3話‐3
「お前達、あのクソッたれヒーロー共が現れるまで思い切り暴れろ! 」
ひときわ目立つ、身の丈二メートルはあるであろう装甲服を身に纏った強盗団員が他の奴等に号令を出すと、周囲の団員達が持っていた銃を発砲し始める。
どうやら威嚇射撃のつもりらしく、見た所周囲の人に当たらないように撃っているようだ。
……それでも人々はパニックに陥り、我先にと一目散に逃げだしていく。
装甲服を着ている奴の言葉から察するに、奴等の狙いは恐らく俺かエンフォーサー……或いはその両方。
今すぐにでも着替えて奴等を止めなければいけないところだが、美和さんにどう言い訳して――!
「危ない!」
何が起きているのか理解できずに呆然と立ち尽くしている美和さんの腕を掴んで俺の方に引き寄せた瞬間、直前まで彼女が立っていた場所を強盗団の放った流れ弾が通過する。
……気付くのが一瞬でも遅れていたら危なかった。
「……あ、ありがとです」
「二郎、すぐにここから離れるぞ」
俺の言葉に二郎が頷いたのを確認すると、安全な場所を目指して美和さんの手を引きながら駆け出す。
……早く奴等を止めないといけないが、二郎と美和さんを安全な場所まで送るのが先か。
焦りを覚えながらも逃走を続けていると、目の前に広場から逃げ出す人だかりを発見する。
……よし。
俺は二郎にアイコンタクトを送ると、俺の意図を察したのか二郎は先程と同じように頷く。
……本当に俺の考えている事がわかっているんだろうな?
少しだけ不安になるが、今は二郎の事を信じる他ない。
美和さんの手を引きながら人だかりに紛れ込むと同時に、美和さんの反対の手を二郎が掴むのを確認する。
俺はそのまま美和さんの手を放すとこっそり人だかりから離れ、人気の無い建物の影を目指して走り出す。
……どうやら人混みに紛れて離脱するという俺の意図を二郎は理解してくれたようだ。
物陰で呼吸を整えると、ポケットから圧縮装置の付いたケースを取り出して元のサイズに戻し、中からヘルメットとスーツを引っ張り出して身に纏う。
……さて、奴等のリクエストに応えてやろうじゃないか。
俺は広場の近くへ戻ると、隠れて様子を伺う。
すぐに奴等を止めたい所だが、迂闊に飛び出る訳にも――
「誰か! 動けない人がいる! 手伝ってくれ!」
突如として響いた声に思考を中断されてしまう。
声のした方へ視線を向けると、先程占いの館にいた少女が倒れている老婆の近くで助けを求めていた。
……動けない人を助けようとするのは感心するが、今叫ぶのは不味い。
「まだ逃げてない奴がいたか!」
案の定、強盗団に目をつけられてしまう。
どうやら、四の五の言ってる場合じゃなさそうだ。
すぐさま地面を蹴って駆け出すと同時に、強盗団の一人が少女と老婆に銃口を向ける。
……走るだけじゃ間に合わない。
俺は銃を目掛けて炎を放ち、爆発を起こして吹き飛ばす。
「うわっ!? で、出やがったな!」
「……ブレイズライダー」
強盗団の一人が叫び、少女がヒーローとしての俺の名を呟く。
俺は少女と老婆を庇うように、二人に背を向けて強盗団と相対する。
「おい、あんた達、早く逃げろ……と、言いたいけど無理そうだな。そこから離れるなよ」
早く逃げるように急かしながら二人の様子を伺うが、老婆は足を挫いたらしく歩けそうにも無い。
そして少女はといえば小柄すぎて、老婆を支えて歩くのは難しそうだ。
彼女達が逃げる時間を稼ごうと思ったのだが、作戦変更。
多勢に無勢だが、俺が盾になる。
この作戦における問題は一つ、俺が奴等全員を捌ききれるかどうかだが、やるしかないんだ。
「飛んで火にいる夏の虫とはまさにこの事! お前たち、ブレイズライダーを始末しろ!」
