表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Whity!!!!!  作者: とわの はやみ
「行こうよ!甲子園!」
4/4

第3話

たどり着いた、音楽室前。

分厚い扉の向こうから、荒々しいバンドの演奏が漏れ聞こえてくる。


「あ、あの、本当に入って大丈夫なんですか……?」


漏れ聞こえてくる僅かな音でも気圧されたのか、月島ちゃんが震える声で聞いてきた。


「大丈夫だいじょーぶ、知り合いだし」


「……お前の知り合い、ロクな奴いねえイメージあんだけど」


「むっ。言い方。ちょっとユニークな子達だけどいい子たちばっかりですー」


わざとらしくむくれて見せながら、ドアノブに手をかける。

重たい扉を、ぐいっと開いた。


開けた瞬間、漏れ聞こえていた音がダイレクトに耳に入ってくる。

けたたましく鳴るドラム、ノイズ混じりのギター、お腹に響くベース。

そして何より、絶叫するような金切り声のボーカル。

それを演奏しているのは、がらんどうの音楽室のセンターに堂々と陣取る制服姿の三人組。

そう、この子達が私の知り合い。カッコイイでしょ?

…と思って横を見たら、舞は眉を顰め月島ちゃんは思わず耳を塞いでいた。


私は慣れっこ、演奏しているバンドに駆け寄って最前列の特等席で見届ける。


大きいベースをかき鳴らし、髪を振り乱しながら叫び歌っているのは水月みづききららちゃん。

その後ろ、他のメンバーの様子を伺いながら慣れた手さばきでドラムを叩いているのが水月くららちゃん。

スピーカーに片足をのっけて、俯きがちに一心不乱にギターを弾いているのが水月けららちゃん。


そう。これが私の「アテ」、我が紅陵寺女子高名物の水月三姉妹だ。

三年のきららちゃん、二年のくららちゃん、一年のけららちゃん。

名前もそうなんだけど、ある理由で有名なんだ。


「おい、こいつら……」


音楽にかき消されそうになりながらも舞が呟く。


「そう。この子達」


「……コイツらか。“名物助っ人”の……」


また眉を顰める舞と、耳を塞いで目をぱちくりさせている月島ちゃん。

そう、私は「名物助っ人」をアテにしてきたの。


目の前で演奏をしているこの子達は、本当は軽音部じゃない。帰宅部だ。

ただ、きららちゃんがあまりにも色んなことに興味がありすぎて色んな部活に顔を出しては妹のくららちゃんを巻き込んでは助っ人を繰り返してて。

なまじどんなジャンルでも一定の成績を残すから、色んな部活に引っ張りだこなんだ。

テニス部に始まり、陸上部。演劇部。バレー部。将棋部。放送部……そしてこの間までは軽音部。

そりゃ、それだけ色んな大会に出たら名物にもなるよね。

一番下のけららちゃんが入学してから水月三姉妹って呼び方までついてもう大騒ぎ。

……とにかく。野球部だって引き受けてくれるはず。


じゃーん……とシンバルが鳴って、演奏が終わる。

残るのは静寂と、きーんとした耳鳴り。私はこの感覚、嫌いじゃない。


「すごーい!すごーい!」


心から拍手と歓声を送る。遅れて、月島ちゃんもぎこちなく拍手を送っていた。


「おー?琴川と天城じゃん。どうしたどうした、ひょっとして入部希望か?☆」


さっきまで怒鳴り声みたいな歌声を上げていたきららちゃんが、アイドルみたいな鼻にかかった声で話しかけてくる。


「姉さん、そもそも私たち軽音部じゃないからね」


ドラムスティックをくるくる回しながら突っ込むのはくららちゃん。


「……で?センパイら何しに来はったんですの?」


流暢な関西弁で問いかけながら、胡散臭そうな目でこちらを睨んでくるけららちゃん。

……が、月島ちゃんを見て目を丸くする。


「あン?アンタ……ウチと同じクラスの」


「あっ、はい。月島です……」


「なんや、お嬢様がウチらに何の用やねん」


「ううっ……」


また圧を掛けられてびくっとなる月島ちゃん。何、ひょっとして前世でなんか悪いことでもしたの?


「ほら、月島ちゃん。頑張って勧誘してみよ?」


その月島ちゃんをそそのかす。がんばれ、一年生。


「えっ、えっ、私ですか!?」


慌てる月島ちゃんに、けららちゃんの声が重なる。


「他の部活の勧誘ならお断りやで、もう」


「え?」


音楽の余韻でちょっとだけはしゃいでいる私を凍らせるには、充分な一言だった。


「ごめんね、もう“助っ人”はやめることにしたんだ」


くららちゃんが申し訳なさそうに眉を下げた。

……え?ちょっと待って。聞いてない。それ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