2話‐4
動揺する男達目掛けてフード男は駆け出し、抵抗をものともせずに次々と薙ぎ倒していく。
しかい、仲間の半数を倒されたところで黒猫が動き、フード男が振るった手刀を受け止める。
「貴方、何者です? ブレイズライダーの仲間ですか?」
フード男は質問に答えず黒猫の手を振り払ってその場から飛び退き、俺の隣に着地する。
「こんな無能と一緒にしないでくれ。僕ならもっと上手くやれる」
「仲間じゃねえよ。そもそも俺は、こいつの目的すら知らねえよ」
……こいつ、随分と失礼な事を言ってくれるな。
「……まあ、貴方が何者かなどというのはどうでもいいことです。ただ、私たちの邪魔をしようというのなら排除するまでです」
「奇遇だね。ボクも君達を排除しようと思っていた所だ」
どうやら今のところ、フード男の目的は俺と一緒らしい。
上手くいけば共闘できるかもしれない。
「……そうですか。ならば、貴方も抵抗をやめなさい。人質に危害を加えられたくなければね」
フード男は黒猫の言葉を聞くと構えを解いて腕を下げ、先程の俺のように抵抗をやめる……フリをしているのに、俺は気付く。
フード男の顔は強盗犯と人質の方へと向いており、下げられた掌の周囲には白い冷気が渦巻いている。
……こいつ、まさか!
フード男が動いて掌を強盗犯と人質に翳すと同時に、俺は人質の元へと駆け出し始める。
フード男の掌から冷気の渦が放たれ、強盗犯と人質へ迫る。
このまま走るだけじゃ間に合わない。
俺は炎を放って冷気の渦を相殺し、一刻も早く人質の元へ辿り着く為にジェット噴射で更にスピードを上げる。
「……う、動きやが――」
強盗犯が拳銃の引き金にかけていた指に力を込めようとするが、それよりも早く拳銃を持つ腕を思い切り蹴り上げ、拳銃を弾き飛ばす。
強盗犯は蹴られた事によって痛む腕をもう片方の腕で押さえこみ、支えの無くなった人質は地面に倒れこんでいく。
地面に倒れこむ前に人質を抱え込むと、痛みに悶えている強盗犯を蹴り飛ばして安全を確保する。
「こ、この――」
「何しやがる! 人質がいたんだぞ!」
黒猫が何かを言おうとするが俺はそれ遮り、フード男に向けて叫ぶ。
「……強盗犯を裁く為に必要な犠牲だ。死にはしないから、問題ない」
「問題大有りだ!」
フード男の発した言葉で頭に血が昇り思わず攻撃しそうになるが、何とか堪える。
……今は人質の安全と、強盗犯を捕まえる事だけ考えろ。
人質をその場に降ろし、守る様に強盗犯達と対峙する。
「フフフ。皆さん、私達の邪魔をするとどうなるか、愚か者どもに思い知らせてあげましょう!」
黒猫の号令と共に、強盗犯が俺とフード男に襲い掛かる。
一番最初に殴りかかってきた強盗犯の拳を受け流し、カウンターに拳を叩きこみ返す。
倒れる仲間の姿を目にしても、厄介な事に強盗犯達は怯むことなく立ち向かってくる。
攻撃を仕掛けてくる強盗犯達を次々と返り討ちにしていくが、背後にいる人質を巻き込まない為にあまり派手な事はできず、決定打を与える事ができない。
いくら倒しても、他の奴等の相手をしている間に起き上がってキリがない。
……流石の俺も少し疲れてきたな。
「ううん……ここは?」
背後から聞こえた声に振り向くと、気絶していた人質がようやく目を覚まし、きょろきょろと辺りを見渡している姿が視界に映る。
「隙ありだ!」
「しまっ――ぐっ」
人質に気を取られてしまった俺に、強盗犯が殴り掛かってくる。
「……そ、そうだ! 確かワンオペ中に強盗に入られて――うわぁ!?」
強盗犯の攻撃を避けきれず、地面を転がる俺の姿を見てコンビニ店員はぎょっとした顔をする。
