表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/31

2話‐3

 「その口振りは、まるで俺が現れるのがわかってたみたいじゃないか」


 三人目の男が気絶したのを確認してから解放してやり次の獲物に狙いを定めようとするが、距離をとられてしまっておりすぐには対応できそうにない。

 ……小柄な男は仲間が目の前でやられているというのにもかかわらず、動揺する素振りを見せない。


「貴方はこの辺りで活躍しているヒーロー。ならば、この辺りで強盗していれば遭遇するというのは自明の理です」


「……こんなにぞろぞろと仲間を引き連れながらコンビニ強盗なんて、普通はしないよな。最初から俺が目的だな? 何か恨みでも買ったか?」


 何が理由か皆目見当はつかないが、最初から俺を狙っていたのだろう。


「昨日の銀行強盗から唯一帰還できた仲間から聞きました。貴方に邪魔をされた所為で、昨日の銀行強盗に失敗したと。しかも、陽動作戦まで潰してくれた様じゃないですか」


 ……どう聞いても逆恨みだが、理由自体は普通にあった。

 それにしてもしくじった。

 どいつが逃げ出したかわからないが、やはり全員念入りに動けないようにしておくべきだった。


「それに一昨日の銀行強盗だって態々放火までして気を引いたというのに、逃走中に何者かによって邪魔をされました。きっとあなたの仕業です!」


 ちょっと待て。


「昨日の件は確かに俺の仕業だったけど、一昨日の件は知らねえよ! ……というか、放火したのはお前らか!」


 関係ない事まで俺のせいにされるのは非常に心外だが、そんな事はどうでもいい。

 強盗だけでなく放火にまで手を染めているとは、こいつらは危険すぎる。

 逃がすわけにはいかない。


「結局、貴方が邪魔している事には変わりません。この『黒猫』が率いる『黒猫強盗団』に歯向かった事、後悔させてあげましょう」


 なんで微妙に可愛げがある名前なんだよ。

 ……しかし、気にくわない。


「後悔させてあげる? その言葉、そっくりそのまま返してやる!」


 叫ぶと同時に駆け出し、黒猫へと殴りかかる。

 態々リーダーが出てきてくれたのだから、頭をさっさと潰して組織ごと壊滅させてやる。

 ……しかし、黒猫は俺の拳をするりと躱す。

 動揺を隠しながらすかさず蹴りを放って追撃を仕掛けるが、拳と同様に空を切る。

 この男、黒猫という名前に違わず身のこなしがかなり軽い。


「この……ちょこまかと!」


 次々と攻撃を仕掛けるが黒猫は余裕綽々といった態度で、繰り出した攻撃全てを躱されてしまう。


「次は此方がいかせてもらいます! ニャアオッ!」


 奇妙な掛け声とともに黒猫が俺に向けて正拳突きを放ち、俺はそれを受け止める。

 黒猫はすぐさま拳を引き、素早い突きと蹴りの連打を繰り出してくる。

 俺はその全てを何とか躱し、あるいは受け止める事には成功するが、一瞬でも気を抜いていればまともにくらってしまっていただろう。

 ……しかし、スピードは一級品だが、拳も蹴りも威力は軽い。

 これなら例えまともにくらっていたとしても、大したダメージは負わないだろう。


「全然力がこもってないな。鍛え方が足りないんじゃないのか?」


 ……しかし、正面から立ち向かっていては埒が明かないのは事実。

 あまり時間をかけていては野次馬が集まってくるし、警察も駆けつけてきて面倒な事になる。

 ……警察と協力できればいいのだが、人によっては俺にあまりいい印象を抱いていない人もいるし、そもそも俺は組織として逮捕する対象に含まれているだろう。

 そんな事情を鑑みて短期決戦を仕掛ける為に自身と黒猫の周囲に炎の壁を噴き上がらせ、身動きを封じて殴りかかる。


「動きを封じたつもりでしょうが、そうはいきません!」


 黒猫はその場で飛び上がり、炎の壁を飛び越えて脱出する。

 意味を成さなくなった炎の壁を消すと、黒猫は余裕の様子で此方を見つめている。


「軽口を叩くわりに随分と焦っているようですが、私だけを見ていて大丈夫ですか?」


 ……そんな事、黒猫に言われるまでも無い。

 背後に迫っていた強盗犯が振るう警棒のような武器を躱し、肘打ちを叩きこんで怯んだ所を蹴り飛ばす。

 その瞬間、俺の視界に三人の強盗犯が銃を取り出している様子が映る。

 俺に攻撃する為に近寄ってきていた強盗犯と組み合うと同時に、此方に向けられた銃口が火を噴く。

