1話‐3
「さて、ちょっと危ないから離れてろよ。……まあ、聞こえちゃないか」
独り言をつぶやきながら右拳に炎を灯し、その炎を勢いよく噴射させて現金輸送車の天井に向ける。
バチバチという音と激しく散る火花に怯む事無く天井を溶断して穴をあけ、現金輸送車の中に侵入する。
……現金輸送車の中では現金の入っていたであろう空のケースや、現金を詰め替えたであろう鞄が散乱しており、運転席や助手席に座っていた奴とは別の男が、怪しげな機械を使って何故か輸送車の床に穴をあけようとしている真っ最中だった。
「で、出やがったな!」
男は此方に気付くと近くに置いてあったエナジーライフルを持って構えようとするが、俺は素早くライフルをひったくると銃床で男を殴りつけて気絶させる。
「気付くのが中々早かったけど、何でだ?」
「上でバチバチうるさくしてたら嫌でも気付く!」
声のした方を振り返ると、助手席に座っていた男が座席を乗り越えて此方に手を伸ばす姿が視界に入る。
「だろうな!」
伸ばされた手を掴んで此方に引き寄せながらライフルを振りかぶり、先程の男と同じように気絶させようとする。
「うわっと!?」
その瞬間、輸送車が大きく揺れて、助手席の男に下敷きにされる形で一緒に床に倒れこんでしまう。
「畜生! ポリ公が体当たりしかけてきやがった!」
「これでもう逃げられねえな! ざまあ――」
倒れた拍子に運よく俺を下敷きにできた男は起き上がると、ニヤリと笑って拳を振り上げる。
……しかし、男の拳が振り降ろされる事はなかった。
車内が再び大きく揺れ、バランスを崩した男は頭に壁をぶつけて俺の上で昏倒する。
「これでどうだ! ざまあみやがれ!」
どうやら運転席の男がパトカーに体当たりをやり返したようだ。
正直自分たちが輸送車を強奪しなければパトカーに追われる事も無かったと思うのだが、心内にしまっておこう。
俺は溜息を一つ吐くと、気絶している男を押しのけて床に落ちていたライフルを手に取る。
「そっちはどうだ? 生意気なヒーローをたお……し……」
「ブレーキを踏んでゆっくり減速しろ。従わなくてもいいけど、その場合はお仲間の銃が火を噴くだけだ」
運転席の男が背後の様子に気付くと同時に、ライフルを突き付けながら恐喝する。
「わ、わかった……」
男は意気消沈した様子でそう言うとブレーキを踏み、輸送車を減速させていく。
「こ、これでいい――」
輸送車が完全に停止した所で、俺は男の首を背後から締め上げて気絶させる。
さて、後は警察に捕まらないように脱出だ。
床で伸びている男達を脇に除けると、車内の広さを確かめる。
……よし、これならバイクを元の大きさに戻せる。
先程空中で回収したバイクを取り出し床に置くと、バイクが小さくなっている時に用いる圧縮装置のリモコンを取り出してバイクを元の大きさに戻し、バイクに跨ってエンジンを回して、扉が開くのを待つ。
「突入する――うわっ!?」
外の警官達が車両後部の扉を開くと同時に、アクセルを全開にして輸送車から飛び出す。
驚いて腰を抜かす警官達を尻目にその場から走り去りながら、二郎へと通話を繋げる。
「こっちは片付いた。銀行強盗の方はどうなってる?」
『無事だったか。強盗犯はまだ現場から逃走してないみたいだ。……一応銀行の場所は教えるけどさ、無茶はするなよ』
二郎はそう言うと、強盗の起きている銀行の住所を伝えてくれる。
「忠告は留めておく。じゃあな」
手早く連絡を済ませて連戦を気遣う二郎との通話を切ると、目的の銀行へとバイクを走らせた。
「よし! 現金を詰め込んだな! さっさとずらかるぞ!」
銀行に近づくと、正面出入り口から覆面を付けた強盗犯達が肩から大きな鞄を下げて入り口から出てくるのが視界に入る。
「まあそう慌てんな。ずらかる前に俺の相手をしてくれよ!」
バイクを降りて回収した俺は、全員が外に出たであろうタイミングを見計らってそう叫ぶと先頭にいる男目掛けて駆け出し、跳躍する。
「げえっ!? き、貴様! ブレイズ――」