「……目が覚めたんなら早く逃げろ。あいつらは俺が食い止めてやる」
「は、はいぃ!」
よろめきながら立ち上がる俺の言葉を聞くと、コンビニ店員はすぐさま逃げ出し始める。
……そうだ、それでいい。
危ないと思ったらすぐ逃げる。
俺も本当ならそうしたいところだ。
「逃がすか!」
だけど俺はヒーローで、そうも言ってられない。
強盗犯の一人が逃げるコンビニ店員を追いかけようとするが、行く手を塞ぐように炎の壁が噴き上がる。
「逃がすかって言うのはこっちの台詞。お前らの相手は俺だ!」
立ち止まった強盗犯へと近づき、炎を纏った脚で蹴り飛ばす。
地面を転がり倒れる強盗犯の様子を見ていると、背後に気配を感じて振り返る。
「捕まえた! さあ、お前ら! 俺が押さえているからこいつに仕返ししてやれ!」
背後から俺を羽交い絞めにした強盗犯がそう叫ぶと、周りの強盗犯達がゆっくりと俺に近づいてくる。
……よし、そのまま近くまで来い。
「さあて、まずは俺から」
強盗犯の一人が俺の前に来た瞬間、その顎を目掛けて思い切り蹴り上げる。
油断していたところにクリーンヒットして地面に仰向けに倒れていく強盗犯を尻目に、もう片方の足でも地面を蹴り、宙に浮いた両足から炎を放ち爆発させ、天に向けて大きく脚を上げる。
遠心力によって羽交い絞めにしていた強盗犯を振り払い、宙を舞って奴等から少し離れた場所へと着地する。
「まだまだ、これからが――」
「皆さん! 撤退しますよ!」
突如として黒猫が叫ぶと、強盗犯達は倒れた仲間を担ぎ上げ、次々と逃げ出していく。
「逃がす訳ないだろ!」
俺と同じように強盗犯の相手をしていたフード男が強盗犯達を追いかけようとするが、俺はフード男の腕を掴んで制止する。
「僕の邪魔をする気か!」
「まだ遠いがサイレンの音が聞こえてる。深追いするとお前が警察に捕まるぞ。……それに、奴等が罠を張ってるかもしれない」
恐らくは黒猫もサイレンの音に気がついて逃げ出したのだろう。
フード男は舌打ちすると、俺の腕を振り払って立ち去ろうとする。
「ちょっと待てよ」
俺がフード男を呼び止めると、奴は意外にも素直に立ち止まって此方に振り返る。
「……何? 早く逃げないと警察に捕まるんだろ?」
「何で人質がいるのに攻撃を仕掛けた? 無事だったからよかったものの、怪我したらどうするつもりだった! ヒーローとして失格だぞ!」
……俺だって状況によっては人質を危険に晒してしまうかもしれないが、故意に攻撃に巻き込もうとはしない。
ひょっとしたらフード男に何か考えがあったのかもしれないが、俺が見た限りそのような素振りは見受けられなかった。
「……ハハハ、馬鹿な事を言う。僕がヒーローだって? 君、僕の事をそんな風に思っていたのか?」
フード男は乾いた笑いの後で、自身がヒーローではないと言い放つ。
……まあ、薄々そうじゃないかとは思っていたさ。
「ヒーローじゃないのなら、お前は何者だ? 何の為に犯罪者を追っている?」
「何の為かって、そんなの決まってる。君みたいに無能なヒーローや警察の代わりに、僕があいつ等に罰を……裁きを与える為だ。……君がボクの邪魔をするというのなら、容赦しない」
フード男はそう言うと、地面を蹴って走り出す。
「待て! まだ話は終わってない!」
再びフード男を呼び止めるが、今度は振り返る事はない。
……人間の出せる速さとは思えないスピードでフード男は立ち去り、どうやったのか途中で宙に浮いて建物の向こうへと消えていくのを、俺はただ眺める事しかできなかった。
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