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1話‐2

「キャー! ひったくりよ!」


 時間は進んで放課後。

 ホログラムで外観を偽装した赤黒のバイクに跨り、バイクと同色のお手製ヒーロースーツを身に付けて真紅のマフラーを靡かせながら街中を駆け抜けてパトロールする俺の耳に、女性の悲鳴が聞こえてくる。

 バイクを停車させて声のした方に視線を向ければ地面に尻もちをついた女性と、どう見ても女物のピンクのハンドバッグを抱えて走る男の姿があった。

 俺達以外、周囲に人影はない。

 再びバイクのエンジンを回すと、先回りして男の逃げ道を塞ぐ。


「な、なんだ! お前は!」


 男はたじろぎながらも、行く手を阻む俺に向けて叫ぶ。

 なんだと言われては名乗る他ないな。

 バイクから降り、男の方に向き直って自己紹介をしてやることにする。


「俺の名は、ブレイズライダー!」


 名乗りを上げると同時に地面を蹴り、男に向かって駆け出しながら拳を振りかぶる。

 男は振り抜かれた拳を躱して反撃を試みようとするが、片手が塞がっている状態で抵抗しようなど無謀。

 数度の攻防の後、俺の拳が男に当たって男は痛みに呻き、手に持っていた鞄をとり落とす。

 ……この程度のチンピラ相手なら、超能力を使うまでもないな。


「こ、この不審者め!」


 男は痛みを堪えて懐からエナジーピストル……所謂、光線銃を取り出すと、その銃口を俺に向ける。

 ……超能力は使わないって思ったけど前言撤回、右掌の点火ボタンを押して右拳から火花を散らす。

 自らの超能力で火花を勢い良く燃え上がらせて拳に炎を宿すと、銃口から放たれた光弾を殴り飛ばして防ぎきる。


「ちょ、超能力者!? この野郎――」


 男は一瞬だけ驚いたように目を見開くが、すぐさま我に返り引き金に添えた指に力を込めようとする。

 ……一瞬怯んだのが命取りだったな。

 拳に宿した炎を男の持つ銃目掛けて放ち、銃の近くで爆発を起こす。

 爆発による衝撃で男は引き金を引くよりも先に銃をとり落とし、その場に倒れこむ。

 男はすぐさま地面に転がる銃に手を伸ばそうとするが、俺はその手を踏みつける。


「大人しくしてろ。そうしたら、これ以上痛い目を見ずに済む」


 目の前で再度拳に炎を灯しながら脅してやると、男は観念したように項垂れた。


「あ、ありがとうございました! 何かお礼を――」


 男の手足を結束バンドで縛って拘束した直後、カバンをひったくられた女性が俺に話しかけてくる。


「ヒーローだから当然の事をしただけだ。礼なんていらない。それよりも早く警察に連絡してくれ」


 警察に連絡するよう指示を出すと、バイクに跨りエンジンを回す。


「ま、待ってください!」


 俺は女性の制止を聞くことなく、バイクを走らせてその場を後にした。


『ブレイズライダー、事件発生だ』


 ヘルメット内のスピーカーから、二郎の声が響く。

 二郎にヒーロー活動している事がバレて以降、協力者として情報面でのサポートをしてくれている。

 ……少し前はお互いにイニシャルで呼び合っていたのだが、俺がブレイズライダーと名乗る様になってからは二郎もそう呼ぶようになった。


「場所と内容は?」


『現金輸送車が強奪された。場所は――』


 バイクを一度止めて、バイクのコンソールパネルに内蔵されたナビゲーターを起動して二郎の口から発される住所を入力していく。


「了解した。何かあったら連絡頼む」


 二郎との通話を切ると、エンジンを回してアクセルを吹かす。

 ……それにしても気になるのは、先程のひったくりだ。

 奴自身はたいしたこと無いチンピラ崩れだろうが、何故そんなチンピラ崩れがエナジーピストルを所持できた?

 いくら昔に比べて銃器が手に入りやすくなったとはいえ、あんなチンピラ崩れまで銃が所持できるとは世の中どうなっているんだよ。

 ……その内、銃器の出所にも探りをいれるべきか?


