4話‐2
「じゃあな、ショウ! 今日の俺は忙しくてお前に構ってられねえんだ」
放課後になった瞬間、二郎は態々俺の元に来てそう言うと、俺の返事を聞くことなく教室を飛び出していった。
「ああ、構わなくていい……で、何の用事?」
二郎に届く事無い返事をした後、いつの間にか俺の近くにいた美和さんに声をかけと、彼女は暫くの間何か考えるような素振りを見せた後、意を決したように口を開く。
「あ、あの! ひ、火走君! 少しお時間宜しいです?」
その声は何故だか妙に上擦っており、心なしか頬も紅潮している。
「少しだけなら大丈夫だけど、どうしたの?」
「あ、あのですね、火走君が良ければですけど、一緒に何処かに遊びに行けたらなって思ったです」
成程、前と同じように他の友達を誘おうとしたけど、皆用事があったから暇そうな俺を誘う事にしたんだな。
……彼女にとっては残念かもしれないけど、今日はその誘いを受けるつもりはない。
「あー、ごめん。期末試験に備えて勉強しようと思ってるんだよ。だから今日だけじゃなくて暫くは無理」
美和さんからの誘いを、適当な嘘で誤魔化して断る。
……とはいえ勉強すると言うのが嘘なだけで、用事があるのは本当だ。
黒猫強盗団の奴等がいつ現れるかわからない以上、奴等が暴れ始めたらすぐに駆けつけられるようにしておきたい。
「そうですか。残念です……」
俺の返事に美和さんはそう言ってしょぼくれてしまう。
……何だか悪い事をした気分になるな。
「そういえば、二郎から聞いたよ。この間、はぐれた俺を探してくれたんだろ? ありがとう、美和さん。今度改めてお礼をさせてもらうよ」
「……うぅ。わかりましたです。約束です」
俺の言葉を聞いた瞬間に顔を更に赤くした美和さんは、逃げるように立ち去って行った。
……それにしても、随分と様子がおかしかったな。
風邪でもひいたのだろうか?
「火走君も中々やるね」
美和さんと入れ替わりに鳥野さんが現れ、意味深な笑みを浮かべながら話しかけてくる。
「……? 鳥野さんが何を言ってるか、よくわからないんだけど」
「またまた、ご冗談を。……え? 本気で言ってる?」
最初は笑っていた鳥野さんだったが、本当に何のことかわかってない俺の様子を見る内に笑みが消える。
「本気だよ。それで? 何が中々やるのか教えてほしいんだけど」
「……はぁ」
俺の問いに対する返事は、ため息一つだった。
「暫く自分で考えてみなよ。それじゃあアタシは用事があるから。また明日ね」
鳥野さんはそう言うと、俺が呼び止める間すら与えずに立ち去っていく。
……何だったんだ? 今のは。
まあ、多分大した事じゃないだろうし、後で考えればいいか。
俺はスーツに着替える為、一先ず人気の無い場所を目指すことにした。
人気の無い路地裏でスーツに着替えた俺は、そのまま息を潜めてスマホで情報収集をする。
二郎が協力してくれる前はこうやって情報を集めていたなと少しだけ懐かしい気持ちに浸っていると、事件発生のニュースが入ってきた。
「刑務所に武装集団が襲撃を仕掛けてきた? ……少し遠いけど向かうとするかな」
刑務所へと向かうべくバイクに跨り、なるべく多くの情報を得る為にコンソールを弄ってラジオを流す。
『緊急ニュースです! 最近活動が活発になっている黒猫強盗団が、銀行を襲撃しているという情報が入ってきました! 場所は――』
流れてきたニュースが耳に入ると同時に、俺は動きを止めてどちらに向かうべきか考え込む。
「……マジかよ、こんな時に」
思わずぼやきつつコンソールを弄ってナビを起動させると、銀行を目的地に設定する。
刑務所の襲撃は非常に大きな事件だし、間違いなく警察は最優先で対応するだろう。
いや、警察だけではない。
JDF……日本防衛軍も動くだろうし、俺以外のヒーロー達も駆けつける筈だ。
だが、そうなるとどうしても小さな事件への対応が遅れてしまうし、被害もその分大きくなってしまう。
俺が黒猫強盗団の方に向かえば、その被害を減らす事が出来る……と思いたい。
……わずかに嫌な予感を覚えながらも、俺はその考えを振り切って銀行へとバイクを走らせた。
現場に到着した俺は、バイクを片付けるとすぐさま走り出す。
丁度銀行から出てきた黒猫強盗団の姿を見据えると、地面を蹴って飛び上がる。
狙うは、アンチファイヤー。
速攻でケリをつけるべく、炎を纏わせた跳び蹴りによる奇襲攻撃をお見舞いしてやろうとする。
……纏わせた炎は自動で噴射された消火剤によって消し飛ばされるが、蹴りの威力まで抑える事はできない。
不意を突かれたアンチファイヤーは吹き飛びこそしないものの、その場に倒れこむ。
「出たな、ブレイズライダー! 撃て!」
周囲の強盗団員がエナジーピストルを発砲。
俺は次々に迫る光弾を全て躱しつつ、強盗団員へと近づいていく。
