1,トイレに幼女がいました
「行ってきます」
いつも返っていた返事はない。
10年、長い間この部屋を借りていた。今日でこの場所を去る。
忘れものはどこにもない。
優は新たな住処に歩き始めた。
202×年3月、水野優12歳
「えっ……?」
夜中、水野優は尿意で目が覚め、トイレのドアを開けた。
一人暮らしを始めたこの部屋に、3・4歳くらいだろうか小さな女の子が便座のフタの上でうつらうつらと首を揺らしながら寝ていた。黒髪のショート、服装は赤い吊りスカートをはいており白いシャツを着ている。学校の怪談話で出てきそうないかにもな見た目と容姿だった。
便座に座ってはいたがしっかり服は着ている。
(え?どこから来たの?!)
優は辺りを確認するがそもそもトイレに窓があるマンションではない。鍵はしっかりロックをかけたし、幼女がピッキングするとは思えない。部屋の窓を確認するがカーテンは揺れておらず空いた形跡はどこにも無かった。
(え?!どういうことなの!?)
優はますます混乱し、あわあわする。そんな優に感ずいた幼女は目を覚ました。
優と目が会う。
優はそーっと何もなかったように後ずさりしながらトイレのドアを閉めた。部屋の電気はつけていないため暗い。床を見つめ、冷や汗をかきながら状況を整理しようと目論んだがそんな束の間トイレのドアが空く。
「おなかへった」
便座から飛び降り、優のパジャマ服をつまみながら舌足らずで幼女は言った。
成長期をまだ迎えていない優よりも遥かに小さいその子は、迷うことなく優の目を見つめて来た。
優はトイレを済ませしっかり手を洗い、作り置きしていたご飯をレンチンした。ご飯を手に取りリビングに向かう。
6畳しかないリビング、中央に座卓がありそれを囲うようにちょこんと座っている幼女。今か今かと体を揺らしている。座卓の上に乗るようなことはせずお利口だった。
「ど、どうぞ」
優は恐る恐るお椀を幼女の前に置く。箸では掴みづらいと思い、フォークを手渡す。
「ありがとう!」
幼女はフォークをすっと取り、勢い良くご飯にがっついた。といっても口は小さいため食べるスピードは遅い。
(幽霊では……ないよね……)
いったいどうやって優の住んでいるこの部屋に侵入したのか、幼女を訝しげに見つめる。幼女はご飯に夢中で優の視線は気にしていないようだった。
(触られたし、実体がある。だったらどうやって入ってきたの?もしかして隠れていてトイレに行った?)
隠れる場所、6畳しかないリビングにはそんなところが無い。あるとすれば片隅に収納できるクローゼット。
優は立ち上がりクローゼットを確認する。特に漁られたいじられた所はなく、今日締まった通りの物がそこにある。
次にキッチンの下を確認しに移動する。怪しい所はない。
キッチン上の棚を台座に乗って開ける。ここにはまだ収納していないのでクリア。そもそも幼女がこの棚に侵入できるわけがないし、降りられるわけがなかった。
(お風呂は今日入ったし、洗濯機は……入るのか?ベッドはそもそも敷布団だから潜れるわけないし……)
優が頭を悩ませているとき、
「たべた!ごちそうさま!」
リビングから元気な声が聞こえてきた。
優はお椀をしっかり洗ったあと、幼女と向き合うように座った。そしておそるおそる、
「君はどうやってきたの?」
一番聞きたかったことを優は投げかける。幼女は優をまじまじと見つめる。
(え?何?もしかして言葉が伝わなかったのかな?)
どう伝え直せばいいものか優は頭を悩ませると幼女は、
「あなたのかみ、ちからがある。ほしい」
「……へ?」
舌足らずで予期せぬことを言われた優は間抜けた声を出してしまった。幼女はそんな優にしっかり伝わるように今度はジェスチャーをしながら、
「あなたのかみほしいの」
「髪?」
ご飯の次は髪を幼女は要求してきていた。優はわけがわからないがとりあえず、左手で一本髪を抜いて、そのまま幼女に渡す。散髪してきたばかりで少し短めだ。
幼女は渡された髪の毛を見つめ、そして胸の上の鎖骨の間くらいに突っ込ませた。
(え?!)
