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World Wide Word 銃の章  作者: 江草医草
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銃の章Ⅰ-6

「これは…」

シンヤが学園にたどり着くまでに光は見られなくなっていたが、その学園はひどい有様になっていた。

通い詰めていた学び舎は崩れ落ち、窓枠なども砕け散っている。

中庭の花壇など見る影もなく、噴水から水が漏れだしていた。

幸いまだ授業の時間には早い朝である、破壊された学び舎には誰の姿も見当たらない。

しかし、中庭には怪我をした教師が数名転がっている、遠巻きに見てもわかる血の色が軽いけがではないことを物語っていた。

明らかに、悪意を持って蹂躙したと一目でわかる、その悪意の主もまた明らかであった。

中庭に佇む二人の人影。

一人は、左足が異様な光沢を放つ「義足」の小柄な男。

もう一人は、異様に大柄な左手が機械じみた「義手」の男。

「やっぱり…!」

朝出会った旅人二人、ただならぬ雰囲気であったその二人は、今目の前で明らかに異常な姿であった。

「ン~?君、さっきここの前にいたヒト、だよねぇ?なんだ、関係者だったの?」

軽い口調で話す小柄な男の、先ほどは杖でしかなかった部分が、見たこともない金属でできた『義足』になっていた。その義足は足先の指が殺傷力を持たせるためと思われる刃になっており、そこに付いている血が殺意を語っている。足首の上に見たことのない形状の三枚羽がついていて、そこに風の魔素が集中しているのがわかる。

「おい、余計な人間に構うな…。ここをつぶせば『杖』も出てくるだろう」

気だるそうに『義手』を振って血を払う男は、先ほどは外套で隠れてみえなかったその左手がやはり同じ金属でできた義手であったようだ。その義手も指先は鋭利ではあるのだが、むしろその指の間が不思議な構造である。何かを挟むような、隙間が空いていてそこに雷の魔素をためているようである。先ほどの紫の雷光はこちらの男が放った魔導か何からしい。

「先生たち…お前たちが、やったのか。」

教師たちも抵抗しようとしたらしい、魔術式を展開しようとした痕跡がある。しかしこの男たちには通用しなかっただろうことはわかる。あくまで生活の技術としての魔術に精通した教師では、戦闘のために魔素を使うことに慣れていそうなこの男たちに適うはずもないだろう。


なら、魔導にたけた自分なら?魔獣とも戦闘した経験はある、魔導なら自信がある。

「関係者じゃ、もうないけど。それに、お前たちが、何のためにこんなことをしているのか知らないけど…。俺もここでお世話になった一人なんだ。好き勝手されて…黙っていられるかよ!」

そう言い張って、シンヤも魔導圧を高める。自分の周りに風の魔素を集め、移動する速度を上げる。それは同時に、飛んでくるかもしれない攻撃を自分から外す起動へ移動して逸らすこともできる。そして、炎の魔素を纏って二人の敵に突っ込む。その熱量でもって一発殴りつけてやれば、攻撃としてはそれなりの威力にー


「オ、ソ、ス、ギ。」


飛びかかったはずのシンヤは、瞬間横っ飛びに飛ばされて建物の壁に打ち付けられる。

「ー…がっ。ぐ、ぐぅ…」

何をされた?わからない…。…いや、なんとなくはわかる。おそらく「風の現象で横に飛ばされた」んだ…。そうとしか思えない、移動の現象が起きただけのはずだ。

でも、そんな素ぶりも風の魔導圧も感じなかったし、何かの魔術式を展開したようにも見えなかった…。

何が、どうやったら、そんなことができるんだ…?今、こいつらは、何をしたんだ…?


激痛と衝撃に答えも纏まらない、男のしたことがまったく理解できずシンヤは倒れこむ。

「なんダ、こいつらよりマシかと思ったのに、サ。戦うことを知らないような人間ばっかりで嫌になっちゃうヨ。」


魔導なら先生たちにだって負けない腕のつもりだった。実際、魔導圧だけなら負けていなかった。

だから、俺がこいつらのしたことがわからないのは、そういうこと、だ。

強いのだ。こいつらは、圧倒的に、強い。何をされたかわからないほどに、力の差が、ある。

当たり前か、この街から出たことない自分じゃ、強いわけもなかった。

世界は、広い、それをこれから、見て回るはずだった、のに。


「余計なことをするな、戦うのは『杖』だけでいい。」

「暇つぶしぐらいいいだロ?マ…こんだけいろいろある街だからもっと面白いやつがいるかと思ったのにサ。つまんないノ。」

「遊んでないで、とっととここをつぶすぞ。『杖』は敷地のどこかにいる。仮にいなくても餌にはなるだろう。」


なんだ、こいつら、何の話をしてるんだ…?

『杖』…?そいつのせいで、先生たちは、殺されたっていうのか…?


「『杖』がここにいるっての本当なのかナァ…?この街、確かに歴史はあるみたいだけどサ。」

「いないならそれまでだ。この街に『根源』がある可能性が潰せる、それで十分だ」

「こんだけやって何の反応もないんだけど…ここが関係なかったらどうする?」


なんだ…?『根源』…?何が何やら、わからないが…。

こいつらは、自分たちの目的のために、先生たちの、自由を、命を、奪った、ってことか…?


「その時は街全体をつぶすだけだ。」

「それは流石に面倒じゃないノ?いつも面倒くさがるくせに」

「後で仕事が増えるぐらいなら片づけてしまったほうがまだましだ。」


街にまで、手を出す気かよ、そんなの、そんなの、それは…

「ゆる、せない、よな」

「ン…おや、意外と丈夫だ、ネェ」

「おい、手を抜くな。一撃で、確実に。面倒だろうが」

「そんなつもりはなかったけどネェ。」

自分ではこいつらに勝てない。それは痛感した。

でも、街の人たちにまで手を出させるわけにはいかない…。

カナンや親父さんたちにも、恩があるんだ。

街のほうは、カナン、おまえに頼むぜ。ああ、そういえば。もらった機械、試してあげられないな。

旅に出て、あの人を見つけるまで、死ねないつもりだったけれど。

今、こんなにしやがったこいつらを野放しにしていけるわけにはいかない。

だから、俺にできること。魔導。それで、できることをするしかない。

こいつらに、俺の大切な物を、『自由』にさせるわけには、いかない!


その瞬間。自分の中で跳ね上がる魔導圧を感じたシンヤ。

な、なんだ…?

「ン?おい、コイツ!」

「ああ、驚いた。予想外の収穫だ。仕事が余分に片付く」

「いや、そんなこと言ってる場合じゃない、ゾ!」

跳ね上がり続ける魔導圧。自分の中から湧き上がる圧。

これはなんだ、何がおきているんだ?

でも、この力を使えばこいつらを倒せるかもしれない、こいつらの自由を許してはいけない!


「絶対に、お前らの自由になんか、させない!」

この力をそのままぶつけてやればー


シンヤの中から湧き上がる魔素が、シンヤの意図した魔導圧を振り切って膨れ上がる。

そして、その先はシンヤ自身も自覚する間もなかった。


あふれ出る魔素の奔流が、周りの建物を、人々の遺体を、街並みをすべて吹き飛ばしながら飲み込んでいく。一瞬。そう言わざるを得ない、わずかな時間で、学園が、街並みが、そのすべてが、消し飛んだのであった。


後の世に「根源爆発」と呼ばれる災害である。

しかし、シンヤがこの名を知るのは、まだ先のことであった。

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