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5話‐2

「期末テスト前にそんな事が……というか、お前とエンフォーサーって知り合いだったのか。というか、大丈夫なのか? 昔の事を思い出しても」


 氷河と採石場で再会してから十日ほどが過ぎた。

 期末テストも無事に終わった放課後、ようやくいつもの調子を取り戻した二郎に事の経緯を説明し終えると、二郎が珍しく真面目な様子で問いかけてくる。

 ……小学校に入学するよりも前の事を思い出すと、それが例えどんなに楽しい思い出だったとしても、最終的に両親が寝たきりになったあの日の事を思い出して気分が悪くなってしまう。

 二郎が心配しているのはその事だろうな。


「あいつとは小学校の頃に友人だったから、大丈夫だ。高学年の時にあいつが転校してからそれっきりだったけど、まさかこんな形で再会する事になるなんてな」


 ……貫木氷河、俺がヒーローを志すようになったきっかけの一人。

 あれから俺なりに色々と考えてみたが、氷河が何故ヒーローを敵視するようになったのかはわからないままだ。

 少なくとも昔の氷河は俺なんかよりもよっぽどヒーローに相応しい正義感を持っており、色々と俺を助けてくれた。

 犯罪者相手とはいえ、戦えない相手に追い打ちをかける真似をするような奴では無い筈だ。


「……また何か難しい事を考えてるな? お前は馬鹿なんだから、もっと単純に考えた方が良いんじゃないか?」


 この野郎、言ってくれるな。

 テスト前に焦っていた二郎とは違い、補習だけは間違いなく無いと言い切れる程度には手ごたえを感じていたんだぞ。


「うるせえ。馬鹿なのは確かかもしれないけど、お前にだけは言われたくない。それよりもお前は今回のテストどうだったんだよ? 何か足掻いてた記憶があるけど、どうせ無駄だったんだろ?」


 俺の言葉を聞いた二郎は自信ありげにフフンと鼻を鳴らす。

 ……てっきり怒るかと思っていたのだが、まさか自信があるとでも言うのだろうか?


「今回は少しばかり自信があるんだ。答案が帰ってくるその時までさっきの言葉を憶えておけよ。敗北の屈辱に歪むお前の顔が目に浮かぶぜ」


 ……そこまでの対抗心を抱いてる訳じゃないし、こいつにテストの点数で負けたところで特に思う事はないのだが、それを言うと面倒な事になりそうだし話を適当に合わせておいてやろう。


「そんなに自信があるのか。一体なにをやって――まさか、例の天才に勉強を教えてもらえたのか?」


 あの二郎が勉強において何故ここまで自信に満ち溢れているのか、俺が導き出した答えに二郎は頷く。


「……まさかお前が相手をしてもらえるなんてな。一体どんな手を使った? 変な事してないか? 迷惑かけてないよな?」


「おい、お前は俺の保護者か? 安心してくれ、真っ当な交渉の末に勉強を教えてもらったから」


 ……真っ当な交渉ねえ。


「じゃあその真っ当な交渉とやらの中身を教えてもらおうか。一体どんなことをしでかしたのか知りたい」


「いや、本当に真っ当な交渉だよ。実はだな――」


「あ、あの!」


 二郎がどんな交渉をしたのか喋ろうとするが、クラスメイトに割り込まれて聞き取る事ができなかった。


「どうしたの、美和さん? 俺達に何か用事?」


 俺は話に割り込んできたクラスメイト……美和さんに何の用事か問いかける。


「ひ、火走君、今日はお時間大丈夫です?」


 ……そういえば、この前お礼をすると約束してしまったな。

 アンチファイヤーを倒してからは大した事件も起きてないし、氷河もこの前俺と戦ってからは表立って活動していない。

 パトロール前に少し位付き合ってあげても良いかな。


「ああ、今日なら大丈夫だよ。二郎、お前も平気――おい! 何をする!?」


「美和さん、ちょっとだけ席を外すから少し待っててくれ」


 暇かどうか声をかけた瞬間、二郎は俺の肩を掴んで教室の隅へと引っ張っていく。


「ど、どうしたんだよ急に。何か気に障るような事でもしたか?」


「これからやろうとしてたんだよ。美和さん、どう見ても俺達じゃなくてお前を誘ってただろ」


 何だかよくわからないが、俺と美和さんだけで行って来いと言いたいのだろう。


「お前の言いたい事は何となくわかったけどさ、遊びに行くのに俺と二人きりじゃ美和さんが不安にならないか? やっぱりお前も――」


「全然わかってねえ。お前、正気か? ……まあいい、あんまり口を出すのも野暮か。とにかく、美和さんと二人で遊んで来い。他の奴を誘おうとするなよ。絶対にするなよ」


 そう言うと二郎は俺の背中を叩き、美和さんの方へと送り出す。

 ……相変わらず二郎の言ってる意味がさっぱりわからないが、とりあえず二人だけで遊べばいいんだよな。


「……あ、あの、大丈夫です? もしかして本当は今日、都合が悪かったりするです?」


 俺と二郎が妙な様子を見せてしまったからか、美和さんはどこか不安げに問いかけてくる。


「いや、大した事じゃないよ。二郎の都合が悪いみたいだから俺しか空いてないけど、それでも構わない?」


「は、はい! 構わないです! 寧ろ好都合!」


 勢いの良い返事に思わずたじろぎそうになるのを何とか堪える。

 ……ま、まあ、何故か知らないが美和さんが嬉しそうならそれでいいだろう。


「それじゃあ早速出発しましょう。今すぐ出発しましょう!」


 余程大事な用事なのか、二度同じ事を繰り返して教室の外へと美和さんは飛び出していく。

 俺もその後を追って教室を出る直前、二郎の方をちらりと見ると、奴は親指を立てて俺を見送っていた。

 ……本当に何なんだよ。

今回の話を読んでいただきありがとうございます。

ブクマ・ポイント・感想をもらえれば筆者のモチベーションが上がるので非常にありがたいです。

次回は来週日曜日の昼十二時投稿なので、読んでもらえたら励みになります。

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