髪の毛が吸い込まれるようにシュルシュルと幼女の中に消えていった。それを見た優は当然驚く。
それも束の間今度は幼女が眩しくて直視できないくらいに発光し始める。
優は手を目の前にかざし、目は硬く閉ざす。
数秒後、優はおそるおそる目を開ける。そして驚愕する。
先ほどまで3・4歳くらいの幼女が一回り成長し大きくなっていた。6歳くらいだろうか、服装も変わりスカートはそのままだったが肩ひもが無くなり、白いシャツから無地の目に優しい色のTシャツになった。髪も少し伸びている。
「これでたしょうははなせるかな?」
声も成長が見られ、まだ幼さはあるが舌足らずな話し方ではなくなった。
優は怒涛の展開に脳がついていけず、放心していた。
「ん?きいてる?」
女の子はポカーンとしている優に訝しげるように顔を寄せる。だいぶ近づいたところで優は我に返った。
「き、聞いています!」
「ん、よかった。わたしはあいかわうたこっていうの」
女の子、うたこは言い終わると部屋を見渡し、窓際にある勉強机からメモ帳と鉛筆を取ってきた。
愛川詩子、鉛筆に力が伝わりにくいのか少しふにゃふにゃした字であったが優は読むことができた。
「あなたのなまえは?」
「えっと……優、水野優、です」
優は愛川が書いた名前の隣に丁寧に自分の名前を書いた。
「みずのくんね。それでなにからはなしたらいいかしら?」
「とりあえず愛川さんはどうやって僕の部屋に入ったんですか?!」
「わたしはもともとこのへやにいたのよ。優くんが入ってきたのよ」
「ど、どういうことですか?」
「つまりね、このへやにすんでいたのよ」
優は話が飲み込めず、首を傾げる。愛川もどう伝えたらいいか考えているようだった。
「こういうのなんていったらいいのかな……?あ!ゆうれい!わたしはゆうれいなのよ!ゆうれいでこのへやにずっとすんでいたの!」
「はい?!」
優は驚くが、すぐに違和感を覚え冷静になる。
「幽霊……でも愛川さんは実体がありますよ?」
「そうなのよ!おなかもへるの!どうしてっておもったの!ただね、みずのくんきょうはじめてこのへやにきたでしょ?」
「そうですね。今日越してきて荷物も整理しました」
優は愛川に言ったように、今日この部屋に引っ越した。6畳のリビング、廊下の横にあるキッチン、その反対にある小部屋なトイレの部屋とお風呂の部屋、部屋の間に洗濯機が置けるスペースもある。先ほどのクローゼットも含めて一人暮らし用のマンション、オートロックこそつけられているが普通のマンション。
叔父と一緒に住んでいることになっている。しかし事情があり優ひとりだ。週に2・3回は叔父はここに来るらしいが住めない事情があるのだ。
引っ越しは叔父に手伝ってもらった。叔父の友人も加わり、成長期前の優ではとうていひとりでは何日もかかる作業を一日で終わらせてもらった。そして叔父たちからコンビニで買ったカレーと米袋1kgを渡された。早速新品の炊飯器を使いご飯を何杯か作っていた。優は、まさか他の人に食べさせることになるとは思わなかった。
今日の出来事を思い出している優に、愛川はじりじりと体を前に動かしながら、
「それでまたこのへやにひとがきたのかーってトイレからながめていたの」
「眺めていたんですか?!」
「そううえからねー。ばっちりみちゃいました!」
日中の用足しを優は思い出し、顔からプシューと言わんばかりに顔を真っ赤にした。まさか女の子にこのような辱しめを受けるは思わなかった。
そんな優を笑いながら愛川は話を続ける。
「こんどはこどもかーっておもっていつものようにねたの。そしておきたらみずのくんのまえにいたの。じったい、じゅうりょくをひさしぶりにかんじたの!じぶんでもびっくり!」
愛川はよほど実体があることが嬉しいのだろう。目をキラキラさせながら体いっぱいでジェスチャーしながら優に伝えた。そして愛川は一呼吸置き、
「とりあえずこれからよろしくね!そうそう!おそらくわたしじばくれいってゆうれいだから!」
満面の純粋な笑みで愛川は優に笑った。
(じばくれい?地縛霊……?!ていうか一緒に住むの?!)
優は、本か何かで聞いた地縛霊という意味を思い出し、そして愛川の言葉を理解しようと試みたが何か良くないことのようではと脳が訴え、フリーズし再びポカーンとしてしまった。
こうして越してきたマンションの地縛霊の女の子・愛川詩子を実体化させてしまった水野優少年の一人暮らしにならない生活が始まります!
こんにちは、こんばんは、鴨鍋ねぎまと申します。
最後まで見ていただきありがとうございます。この作品は『もっと軽い気持ちでなろう小説を書いて作業スピードを向上させたい』という思いから始めました。もっと作品をしっかり作りたいとも思いますが慎重になりすぎるとスピードが出せず、モチベにも影響します。そんな時気軽に書ける作品をつくってしまってもっとモチベ上げちゃおうぜ★という感じです。
そのため内容もゆる~く、書きたいように書いていく、殴り書きのような感じが強めになりますが作者共々緩い気持ちで見ていただけたら幸いです。そのためもしかしたら誤字脱字も多いかもしれませんが愛川お姉ちゃんように教えてください!
あ、愛川お姉ちゃんまだバリバリに幼女ですが、これから大きくなりますからね!確かに見た目は子供頭脳は大人!な女の子からお世話されるのはそれはそれで……捗りますね!(他意はない
それだと露骨な2次創作になりますのでこの後書きで留めておくようにしますw
おっと脱線が過ぎましたね……この作品はオネショタをメインに書きたいように内容もゆる~く書いていきますのでよろしくお願いいたします!
愛川お姉ちゃん、何歳なんだろうなー?