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5話‐5

「これはマズいですね。皆さん、撤収です!」


 黒猫は警官の制止に応じることなく仲間達に呼び掛け、この場から逃げ出そうとする。

 当然警官も逃がすまいと銃を構えるが、周囲に野次馬がいる所為でむやみやたらに発砲できない。

 何とか放たれた数発の光弾も、黒猫強盗団を掠める事すらなかった。


「待て! 逃がすと思って――ぐっ……何をする!」


 黒猫強盗団から少し遅れ、強盗団員を追いかける為に氷河が動こうとするが、警察の放った光弾が掠り、阻まれてしまう。

 何を考えているのか、氷河は警官達の方へと振り向いた。


「僕の邪魔をすると言うのなら、容赦はしない!」


 氷河がそう叫ぶと周囲に何本もの氷槍が現れ、宙に浮かぶ。

 マズい、あいつ冷静じゃないぞ!


「よせ、エンフォーサー!」


 俺に攻撃を加えるならまだしも、警察相手にするのは流石にヤバい。

 警官に危害を加えようとする氷河を止める為に駆け出す俺目掛けて警察が発砲するが、炎を放って光弾を防ぎ、そのまま一直線に氷河の元へ向かってその目の前に立ち塞がる。


「……ブレイズライダー、まだ邪魔をするつもりか」


「自分が何をしてるのか、その結果どうなるかもわかってない奴が目の前にいるんだ。そりゃ止めに入るだろ」


 氷河と相対し言葉を交わすが、フードの奥の瞳がギロリと俺を睨みつける。

 話し合いで解決できるように冷静に話そうとはしたが、氷河は聞く耳を持つ気は無いようだ。


「何をしているのかわかってない? 十分にわかっているさ。僕の執行する正義を邪魔する奴は、排除する必要があるって!」


 氷河が手を翳すと、奴の周囲に浮かんでいた氷槍が俺や警官、そしてその背後にいる野次馬達へと突き進んでいく。

 警察に邪魔されないように俺と氷河の周囲に炎の壁を生み出すと、飛来する氷槍が誰かに当たるよりも前に火球で溶かす。


「全然わかってないだろ。今だって俺が止めなきゃ、警官や街の人達が怪我してたぜ。俺や犯罪者達に手出すならともかく、何の罪も無い人達を巻き込もうってんなら強引にでもお前を止めさせてもらう!」

