5話‐4
そんな強力な超能力者がなんでこんな強盗団なんかに所属しているのかはわからないが、とにかくマズいという事だけはわかる。
無駄かもしれないが、自身を時間停止の超能力者だと言い放った強盗団員へと殴りかかる。
……そして、俺の拳を避けきれなかった強盗団員はその場に倒れこんでいった。
「じ、時間停止の超能力者じゃなかったのか? なんで超能力を使わない?」
奴が言う通りの超能力を有しているというのなら、俺の攻撃なんて容易く躱せた筈。
そうしなかったって事は、何かの罠なのか?
「ククク、ちゃんと使っていたさ。止まった時の中では何物も動く事は出来ない。お前やオレの仲間達は勿論、オレ自身も例外じゃないという事! お前が真っすぐこっちに向かってきてるのは時を止めてわかっていたが、反応できなか――」
俺は、地面に倒れこみばがらも何故か自信満々な様子の団員を蹴り飛ばして黙らせる。
……本当にそういう超能力だったのか、ただ適当に吹かしていただけなのかわからないが、警戒して損したな。
「おい、こいつは何であんなに自信満々だったんだよ、黒猫」
俺は黒猫に質問を投げかけてみるが、奴は返事の代わりに肩を竦めてみせる。
……リーダーであるあいつも理解して無かったのかよ。
「他人が何を考えているかなんて完全に理解できる訳ないでしょう。それはそうと、仲間を傷つけた貴方の事を許すわけにはいきません!」
……仲間を傷つけられたくないんなら最初から強盗に手を染めるなよと突っ込みたくなるが、そんな間も無く黒猫が迫ってくる。
攻撃を躱そうと構えた瞬間に黒猫は飛び退き、いつの間にか奴が手にしていた二丁のエナジーピストルの銃口が俺を捉えているのが視界に映った。
「フェイントか!」
咄嗟に炎の壁を噴き上がらせ、迫る光弾を防ぐ盾にする。
攻撃を凌いで安堵したのも束の間、炎の壁を飛び越えた黒猫が俺を目掛けて飛び掛かってきた。
不意を突かれたものの、咄嗟に上体を反らして一撃目を躱す事には成功。
しかし二撃目、三撃目と黒猫は立て続けに攻撃を仕掛けてくる。
何とか反撃を試みようとするが素早いラッシュに隙を見つける事ができず、防戦を強いられてしまう。
「こ、この……ちょこまかと――ぐあっ!?」
思わず悪態を吐きそうになるが、突如として襲ってきた衝撃と痛みに呻き声を上げて膝を地面についてしまった。
更に隙の出来た俺の顔面を黒猫の膝が捉える。
「ぐあっ……」
マズいと思った時には時すでに遅し。
気付いた時には呻き声を上げながら勢いよく吹き飛んでおり、地面を転がされる。
……もしヘルメットを被っていなかったら、間違いなく意識を持って行かれていたな。
地面に横たわったまま首だけ動かして周囲を見回すと、強盗団員がエナジーライフルを俺に向けて構えていた。
さっきの衝撃の正体はあれか、あんなのくらうなんて少しばかり油断したか。
……いつまでも寝てる訳にはいかない。
痛みに堪えながら起き上がろうとするが、黒猫がそうはさせまいと言わんばかりに俺目掛けて突撃してくる。
正攻法では奴に攻撃を当てるのは難しい……どうやって攻撃を当てる?
……考えている時間は無いし、無理やり攻略してやる!
俺を蹴り飛ばそうとする黒猫の脚をわざと受け止めると、その衝撃に歯を喰いしばって堪えながら、脚を掴み取る。
「捕まえたぞ!」
黒猫を地面に叩きつけて馬乗りになると、邪魔されないように周囲の強盗団員目掛けて炎を放つ。
「は、離しなさい!」
捕まった黒猫は拘束から逃げ出そうと藻掻くが、逃がすわけねえだろ。
「さて、お前に聞きたいことがある」
「何を聞きたいかは知りませんが、話すと思っているのですか? 逃がしてくれるのなら話しますが、そんな気は無いですよね」
……口の減らない奴め。
まあ、こいつの言う通り逃がすつもりはないから、むしろ話が早くて助かる。
「お前に拒否権なんて無い。俺に殴られたくなかったらお前達の使ってる装備をどこから調達したのか洗いざらい話せ。言っとくが、俺が手加減してやると思ったら――」
黒猫に質問という名の尋問を仕掛けようとした瞬間、辺りに白い霧が立ち込めて気温が下がったのを感じ取る。
……またかよ。
「う、うわぁ! か、身体が! 身体が凍る!」
「エンフォーサーの奴、また邪魔に――うわっ!?」
周囲から強盗団員の悲鳴が上がって其方に気を取られた瞬間、下敷きにしていた黒猫に押しのけられ脱出されてしまう。
「隙有りです。まさかアイスエンフォーサーに助けられるとは、世の中わからないものですね」
「……もう一度捕まえてやるだけだ!」
黒猫に先手を打たれる前に近づいて殴りかかりながら氷河の方を見ると、既に強盗団員達と戦闘に入っている。
……他の団員は氷河に任せて、俺は黒猫の相手に専念するべきだな。
「や、やめろ! 抵抗しないから助けてくれ!」
「断る。君達は強盗するようなクズなんだし、そうやって命乞いした相手を助けた事も無いくせに自分だけは助けて貰えると思ってるなら、随分とお花畑な脳内をしているな」
「ぐっ……う、撃て! こうなったら返り討ちにしてやる!」
よし、氷河が強盗団員達を人として再起不能にする前に黒猫を片付けよう。
……昔はあそこまで徹底的にやるような奴じゃ無かった。
本当に何があったていうんだよ、氷河。
いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。
目の前の相手の事だけ考えろ!
