4話‐5
「ぐっ……痛いな、畜生」
背中を地面に打ち付けてしまった事で身体に響く痛みを堪え、立ち上がる。
「やるじゃないか。どうせ本気になれないと思ってたから、少し油断したよ」
そう言うエンフォーサーは、俺より一足早く立ち上がっていた。
……参った、多分こっちの体力が先に底をつきそうだ。
「油断した? 違うな。今のが俺とお前の実力差だ」
今から全力で逃げ出すか?
いや、ここに来るまでに振り切れなかったのだから、逃走は成功しないだろう。
しかも、折角人気の無い場所へ態々誘導してきたというのに、策も無しにもう一度移動なんてナンセンス。
「そうか。それじゃあ、そこまでの差はないな!」
エンフォーサーは多数の氷槍を作り出すと、俺目掛けて繰り出す。
これ以上消耗しない為にも超能力を使わずに避けられるか一瞬だけ考えてはみるが、どう考えても無理。
甘い考えを振り払い、点火装置を起動させる。
当たらなければどうという事はないかもしれないが、逆に言えば当たったらえらい事になる。
とはいえ、このまま攻撃を防ぐだけでは先に力尽きるのは俺の方だ。
「俺とお前の差、見せてやるよ!」
迫る氷槍を炎の壁で防ぎ、そのまま炎の中へと突撃していく。
火を潜り抜けた先にいたエンフォーサーは僅かに驚いたような素振りを見せながらも、氷を生み出し反撃を試みようとしてきた。
奇襲に氷槍の生成が間に合わなかったのか、代わりに氷の礫が俺に襲いかかる。
……両手を交差させ、身を守りながら突撃を続ける。
氷槍とは違い当たっても致命傷には至らないが、それでも結構痛い。
精神を消耗したくなくてそのまま突っ込んだけど、これはこれで肉体的にはきつい。
とはいえ、これ位は必要経費。
エンフォーサーまで残り一メートルに迫った所で、エンフォーサーを自身を取り囲むように炎を生み出す。
「さあ、自慢の氷を使ってみろよ!」
燃え盛る炎の中心、その温度は急激に上昇していく。
エンフォーサーは自身の超能力によって生み出した氷を維持する事ができなくなり、その身に纏った氷も溶けだしてしまう。
「……なら、此処から逃げ出せばいい!」
エンフォーサーは躊躇なく炎の中へと飛び込んで俺から離れようとするが、お前がそうするのはもうお見通しだ。
俺がエンフォーサーを追いかけると周囲を取り囲む炎も追従するように動き、俺とエンフォーサーを再び取り囲む。
「残った氷も今ので溶けちまったな。俺を中心にして炎は燃え続ける! お前はもう詰んでるんだよ!」
……虚勢を張ってはみたが、この状況に追い込むために精神的には勿論、体力もかなり消耗してしまった。
お蔭でそう長くは戦えないだろう。
手早くケリをつける為、俺は全力を振り絞って殴り掛かる。
エンフォーサーも逃げられないと判断して反撃をしてくるが、その動きは明らかに精彩を欠いていた。
恐らくは熱によって体力を奪われているのだろう。
互いに攻撃を避ける事すらままならない、デスマッチの幕が開けた。
状況的には俺の圧倒的有利だろう。
氷を作り出してもすぐに溶けてしまうエンフォーサーに対して、此方はまだ炎を放ち、そしてこの身に宿す事もできる。
エンフォーサーも果敢に反撃を試みるが、両手足に炎を宿して格闘戦を挑む俺に勝てる道理は無い。
……お互いに殴り合いを続けていた筈の戦いは、次第に片方がもう片方を殴るだけになる。
つまり、俺の勝ちだ。
「くっ!? こ、こんな事が……」
「ウォォォォォォ!」
エンフォーサーがよろめいた隙を見逃さず、渾身の力を込めてエンフォーサーを蹴り飛ばす。
すぐさま炎の壁の外側まで吹っ飛んだエンフォーサーを追いかけると、倒れこんだ奴に馬乗りになってマウントポジションをとり、とどめを刺すべく拳を振りかぶる。
……次の瞬間、俺の動きは止まってしまう。
視界に映るのは、力が入らずに弱々しい抵抗しかできないエンフォーサー。
奴が被っていたフードは先程蹴り飛ばした際に外れ、その素顔を俺は見てしまう。
「……氷河? おまえ、貫木氷河か?」
動揺する俺はエンフォーサー……いや、かつての友人に向けて、その名を呼ぶことしかできなかった。
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