第四話
少し短めです。
「狩人だ。」
そう答える声は、ひたすらに続く闇に浮かぶ満月のように澄んでいて冷たい。
「狩、人……?」
「ああ。」
狩人と名乗った男は、それだけ言うと座り込んだままのレティシアをそのままに、二つの肉塊が転がる家の中へと臆する事無く入る。
しかし、猟銃を構え、警戒する姿勢は崩さない。狩人は、転がる死体と室内の荒れ具合を見て、何かを察したようだった。
狩人は、ぼんやりとしたままのレティシアの元に戻り、声をかける。
「おい、お前。」
「……はい…?」
「お前はどうして生きている。」
その言葉にレティシアはビクリ、と身を竦ませた。そんなのこっちが聞きたい。何故、自分だけが生き残ってしまったのか。何故、父と母が死ななくてはいけなかったのか。何故、母は自分も一緒に死なせてくれなかったのか。
「…え、あ……、わた、しは……、」
「……?」
「私、は……。」
「……言いたくないなら良い。」
抑揚が少なく冷たい声は、淡々としていて感情を読み取りづらい。表情も暗くて良く見えず、目の前の男が何を思っているのかをレティシアは少しも理解できなかった。
それでも、やはり怖くはない。むしろ、この狩人と名乗る男は信用出来ると感じてしまう。何故だかは全く分からないが、この男は自分を害さないと感じるのだ。
「……おか、あさんが…」
「ん?」
「お母さんが、時計の中に……隠してくれ、たんです……、私、お母さんが、ころ…、殺されるの、見てるしか出来なくって……っ、私も、私なんかっ……!」
「……。」
「お、父さんも、きっと、扉のとこで……、私とお母さんを……守ろう、としてくれ、たんです…でも、ドンッ、って……っ!ドンドン、っていっぱい音が、して……!お父さん、苦しそうだった……、きっとアレ、にいっぱいいっぱい殴られ…て……っ!」
堰き止めていたはずの言葉は、一度流れ出すと、まるで水の流れのように溢れ続けて止まらない。
必死に言葉を紡いでいくレティシア。そんなレティシアの様子を狩人は黙ったまま見下ろしている。
「もう、私も……死んじゃいたい……!」
ぼろぼろと涙を零しながらレティシアは狩人を見上げて懇願するようにそう言った。
父も母も、もうどこにもいないのだ。あの訳の分からない生き物に嬲られ、弄ばれて、殺されてしまったのだ。どうして、自分だけ生きているのだろう。いっその事、父と母と一緒に殺された方が幸せだったかもしれない。
「それは、ダメだ。」
「……え?」
しばらく黙ってレティシアを見下ろしていた狩人は、静かな声でそう言うと、しゃがんでレティシアと目線を合わせた。
「お前の両親は、お前を守ったんだ。だからお前は死んではいけない。」
「……。」
レティシアは涙の膜が張ったままの瞳を大きく見開いて、狩人の言葉を聞く。
(私は、死んじゃ、ダメ……?)
その言葉に、レティシアは今までとは違う涙が溢れてきそうになるのを感じた。父と母を突然失い、一人だけ助かってしまったこんな自分にも、死んだらいけないと言ってくれるのか。
レティシアの揺れる心を知ってか知らずか、狩人は、もう一度ゆっくりと言葉を繰り返した。
「お前は、死んだらダメなんだ。」
レティシアの瞳に一気に熱い水が押し寄せてくる。狩人のその言葉は、絶望の奥底に横たわるレティシアにとって、まるで母の子守唄のように何よりも安心出来る言葉だったのだ。
深い深い闇の中では、その光はちっぽけなものだ。それでも微かに、確かに、その光はレティシアの希望をほんのりと照らした。
(私は……もしかしたら、まだもう少しだけ……生きていても許されるのかもしれない……)
そう思うと、涙が溢れて溢れて止まらなくなってしまう。
両親を亡くし、その無惨な遺体の有様を見た絶望の涙。得体の知れない何かに殺されるのかもしれなかった恐怖の涙。何故自分だけ生き残ってしまったのかという怒りの涙。そして、自分は死んではいけないと言ってくれた言葉へのほんの少しの安堵の涙。
いつまでも泣き続けるレティシアに狩人は、干からびるぞ、と小さな声で呟いた。
狩人さんはめっちゃ口下手。