは聞いていないが、物覚えがついてから初めて家族の暖かみのようなものを感じられた。

 そういう意味でスキンシップがしたい、優の脳のどこかに思っていたことなのだろう。そして夢で自覚してしまった。愛川の顔を見るといつまでも考えてしまいそうだったので、優は急いで反対方向に寝返る。


(夢の中だったけど、あったかかったな……)


 恥ずかしくはあったが、楽しい夢だったな、優は心が温まるの感じながらゆっくりと意識を閉じた。

 そして翌朝、優はあまりの熟睡で寝坊しかけ愛川にからかわれたのだった。

鴨鍋ねぎま:夢、皆さまはどんな夢が印象的に覚えていますか?私は覚えていたのをストーリーに書いたのであれが夢の記憶です。ジェットコースターから滑落する夢も、自宅が骨組みになっていたことも、山が噴火する夢も見たことがあります。あ、でもお空飛んでいる夢も一時期よく見ていました、凄く面白い夢なのですが決まって脳が疲弊しています。熟睡させてー!

 優くんと愛川さん、これからもっと二人で色んなところにいく夢をたくさん見てね!

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