3話‐5
「ちょこまかと逃げやがって! 今度こそ仕留めてやる!」
アンチファイヤーが苛立ちを隠さずに叫ぶと、俺は目眩ましに炎を放って駆け出し跳躍する。
「また隠れるつもりか!」
炎に視界を塞がれている所為か、俺がまだこそこそ隠れていると勘違いしたアンチファイヤーは、地上でガトリングガンを乱れ撃つ。
真下を通り過ぎる光弾を一瞥しながら炎を飛び越え、バトンを持った両手を掲げて靴裏からのジェット噴射でさらに高く跳びあがる。
「どこを見てるんだ!」
俺はバトンを放電させると、アンチファイヤー目掛けて振り下ろす。
バトンがアンチファイヤーに触れると同時に、奴は声にならない悲鳴をあげて両膝を地面につく。
……いける、いけるぞ!
このままバトンを当て続けて無力化してやる!
そう思いさらに強くバトンを押し付けた瞬間、パンッという乾いた音がしてバトンから黒煙が立ち昇る。
ま、まさか壊れたのか!? この最悪のタイミングで!?
「く……よ、よくもやってくれたな!」
アンチファイヤーが大きく腕を振りかぶる。
突然の事に呆気にとられた俺は完全に不意を突かれてしまい、振り下ろされた腕によって地面に叩きつけられてしまう。
「ぐっ……」
こ、これくらいで終わる訳にはいかない。
呻きながらもヨロヨロと、傍から見れば頼りなく見えてしまうだろうが、それでも立ち上がろうとする俺の目が捉えたのは勢いよく迫るアンチファイヤーの脚。
「がっ……」
避ける事はおろか、受け止める事すらできずに俺の腹につま先が突き刺さり、勢いよく吹き飛ばされてしまう、
「まだだ。俺が味わった恐怖はこんなもんじゃねえぞ!」
地面を数回程バウンドして天を仰ぐ俺にアンチファイヤーが語り掛けてくるが、正直今はそれどころではない。
少し攻撃を貰いすぎたのか身体中痛いし、意識も朦朧としてきた。
……しっかりしろ、俺!
意識が闇に沈みそうになるのを気合で堪え、立ち上がる。
「ほう、流石はヒーローと言ったところか。まだ立ち上がるんだな」
「……お前とは体の出来も、精神力も段違いなんだよ」
本当は今にも倒れそうだが、弱みを見せればアンチファイヤーを調子づかせるだけ。
ヘルメットの下で誰にも見せるでもなくニヤリと笑いながら、虚勢を張る。
とはいえ、奴にダメージを与える為の打開策が無い以上どうしたものか。
「そう言う割に、随分と苦戦しているじゃないか」
どうやってアンチファイヤーを倒すか考えていると少年の声が聞こえ、辺り一面に白い冷気が立ち込める。
吉と出るか凶と出るかわからないが、来やがったか。
「遅かったな! アイスエンフォーサー!」
アンチファイヤーがその名を呼ぶと、エンフォーサーが俺とアンチファイヤーの間に降り立つ。
「……アイスエンフォーサー?」
フードに隠れている所為でその表情を知る事はできないが、不思議そうな声色でエンフォーサーが呟く。
「お前の事だ。ネットやテレビでお前の事をそう呼んでるんだよ」
「……ふーん、そういう事か」
エンフォーサーは納得したような様子で、しかし興味無さそうにそう言うと、アンチファイヤーへと近づいていく。
「おい、どうする気だ」
「どうするって、そんなの今更聞くのか? この犯罪者達……いや、社会のゴミどもを僕の手で裁いてやる!」
「……こいつらが社会的にアレなのは事実だし否定しないけど、裁くのはしかるべき手続きをだな――ま、待て!」
エンフォーサーは当然の如く俺の制止を聞き入れず、アンチファイヤー目掛けて駆け出す。
「お前、誰の許可を得て俺達を裁くつもりだ!」
アンチファイヤーはガトリングガンを構えると、俺には薄々答えがわかっている質問をエンフォーサーへ投げかける。
「君達を裁くのに、誰かの許可がいると思っているのか!」
……予想していた通りの答えだ。
エンフォーサーは律義に返事をしながら、生み出した氷の籠手を両手に装備しアンチファイヤーへと殴り掛かる。
「……だったら、俺達がお前を裁くのにも許可なんていらない訳だよなあ!」
それはそう……いや、そうじゃないだろ。
一瞬納得してしまいそうになるが、すぐさまどちらにも相手を裁く権利など無いと思いなおす。
兎に角、アンチファイヤーのガトリングガンがエンフォーサーへと火を噴いた。
「そんなの、当たる訳無いだろ!」
エンフォーサーは自らの足元に氷の道を作り出し、その上を滑る様に移動して迫る光弾を躱していく。
……いや、あれは実際に滑っているな。
よく見ればエンフォーサーの履いているシューズ裏からブレードが飛び出している。
アイススケートの要領で素早く動いているのだろう。
一度とりついてしまえば動きの遅いアンチファイヤーでは、エンフォーサー相手に為すすべなく一方的に攻撃を加えられる。
……少し悔しいが、エンフォーサーに助けられたという事になる。
まあ、終わりよければ全てよし――!
「エンフォーサー! 後ろだ!」
視界の隅で周囲の強盗団員がエンフォーサーの背に銃を向けている事に気付いた俺は、銃撃を防ぐために炎を放ちながらエンフォーサーへと声をかける。
しかし、俺の放った炎はアンチファイヤーによってすぐさま鎮火され、おまけに突然噴射された消火剤に驚いたエンフォーサーが姿勢を崩してしまう。
「おい! 大丈夫だった――」
「邪魔をするなと言っただろう!」
……確かに足を引っ張ったかもしれないが、あのままだとエンフォーサーが光弾に撃ち抜かれていたし、多少怒ったとしても怒鳴る事はないだろうと思う。
しかし、それを口に出すと面倒臭い事になるのが目に見えているから何とか堪える。
今はそんな事より、もっと大事な話をしなくては。
「悪かったよ、エンフォーサー。それより、一つ提案がある。お前が俺……いや、ヒーローの事が気に入らないのは知ってるけど、ここは俺と協力して奴等を倒してくれ。利害は一致している筈だ」
俺の言葉を聞いたエンフォーサーの表情はフードに隠れていて相変わらずわからないが、多分だが呆気にとられている様な気がした。
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