装甲服を着た強盗団員の号令と同時に、他の団員達が襲い掛かってくる。
……近くに逃げ遅れた人がいる以上、あまり派手に火を放つことはできない。
一番乗りした団員が振りかぶった棒……先端から放電しているスタンバトンを躱し、懐に潜り込んで拳を叩きこんで殴り飛ばす。
一人撃退した所で次の相手はまだまだいる。
団員の一人がスタンバトンを突き出すように構えて突撃してくる。
突撃を躱してしまうのは簡単だが、背後の二人を巻き込んでしまう恐れがある。
放電部に触れないようにスタンバトンの柄を掴んで無理やりに突進を防ぐと、カウンターに膝蹴りをお見舞いしてノックアウトする。
更に、掴んだスタンバトンを団員の手から引き抜くと、近くにいる別の団員目掛けて投げ飛ばす。
咄嗟に反応できずに頭にバトンがぶつかってしまった団員は、そのまま地面へ崩れ落ちる。
その後も襲い掛かる団員を返り討ちにしていくが、周囲にはまだまだ沢山の団員が残っている。
今は何とかなっているが、このまま調子で襲い掛かってこられるとジリ貧だ。
「二人とも! その婆さんを背負うの手伝ってくれ!」
背後から聞こえてきた聞き覚えのある声に振り向くと、俺は思わず頭を抱えそうになる。
いつの間にか、そして何故かこの場に戻ってきていた二郎が、老婆を背負う為に美和さんと少女に声をかけていた。
「お、おい! 危ないから--!!」
「余所見してていいのか!」
二郎達に声をかけようとした瞬間に聞こえてきた機械音に気付いて正面に視線を戻すと、ガトリングガンを構えた装甲服の団員が目に入る。
避ける? いや、無理!
視線を外していた所為で反応が遅れてしまい、避けるには時間が足りない。
そもそも、俺が避けてしまえば銃弾の雨を二郎達が浴びてしまう!
俺は咄嗟に炎を壁を目の前に噴き上がらせると、背後の二郎たちを庇う為に両腕を前方に突き出して交差させ、腰を落とす。
乾いた音が連続で響き渡ると同時に、ガトリングガンから放たれた光弾が炎の壁へと吸い込まれる。
どの位の光弾を防ぐことができたかはわからない。
わかるのは、その全てを防ぐことは叶わなかったという事だけ。
俺はその身に光弾を浴びてしまうが、一歩も引かず、膝をつかないように歯を喰いしばって気合で踏ん張る。
……弾幕が止んだ後、全身を襲う激しい痛みに片膝を地面に着いてしまう。
「シ……ブ、ブレイズライダー! 大丈夫か!」
二郎が一瞬だけ間を置いてから、俺のヒーローとしての名を叫ぶ。
……二郎の奴、さては俺の本名を呼びそうになったな。
「おい、危ないからさっさと逃げろ。怪我するぞ」
「で、でも、友達とはぐれてしまったです! さっきから連絡もつかないですし、戦闘に巻き込まれたかもしれないです!」
……多分美和さんは俺がいなくなったことに気付いて二郎に連絡をとってもらったけど、既にスーツに着替えた俺は気が付けなかった。
それで美和さんは俺を探す為に引き返し、二郎もその後を追いかけてきたという訳か。
「そこの少年と同じ制服を着た子を、少し離れた場所で見かけて逃げるように言っておいた。君の友達はきっと大丈夫だ。……だから、早く逃げろ」
痛みを堪えて立ち上がり、後ろにいる友人達……特に、最後の言葉は二郎に向けて投げかける。
「……わ、わかった! 早く逃げよう!」
邪魔だからさっさと逃げろという俺の意図を察したのか定かではないが、老婆を背負った二郎は急いで駆け出し、二人の少女もその後を追う。
「逃がすと思って――」
「おっと、お前達の相手は俺だ」
逃げる二郎達に団員たちが向けた銃口へと火を放ち、射線を遮りながら飛び掛かる。
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