汚れたボール、拾い上げて
「ちょっと、優太ー!優太ー!」
「なに、姉ちゃん」
「ボール片付けてよ、邪魔なんだけど」
「へいへい」
リビングで交わされる、家庭内のありふれた会話。
姉ちゃん、と言われた少女が床にごろごろと乱雑に置かれたボール達、そのひとつを拾い上げる。
野球ボール。
毎回延長だのなんだので見たかった映画とかドラマが見られなくなる、あの野球。
世の男どもはこれを打ったり投げたり、見る方はそれでやいのやいのと一喜一憂。
ふつふつと色々思い出している私は、琴川みずほ。どこにでもいるふつうの女子高生。
めでたく次の春から三年生、受験も控えてます。いえい。
その弟が、その「野球好きな人達」の一味だ。
中学で部活までやってるんだから筋金入り。
しかしまあそんなに面白いのかな、野球って。
拾い上げたそのボールは汚れで随分とくすんでいる。
でも、窓から差し込む日光に照らされてやけに輝いて。
手のひらの中で輝くボールを、握る。
革のつややかな感触。ぎゅ。ぎゅ。何回も握り直す。
冬の寒気で冷たくなったそのボールを、じっと見つめた。
んー、なんか……
悪くないかも?
試しに、弟に放ってみる。えい。
「わっ、わっ!?何、何!?」
びっくりしながらもキャッチして見せた弟。流石は野球部。
「あんたがさっさと片付けないからでしょーよ」
「悪かったって……にしても割といい球投げるね」
「ほんと?」
「ほんとほんと。コントロール良かったから取れたし、今の」
「ふーん……」
野球。野球かあ。ふーん。
コントロールいいんだ、私。へーえ。
そういえば、ちょっと前に話題になってたっけ。
野球部に選手として入った女子高生。
プロの女子野球がどうだのってニュースも聞いたな、そういえば。
ふーん。そうかあ。
──いい事思いついた。