2話‐1
「み、美和さん? これは、その……」
……これは不味い、絶対に正体がバレた。
そもそも、何でこんな人気の無い場所に美和さんがいるんだよ!
二郎相手にやろうとしたみたいにどつき倒して記憶を失くすのを祈るなんて手段、美和さんに使える訳無いし、どう誤魔化す!?
「フフフ、安心してください、火走君。私、皆には黙っておくです!」
慌てる俺の様子を見てすべてを察したであろう美和さんは、自信ありげな顔でそう宣言する。
……彼女が信用できるか人間かはわからないけど、この場は彼女の言葉を信じる他ないか。
「そ、そうか。そうして貰えるなら助かるよ。……と、ところで美和さんは何でこんな場所にいたんだ?」
「それはですね、この辺りにブレイズライダー様が現れたと聞いて野次馬しにきたです。そしたらブレイズライダー様と強盗犯が路地裏に入っていったと耳にしたのでこの辺りを探していたら火走君にあったのです」
……説明に僅かばかり違和感を感じるが、そんな事はどうでもいい。
「強盗犯がいるとわかっててこんな人通りが少ない場所に一人で来たのか!? それがどれだけ危険か、わかってないのか!」
「大丈夫です。だって、ブレイズライダー様が近くにいるってわかってるから、強盗犯なんてブレイズライダー様の手にかかれば指先一つでダウンです! ……というか、火走君には言われたくないです」
俺に過剰な期待を抱いているようだが、流石に指先一つで相手するのは無理がある。
……いや、そんな事よりも先程抱いた違和感が、俺の中で疑念へと変わっていく。
「……美和さん、俺が何でここにいたのかわかる?」
「そんなの、私と同じに決まってるです。火走君もブレイズライダー様のファン。……それも、コスプレをしてしまう位の大ファンだから、ブレイズライダー様の後を追ってここまで来たんです!」
……俺の今の格好とこの状況で、どうしてその結論に至れる!?
いや、そう勘違いしてくれるのは願ったりかなったりなんだが、どういう思考回路してるんだ!
唖然とする俺をよそに、美和さんは一人で喋り続ける。
「実を言えば、ほんの一瞬だけ火走君がブレイズライダー様の正体では無いのかと思ったです。ですが、それはないなとすぐに気付いたです。だって、あのブレイズライダー様の素顔が火走君みたいにさえない面してる訳ないです!」
「……うん、そうだね」
俺は何で自分のファンを自称する女の子にディスられているんだ。
……俺の顔、そんなに冴えない面してるか?
美形ではないにしても、特段不細工ではないと思うのだが。
「そしてブレイズライダー様のファンという割に、火走君は一条君の話を興味無さそうに聞いているです。つまり、自分がヒーローオタクという事を隠しているです! ……安心してくださいです。私は口が堅いから、無暗に噂を広めたりしないです!」
「……うん。そうだね、ありがとう」
自信ありげな様子の美和さんに、俺は気の抜けた返事を返す事しかできない。
「感謝するといいです!」
美和さんはそう言い、えへんと胸を張る。
……結果として正体がバレていなくて良かったんだけど、なんだかなあ。
「……美和さん、少し後ろを向いてもらってていい? 着替えたいから」
美和さんに頼み込んで後ろを向いてもらい、スーツから制服に素早く着替える。
さて、このまま直接帰ってもいいけど……。
「美和さん、家はどの辺り? もう遅いから家まで送るよ」
流石に夜遅くの路地裏に女の子を一人で放置する訳にはいかない。
正直な話、美和さんに関わると碌でも無い事になりそうだが、置いて帰って彼女の身に何かあっては寝覚めが悪すぎるし、それはもうヒーローではない。
「……送り狼です?」
……ハハハ、こやつめ。
「何を人聞きの悪い事を言ってるんだ!? こんな場所に女の子一人放置したらどうなるかわからないから、安全な場所まで送るってだけだ!」
確かに俺の言葉だけを聞くと勘違いするのも仕方ないかもしれない。
しかし、この辺りの治安はあまり良くない……いや、最近は治安が悪いと言い切っても良いのは事実。
下心無し、百パーセントの善意で送ってあげようというのに、言うに事欠いて送り狼呼ばわりは流石に俺も怒らざるをえない。
「冗談です。……流石にもうブレイズライダー様もいないでしょうし、お言葉に甘えさせてもらいますです」
「……そうして貰えると俺も助かる。とりあえず表通りまで出よう。そうすれば一安心だ」
美和さんと一緒に表通りを目指して歩き始める。
……まだまだ休むことはできなさそうだ。
「――というのが昨日、お前との連絡後に起きた出来事だ。美和さんを送った後、ようやく家に帰り付いてすぐに寝てしまったから連絡できなかったんだよ。悪いな、二郎」
翌日の教室。
昨晩、銀行強盗の対応に行くと連絡してから音信不通になった俺の事を随分心配していた二郎に、連絡を絶ってからの事のあらましを伝え終える。
「それはまた、随分と大変だったな。……ショウ、そろそろ顔バレ対策を講じた方が良いんじゃないか? その内、本当に取り返しのつかない事になるぜ?」
「そうだよなぁ。何か対策しないとな」
二郎の言う通り、今までは正体がバレかけても何とかなってきたが、毎度そう上手くいくとも限らない……いや、上手くいかない可能性の方が高い。
「まあ、それはおいおい考えていくとしてだ。二郎、さっきの話に出てきたフード男について何か知ってるか? 似たような超能力を使うヒーローとかいないか?」
目下の方針はフード男の目的と、強盗犯……いや、この街の犯罪者に武器を供給している組織について調べる事だ。
武器を密造してる奴等は俺が調べるしかないとして、フード男に関しては俺よりもよくニュースを見ている二郎の方が詳しいだろう。
「お前の足元を凍らせて身動きを取れなくした奴か。……何人か似たような能力のヒーローはいるけど、ここらへんが活動範囲の奴は俺が知る限りいないな」
「そうか。奴の目的を知る為の手掛かりが欲しかったんだけど、そう上手くはいかないか」
……いくらニュースをよく見ているとはいえ、二郎は只の一般人。
情報を期待した俺が間違いだったか。
「目的なら、何となくだけどわかるかも」
「……マジ?」
思わぬ返事に虚をつかれ、ただ聞き返す事しかできない。
「一昨日に起きた車が凍結した事件、憶えてるよな? 手口が似てるし、多分そいつの仕業じゃないかと思うんだよ。それで少し調べてわかったんだけど、事件の被害者は全員強盗の容疑で逮捕されたらしい」
「そういやそんな事件もあったな。で? それがどうしたんだよ?」
……二郎が何を言いたいのかよくわからない。
「昨日の情報と合わせて考えると、お前と同じく最近活動し始めた新人ヒーローなんじゃないのか? フード男が危害を加えた相手はお前を除いて全員犯罪者だ」
「そういやあいつ、『罪を犯した奴に自分が罰を与える』……みたいな事を言ってたな。……そういう事なのか?」
確かに合点はいくのだが、どうにも腑に落ちない。
言葉にできない何かが、俺に奴をヒーローと呼ぶのを躊躇わせる。
「あくまで俺の推論だからな。実際は本人に聞いてみないと――」
「火走君達、何の話してるです? またヒーローの話です?」
二郎が喋っている最中、唐突に美和さんが割り込み話しかけてきた。
……野郎二人が話している最中に割り込んでくるとは、中々物怖じしない子だな。
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