「黒猫! 今すぐに知ってる事を話してもらう!」
雄叫びを上げながら、両手に炎を宿して殴りかかる。
黒猫は即座に飛び退き俺から距離をとろうとするが、ここで逃がすわけにはいかない。
「逃がすかよ!」
靴裏からのジェット噴射で加速すると、黒猫との距離を一気に詰めて右腕を振り抜く。
黒猫は上体を逸らして俺の拳を躱すが、間髪入れずに左の拳で殴り抜く。
「ぐっ……流石はヒーローを名乗るだけあって、中々やりま――!?」
殴られてよろめきながらも何事かを話しかけてくる黒猫を無視し、再び拳を叩きこもうとする。
しかし、黒猫が飛び退いた事で奴の姿は俺の視界から消え、拳は空を切る。
「逃がさないと言って――き、消えた!?」
先程と同じように追撃を仕掛ける為に黒猫を視界に収めようとするが、その姿がどこにも見当たらない事に気がつく。
立ち止まって辺りを見回すが、氷河が強盗団員と戦っているだけで黒猫の姿は見当たらない。
……いくら奴が素早いとはいえ、さっきの一瞬で俺の視界から完全に逃れる事ができるのか?
まあいい、このまま探していてもキリがないし、氷河たちの方へ――
「ぐあっ! な、何だ!? 今、どこから攻撃された!?」
突如として背後から攻撃を受けて振り返るが、そこには誰の姿もなかった。
目を凝らして再び周囲を見渡すが、やはり俺の近くには誰もいない。
「ぐっ……ど、どこだ? どこにいる!」
しかし、その間にも見えない衝撃が襲う。
……姿が見えてないだけで、確実に黒猫は俺の近くにいる。
どんな手を使ったかはわからないけど、姿を隠したまま俺を襲っている!
どうせ氷河も止めないといけないからあまり超能力を使いたくなかったが、背に腹は代えられない。
俺自身を中心に半径三メートル程の射程で、放射状に広がるように炎を放つ。
「熱ッ!?」
悲鳴が上がり、周囲の炎が一ヶ所だけ不自然に揺らいだのを見逃さない。
「そこか!」
即座に炎が揺らいだ場所を目掛け、右脚を伸ばして飛び蹴りを放つ。
「ぐえっ……」
何かが靴裏に当たって吹き飛ばされていく確かな感覚の後、呻き声と共に地面を転がる黒猫が姿を現す。
「よう、さっき振りだな。今のは超能力か?」
或いは、奴の身に付けているスーツの機能かな。
「……あなたに教える必要などありません。しかし、本当に中々の実力ですね。まさか、即座に見破られてしまうとは。……どうです? 貴方さえよければ、私達と共に――」
「俺に似たような事を言った奴は前にもいたけど、返事はこいつだ!」
この期に及んで俺を勧誘しようとする黒猫目掛け、勢いよく拳を振り抜く。
……肉体言語による俺の返事は、残念な事に黒猫に届くことなく躱されてしまう。
「……それは残念です。ならば、ここで貴方を倒して――」
「警察だ! お前達、全員その場で両手を挙げて動くな!」
黒猫が俺に飛び掛かろうとした瞬間、男の声が辺りに響く。
声のした方へ視線を向けると、そこには何台ものパトカーが止まっている。
そして、警官達が手に持っているピストルの照準を俺や氷河、黒猫強盗団に合わせていた。
しかも、野次馬のオマケつきときた。
「……マジか、全然気がつかなかった」
俺はとりあえず言われた通りに両手を挙げて、抵抗の意思が無い事を示す。
勿論逃げるつもりではあるけど、先に他の奴等の出方を窺わせてもらうとするか。
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