「そんなにいて一発も当てる事が出来ないなんて、ちょっとノーコンすぎない? もっと練習しておけよ!」
適当な強盗団員の懐へと潜りこみ拳の連打で殴り倒すと、意識を失い崩れ落ちる強盗団員を一瞥し、そのまま背後に回し蹴りを放つ。
後ろから俺の事を不意打ちしようとしていた強盗団員の腹部に俺の足がめりこみ、勢いよく吹き飛んでいった。
「この野郎! よくもやりやがったな!」
起き上がったアンチファイヤーはそう叫ぶと、肩からぶら下げたガトリングガンを構えて俺に向ける。
……この数日間、ただ漠然と黒猫強盗団が暴れ出すのを待っていた訳ではない。
何とかしてアンチファイヤーの攻略方法を考えていたが、今までの俺の攻撃では有効打にならないと結論つけざるをえなかった。
……そう、今までの俺の攻撃は通用しない。
俺は新たに両腿に巻き付けたホルスターからバトンを引き抜き、両手に持って駆け抜ける。
大地を蹴って宙を舞い、放たれた光弾を躱してアンチファイヤーへと肉薄する。
「結構痛いぞ! 覚悟しろ!」
俺はそう叫ぶと、バトンをアンチファイヤーに押し付け、スタン機能をオンにする。
……そう、今までの攻撃が通用しないのならば、新しい攻撃方法を用意すればいい。
奴との前回の戦いで唯一通用したのが、スタンバトンによる麻痺。
今俺が使っている物は黒猫強盗団が運用している物とは違い市販品で出力が低くなっているが、それでも制圧するには充分だ。
アンチファイヤーは声にならない悲鳴を上げて苦しみ始め、地面に膝をつく。
「こ、こいつ!」
倒れるアンチファイヤーの姿を見て一人の強盗団員が殴りかかってくるが、もう片方のバトンを振り回して迎撃し気絶させる。
「ぐ……。こ、このスーツを! な、嘗めるなよ! ウオォォォォォォ!」
アンチファイヤーは咆哮と共に、自身に押し付けられているスタンバトンを掴む。
「お、おい! 何を――!?」
突然の事に困惑する俺の目の前で、アンチファイヤーの掴んだスタンバトンが砕け散った。
「……は、はぁ!? 何しやがる! 結構高かったんだぞ!」
「うるせえ! そんな事俺が知るか!」
思わず狼狽する俺に向けてそう言い放つと、アンチファイヤーは腕を大きく動かし、俺を振り払う。
……参ったな、まさかスタンバトンが壊されるとは。
スタンバトンはもう一本残っているが、今の様子では壊されるだけだ。
俺はホルスターにスタンバトンを収めると、距離をとってアンチファイヤーと睨み合う。
「どうした! まさか今ので終わりって言うんじゃねえだろうな!」
……正直な話、俺が思いついたアンチファイヤーに勝てる手段の中で、現実的なのはスタンバトンで痺れさせて体力を削りきるくらいしかない。
確かに対策を考えはしたが、有効な手立てを思い付くかはまた別の話。
現実的じゃない手段のうち、いつぞやにヴァッサ相手に使った自爆特攻は正直使いたくない……いや、使うべきではない。
ただでさえスーツがボロボロになっているのに大規模な爆発なんてしたら、スーツ自体が使い物にならなくなってしまう。
仕方ないので、もう一つの現実的ではない手段をとらせてもらおうか。
「終わり? そんな訳あるかよ! いい加減その暑苦しい装甲服を脱いじまえ!」
炎を放ち、アンチファイヤーの周囲を取り囲むが、当然の様に奴の装甲服から消火剤が噴き出し、俺の炎を消火する。
「無駄なんだよ! お前の炎は俺に通じねえ!」
……吼えるアンチファイヤーを無視し、黙って炎を放ち続ける。
「こいつ、人の話を聞きやがれ!」
相手をしない俺に苛立ったアンチファイヤーが、ガトリングガンから光弾の雨を乱れ撃つ。
迫る光弾を火球で相殺して被弾を防ぐと、アンチファイヤーに放つ炎の勢いを更に強くする。
「……アンチファイヤー、根競べだ。 さっさと全部吐き出しちまえ!」
最後の手段、それはアンチファイヤーの消火剤が空になるまで炎を放ち続ける事。
俺の火が消されてしまうというのなら、消される原因を失くしてしまえばいいという単純明快な作戦だ。
……しかし、超能力も無尽蔵に使えるという訳ではない。
超能力は使えば使うほどに精神力を磨り減らす為、本当は今みたいに考えなしに炎を放つのは避けるべきだが、今できる事が他に無い以上仕方ない。
……奴の消火剤が空になって暑さに耐えきれず装甲服を脱ぐのが先か、俺が超能力を使えなくなるのが先かの勝負という訳だ。
……炎を放ち続けていた俺は、一瞬だけ眩暈がして片膝を地面についてしまうが、倒れこむのだけはなんとか堪える。
「ぐっ……まだだ!」
諦めてしまわないように自身を鼓舞し、今日ここでアンチファイヤーを倒すべく火力を更に高めていく。
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