「……うるさい。僕の邪魔をするっていうんなら、君や警察も犯罪者と同じだ。……容赦しない!」


 両腕に氷を纏いながら、氷河はそう言い放つ。

 ……氷河がどんな顔で今の言葉を口にしたのか、フードに隠れている所為でわからない。


「わかった。俺ももう容赦しない。お前を止める……いや、助けるには、そうしないといけないみたいだからな!」


 両手に炎を宿し、氷河を見据えて高らかに宣言すると地を蹴り駆け出す。

 同時に氷河も俺に向かって駆け出してくる。

 ……先に仕掛けたのは氷河。

 腕に纏わせた氷を氷柱のように尖らせると、俺目掛けて突き出す。


「助ける? 僕に助けなんて必要ないし、そもそも何から助けるつもりだ!」


 俺は槍を躱すと突き出された腕を掴み、拳に宿した炎で氷を溶かす。


「今みたいな事を続けてると、いつか取り返しのつかない事になる。お前はそれでもいいのかもしれないけどな、俺は勝手に助けさせてもらう!」


 氷河は俺を振り払う為に蹴り飛ばそうとするが、蹴りをもらうよりも早く跳躍して氷河の背後に回り込む。

 そして、奴が振り返るよりも早く殴り飛ばした。


「ぐっ、助けるとかなんとか言って殴ってくるとか……そもそも、なんで君はボクを助けようとする? 放っておけばいいだろう!」


 僅かによろめく氷河だったが、先程溶かした氷をすぐさま氷の籠手として腕に纏いなおすと、そのまま拳を振るい上げる。

 一度飛び退き躱そうとするが、すぐに足が動かない事に気がつく。

 ……そう何度も同じ手で俺を止められると思うなよ。

 視線すら向けずに足を覆う氷を炎で溶かし、近づいてきた氷河の拳を躱して逆に殴り飛ばす。


「何で止めるかだって? さっきも言ったけど今のお前を放っておいたら無関係の人を巻き込むからだ。それに――うわっ!? こ、この野郎! まだ話してる途中だぞ!」


 質問に答えてやろうとするが、放たれた強烈な冷気に晒されてしまった俺は怯んでしまい、地面に片膝をつく。


「僕の邪魔をする奴等は犯罪者と変わらない。何度もそう言った筈だ! ブレイズライダー!」


 その様子を見て好機と判断したのか氷河は片腕にすべての氷を纏わせ巨大な籠手を生成し、とどめを刺すべく殴り掛かってきた。


「だ、だから、それがやりすぎだって言ってるんだよ! それをわからないっていうから、強引にでもお前を止めないといけないんだ!」


 点火装置を起動させ身体を覆い始めていた氷を吹き飛ばし、勢いよく跳びあがる。

 そして、右足に炎を宿して氷河目掛けて跳び蹴りを放つ。

 氷の拳と炎の足がぶつかると同時に、辺りに白い冷気と蒸気が立ち込めて強い衝撃が俺を襲い、弾き飛ばされる。

 姿勢を整え何とか着地すると同時に、白い霧が霧散し氷河の姿が視界に映る。

 残念な事に氷河はまだその場に立っていた。

 しかしフラフラと足元がおぼつかない様子で、今にも倒れてしまいそうだ。

 ……尤も、それは俺も同じだ。

 周囲を覆っていた炎の壁すら維持できずに消滅していく。


「……やっ、やってくれたな。まさか、僕がここまでやられるなんて……」


「それはこっちの台詞だ。手加減してないのに、何でまだ立って――!」


 炎の壁が消え、俺達の姿を捉えた警官の一人が氷河へと照準を合わせ、引き金を引くのが視界に映ってしまう。

 氷河の減らず口に返事をしていた最中だが、俺はすぐに駆け出し氷河を突き飛ばした。


「お、おい? 今、何をした?」


 その場に倒れこんだ氷河が、何が起きたのかわからないといった様子で問いかけてくる。


「……な、何をしたかって? み、見てわかるだろ。助けてやったんだよ」


 氷河を助ける事はできたが、代わりに俺が銃撃を受けてしまった。

 痛みによろめき倒れかける俺だったが、すぐさま立ち上がった氷河が俺を支える。


「に、逃がすな! 撃て!」


 警官が俺達に発砲しようとする中、俺を抱えた氷河は空に向けて氷のアーチを作って駆け出し、この場から離脱する。


「……何やってるんだ? 俺の事を厄介に思ってるなら、放っておけばいいだろ」


「黙ってないと、ここから放り投げるぞ」


 それは御免だ。

 氷河の言葉に従い、大人しくしておこう。




 ……どのくらい走り続けたのか、何とか警察を撒いた俺達は人気の少ない路地裏まで辿り着く。

 氷河は俺を地面に降ろすと、俺を見下ろしながら口を開いた。


「君は一体、何を考えている? 何で自分の身を挺してまで僕を助けた?」


 ……何で氷河を助けたのか。

 さっきは警察が氷河に銃口を向けているのが視界に映って咄嗟に動いたからそこまで考えている余裕は無かったが、理由ははっきりしている。


「……俺がヒーローだからだ。誰かが危ない目にあいそうだったら、それを助けるのがヒーローだ。まあ、それだけじゃないけど」


 俺はヒーローである以前に、一人の人間だ。


「友達が間違った道に進もうとするのを止めて、危険な目に遭おうとしてたら助けるのはそんなにおかしいか事か?」


 俺の言葉に何か思う事があったのか氷河は暫くの間黙って俺を見下ろすが、返事をする事なく踵を返し路地裏から立ち去っていく。

 ……少しは俺の言葉も響いたかな?

 とにかく、周囲に人の気配は無いし、少し休ませてもらうことにしよう。

 そう考えていると、ヘルメット内に仕込んである通信機から着信音が鳴り響いた。


「おいブレイズライダー! 中継見てたけど大丈夫か!? 生きてるか!?」


 通話を繋いだ瞬間、二郎のやかましい声が頭に響く。


「……生きてなきゃ通話にでないだろ。大分やられてしまったけど、何とか生きてる。寧ろ、お前がうるさいからそれで体調を崩しそうだ」


「減らず口を叩けるの元気があるなら大丈夫だな」


 二郎はそう言い放つが、言葉とは裏腹に俺の無事に安堵しているのが声色でわかる。


「……それで用事はなんだ? 俺の無事を確認する為だけに連絡してきたのか?」


「そ、そうだ、忘れてた! お前が無事かどうか知りたいのもあったんだけど、ニュースを見てみろ! この間の刑務所襲撃事件の続報だ!」


 スマホを取り出すと、二郎に言われた通り適当なニュースサイトで刑務所襲撃事件について調べる。

 ……脱獄者の氏名公開、及び指名手配?

 どうやら先日刑務所が襲撃された際に、脱獄した奴等の氏名を今更公開したらしい。

 多くの脱獄犯は既に再収監されたようだが、逆に言えば何人かの犯罪者は今も逃走を続けている。

 そして、その脱獄犯の中に見知った名前を見つけてしまい、俺は天を仰いで溜息を吐く。

 水城雨……ヴァッサも脱獄し、行方知れず。

 氷河や黒猫強盗団だけでも手一杯だというのに、どうすりゃいいんだ。

今回の話を読んでいただきありがとうございます。

ブクマ・ポイント・感想をもらえれば筆者のモチベーションが上がるので非常にありがたいです。

次回は来週日曜日の昼十二時投稿なので、読んでもらえたら励みになります。

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