どうやら俺の名前を知っていたらしい男が俺の名を呼び終えるよりも早く、その顔面に飛び蹴りをお見舞いしてノックアウトする。
さあ、今宵の第三ラウンド幕開けだ。
地面に倒れこんでいく男へ視線を向ける強盗犯の一人の襟首を掴んで手繰り寄せ、地面に思い切り叩きつけてやる。
「こいつ!」
いち早く正気に戻った強盗犯の一人が声を上げて俺に殴りかかる。
俺はその拳を容易く受け止めて反撃しようとするが、その瞬間に強盗犯は自身の身に付けていた覆面を剥ぎ取り、その素顔を曝す。
「ま、待ちなさい! アタシは女よ! 大の男……それもヒーローが女に手をあげるつもり!?」
……成程、覆面の下の顔は確かに女だ。
「言いたいことはそれだけか?」
しかし、それがどうしたというのか。
相手が女だからで手加減する段階は、とっくに通り過ぎてんだ。
数週間前に俺が倒した委員長の姿が一瞬脳裏によぎるが、それを振り払うように目の前の強盗犯をなるべく傷跡が残らないように殴り飛ばす。
「……今見たように、俺は誰が相手でも容赦しない。警察が来るまで大人しくしといた方が身のためだ」
残り二人になった強盗犯に警告をしておく。
「ふ、ふざけやがって!」
俺の降伏勧告に、強盗犯の一人が激昂し、肩から下げていた鞄のチャックを開く。
……一応警告はしたけど、止まる訳ないか。
そもそも強盗に手を染めるなんて余程のどうしようもない理由があるか、楽して金を稼げると思っているただの馬鹿のどちらかだ。
理由があるのなら俺の説得で止まる可能性は低いし、馬鹿なら最後の瞬間になるまで俺の話を聞きもしないだろう。
ならば、俺は力づくで止めるまで。
激昂する男へと殴り掛かろうとするが、鞄から取り出されたソレを目にして、思わず動きを止めてしまう。
「な、何だそれ!?」
ソレは、俺が今まで見てきた銃器に比べ、一回りも二回りもデカかった。
「特性のエナジーガトリングガンだ! こいつは秒間に――」
「そうじゃねえ! どうやってそんな物を手に入れた!」
点火装置を起動させ、両手に炎を宿しながら周囲の様子を観察する。
遠巻きに何人かの野次馬が様子を伺っているだけだが、そうだとしても街中であんなものをぶっ放したら大惨事待ったなしだ。
「これから倒れる相手に、そんなの答える必要あるか?」
男がそう言うと、ガトリングガンが起動してバレル部が回転し始める。
男の言う事も尤もだとか、光線銃の類なのにバレルが回転する意味はあるのかとか色々言いたいことはあるが、今はそんな場合ではないのは火を見るよりも明らか。
ガトリングガンの射線を遮る様に左手の炎で壁を作り、右手の炎を男目掛けて放つ。
「「くらえ!」」
俺と男の声がはもると同時に、ガトリングガンから放たれた数発の光弾が炎の壁に吸い込まれ、その内の何発は防ぐことに成功する。
「ぐっ……」
しかし、残り数発の光弾は炎の壁を貫き、俺のスーツに傷を付ける。
痛みに思わず膝をついて呻くが、俺が傷つくだけならまだマシだ。
「ギャアアア!」
男の悲鳴が響き渡ると共に、ガトリングガンから光弾が放たれる事は無くなる。
先程男に向けて放った炎が渦を巻く様に燃え上がって男を包み込み、その身を焼き尽くしたからだ。
……いや、実際は俺の操る炎では人は焼かないようにしてあるから、焼き尽くしたというのは言い過ぎだ。
それでも痛みはそのままらしく、炎を消してやっても男は痛々しい悲鳴をあげながら持っていたガトリングガンを放り投げて地面をのたうち回る。
「ば、化け物め!」
残った一人の強盗犯は脱兎の如くその場を駆け出し、逃げ出していく。
強盗犯の背を目で追いながら、今倒した奴等を拘束するか逃げる強盗犯を追いかけるか一瞬だけ迷うが、遠くから聞こえてくるパトカーのサイレン音に気付いく。
倒した奴等は警察に任せる事にして、逃走する強盗犯を追うべく駆け出した。
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