「そこの車両! 止まりなさい!」


 どうやら考え事をする時間は終わりのようだ。

 前方で数台のパトカーが現金輸送車に警告を出しながら追走しているのが視界に入ってくる。


「止まれと言われて止まる奴はいねえよ!」


 現金輸送車の助手席から男が顔を出して叫ぶと、手に持ったエナジーライフルをパトカーに向けて乱射する。

 ライフルから放たれた光弾は後を追う数台のパトカーの外装を傷付け、一台のパトカーに至ってはタイヤに直撃したらしくその場でスリップしてしまう。

 俺はガードレールにぶつかって停車したパトカーを間一髪で避け、逃走を続ける現金輸送車を追いかける。

 前を行く二台のパトカーの間を縫うように走行して追い抜き、現金輸送車の運転席横で並走すると男達に声をかける。


「ようアンタ達、こんなことやっててみっともないと思わない?」


「うるせえ、お前最近話題になってるヒーローだろ! お前だってヒーロー活動で自己顕示欲を満たしてんだろ! みっともねえ!」


 運転席の男はそう言い放つと俺にエナジーライフルを俺に向ける。

 銃口を向けられると同時にバイクを減速させた瞬間、目の前を光弾が横切り地面を穿つ。

 道路に空いた小さな穴を横目にバイクを再び加速させ、運転席の真横で現金輸送車と並走する。


「俺の事知ってるのか? そいつは光栄だ。……みっともなく見えるかもしれないけど、アンタ達とは違って人の役には立ってるさ。それよりも随分と短気だな? ひょっとして図星だったか!」


 まずは男達の装備を取り上げる。

 あおりを入れながら銃を目掛けて炎を放つと、男は怯んでしまい銃をとり落とす。


「このっ……これでどうだ!」


 男はそう叫ぶとハンドルを切り、現金輸送車を幅寄せして体当たりを仕掛けてくる。


「うわっ!? 危ないな! ちゃんと前を見て運転しろよ!」


 すぐさま急ブレーキで減速して現金輸送車から距離をとると、目の前で現金輸送車とガードレールの距離がゼロになる。

 ……少し判断が遅れていたら、潰されてたな。

 そのままバイクのスピードを落とすと、後を追うパトカーの横から、運転席の警官に声をかける。


「なあ、俺が奴等の武器を奪う。そうしたら一気に近づいて囲んでくれ」


「何を言ってる! 自警団気取りの奴に協力なんかできるか! お前も逮捕するに決まってるだろ!」


 警察に協力を要請するが、どうやらこの警官は俺の事を嫌っているようで要請を突っぱねる。

 そんな事を言ってる場合じゃないと言いたいが、警察からしたら俺も奴等と同じ無法者。

 そりゃあ信用も出来ない。

 ……だけど。


「アンタ達が俺を信用しないのは勝手だけど、俺はアンタ達を信用してる。だから任せた!」


 警官に向かってそう言い放つと、アクセルを全開に吹かして現金輸送車の助手席横で並走する。

 俺に気がついた助手席の男は、銃を取り出し此方に向ける。


「そっちから近づいてくるとはな。これでも――」


 くらえと言いたいのだろうが、そうはいかない。

 男が喋り切るよりも早く、ハンドルを強く握りしめてバイクのステップを蹴り下半身を跳ね上げ、そのままの勢いで男の持っている銃を蹴り飛ばすとバイクに座りなおす。


「残念。お気に入りのおもちゃを失くしたな」


 男に声をかけると同時に、一台のパトカーが俺の横を追い抜いて現金輸送車の前を陣取る。

 よし、これで後はじっくりと追い込んでいけば――


『ブレイズライダー、事件発生だ! さっき伝えた住所の近くで銀行強盗が発生した!』


 最後の追い込みを仕掛けようとした時に、突如として二郎から連絡が入る。

 ……時間をかけている暇は無いみたいだ。


「わかった。現金輸送車の方を片付けたら連絡するから、それまでに情報を纏めといてくれ」


 二郎からの通信を切り、コンソール上のモニターに映るマップに一瞬だけ視線を向ける。

 ……よし、もう少しで下り坂か。


「ちょっと失礼」


 バイクを減速させ、現金輸送車とパトカーの間に割り込んでその時を待つ。

 やがて下り坂へと差し掛かり、現金輸送車の姿が視界から消えていく。


「オラァ!」


 バイクが坂道を下る直前、雄叫びをあげて全力でバイクをウィリーさせると、勢いよく坂道から飛翔する。

 宙を舞いながらバイクに内蔵された縮小装置を起動させ、小さくなったバイクを回収しながら現金輸送車の屋根を目掛けて手を伸ばす……が、飛距離が足りずに届かない。


「まだだぁ!」


 このままでは地上に落下すると判断して即座に掌の点火ボタンを押し、靴裏から散らした火花を爆発させて自身の身体ごと吹き飛ばして何とか現金輸送車のルーフの端に掴まる。


「……死ぬかと思った」


 誰に聞かせるでも無くぼやきながら、未だに逃走を図ろうとする現金輸送車の屋根へとよじ登る。

今回の話を読んでいただき、ありがとうございます。

良かったと思っていただけましたらブクマ・ポイント・感想をもらえれば筆者のモチベーションが上がるので非常にありがたいですが、読んでもらえるだけでとても嬉しいです。

次回は明日の昼十二時投稿なので、読んでもらえたら励みになります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とてもスリリングな場面で面白かったです。文章でヒーローアクションが読めるのはありがたいことです。 [一言] 現金輸送車を、どうやって攻略するのか、明日も楽しみにしてまーす
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