 迫る光弾から身を守る為に組み合っていた強盗犯を盾にして、光弾が着弾し痛みに呻く強盗犯を地面に叩きつける。


「仲間相手に容赦ねえな!」


 叫ぶと同時に大地を蹴って、跳躍する。

 強盗犯が宙を舞う俺に銃の照準を向けようとするが、もう遅い。

 周囲に炎を放って強盗犯達の目を眩まし、拳を振りかぶって降下すると、自身の放った炎の中へと身を投じて突き進む。

 目の前が赤く染まるが、すぐに視界が開けて強盗犯の姿を捉える。

 そのまま拳を振り下ろし、一番近くにいた強盗犯を殴り倒す。

 ……超能力のお蔭で、俺は火傷することが無い。

 その為に今のような無茶な特攻もできるが、それでも熱いものは熱い。

 全身から汗が噴き出て、どっと疲れが押し寄せるが、すぐさま気を取り直して此方に銃を向けている強盗犯へと迫る。


「危ないから、このおもちゃは没収だ!」


 強盗犯の持っていた銃を強引に奪い取って放り投げ、そのままの勢いで強盗犯を殴り飛ばす。


「この――うわっ!?」


 そして、背後から俺を狙っていた強盗犯の銃を目掛けて爆発を起こし、銃を弾き飛ばすと同時に火球を放つ。

 強盗犯に火球が炸裂し、周囲が黒煙に包まれる。

 ……黒煙が晴れた後、予想外な事に強盗犯は未だに立っていた……が、すぐに地面へ倒れこむ。


「……中々やりますね」


 仲間が次々と倒されていく光景に、黒猫は目を丸くして呟く。


「踏んでる場数が違うんだ。そう簡単に倒せると思うなよ」


 ヒーローとして活動し始めたのは今年の四月からで、一応鍛えていたとはいえ戦いに関しては素人だった。

 最初は超能力を使いこなすのも一苦労だったけど、それでも毎日戦い続ければ嫌でも慣れてくる。

 習うより慣れろとはよく言ったものだ。


「フフフ、そうですか。ならば、これならどうです?」


「動くな! ブレイズライダー! こいつがどうなってもいいのか!」


 俺の言葉を聞いた黒猫が不敵に笑いながらそう言うと、コンビニの方から声が響く。

 声のした方へ振り向くとそこにはエナジーピストルを持った強盗犯が一人と、人質にされて拳銃を突き付けられているコンビニ店員の姿があった。


「ひ、人質!? 卑怯だぞ!」


「私達は無法者の強盗団。卑怯もへったくれもありません」


 言われてみればその通りだと一瞬だけ納得する……いや、今はそんな場合ではない。

 人質の様子を観察すると意識は無いようだが目立った外傷も無く、どうやら気絶しているだけのようだ。


「……おい、人質に手を出すなよ。手を出したら痛い目にあわせてやる! わかったら、大人しく人質を解放しな!」


「くっ……」


 拳に炎を宿しながら吼えた俺に、人質をとっている強盗犯が怯む。


「そこ、怯まない! 主導権を握っているのは私達の方ですよ!」


「……か、考えてみればそうだ! なんでお前が脅してくるんだ!」


 黒猫の一喝によって冷静になった強盗犯は、自身が優位な立場にある事を思い出す。

 ……あのまま押し切れていればよかったけど、そう簡単にはいかないか。


「さあ、人質に危害を加えられたくなければ、炎を消して抵抗をやめなさい」


 ……俺は黙って黒猫の言う通りに拳に宿した炎を消し、抵抗の意志を示さないように掌を開いて両手を上げる。

 さて、どうやって人質を救出しようか?

 大人しく従いながらも隙を伺うが、統率はとれているらしく隙が無い。


「さあ、さっきのお返しを――」


「残念だけど、それは無理だ」


 文字通り絶体絶命の状況に陥ったその時、強盗犯の声を遮って少年の声が響き、周囲が白い霧……いや、冷気に包まれる。


「……出やがったか」

俺が呟いた次の瞬間、どうやったのかはわからないが頭上からフード男が降ってきた。

今回の話を読んでいただきありがとうございます。


ブクマ・ポイント・感想をもらえれば筆者のモチベーションが上がるので非常にありがたいです。


次回は来週日曜日の昼十二時投稿なので、読んでもらえたら励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 今日もすばらしい躍動感の戦闘場面でした。黒猫、人となりと名前のギャップが素敵です。人質を取られて逆転される展開も良かったです。 [一言] 主人公のピンチにライバル登場!熱い展開ですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