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魔王、絶大な力を封印し平凡な幸福を探す  作者: 倉持コウスケ
第一章
9/17

第九話


 魔王は翌日から、古びた自転車でショッピングモールに通うことになった。たこ焼き屋は二階のフードコートの隅ある。


 魔王は、従業員専用の駐輪場に自転車をとめ深呼吸した。スマートフォンを出しセーナに電話する。


「もしもし? セーナ? いまバイト先に着いたよ。やばい、超緊張する」


「大丈夫です。きつい人がいるかもしれません。ですがどこにいっても、きつい人っていますから」


「脅かすなよ。怖くなってきたじゃないか」


「魔王様なら大丈夫です」


「俺、魔法を使わない仕事、ほとんどしたことないじゃん? だから怖くて。成長したいよ。でもなあ」


「魔王様、立派です。自分には足りないものがあると思ったわけでしょう。そのために一歩踏み出そうと決めたわけでしょう。なかなかできることじゃないですよ」


「そうかな」


「そうですよ! 頑張ってください!」


「ああー、でもなあ」


「時間は大丈夫ですか?」


「平気。念のため、バイトの始まる一時間前に来たんだから」


「早すぎません?」


「でも初日から遅刻したらあれじゃん?」


「電車なら遅延も考えられますが、自転車でしょう」


「でも不安でさ」


「では、私が魔王様の不安を解消するため、いろいろしゃべりますよ。そうだ! 配下を呼んだらどうですか? 直前までそばにいてくれたら心強いでしょう」


「ルシファーとか? あいつがそばにいても、全然心強くないな。うるさいだけだ」


「なんかルシファー、最近ホント気の毒ですね」


「そう? あいつってなんか、バカじゃない? 言うことがあほっぽいんだよね」


「一応配下じゃないですか。そこまで言ったらかわいそうですよ」


「ルシファー、悪い奴じゃないよ。でも言うことがあほで、なあんか、暑苦しいんだよなあ。いいよ。ルシファーを呼んでも、不安が増すだけだから」


7/14

 魔王はショッピングモール二階を、こわばった顔で歩いている。フードコートの前に到着すると、緊張の面持ちで立ち止まった。


「ここが、今日から俺の職場か」


 魔王は唾をのみ、深呼吸。

 足を踏み出した。


 ハンバーガー屋の隣にあるたこ焼き屋のまえで、「あの、今日からアルバイトすることになっている魔王ですが」と言った。


「ああ、はい。どうぞ」


「はい!」


 魔王はドキドキしながら返事をして、中に入った。


 そのとき、魔法を使った緊急通信が入った。


「魔王様、ルシファーです。我々の支配する第三世界のテロリスト集団ホムラが動き出しました」


「ごめん、ルシファー。これから、たこ焼き屋でバイトなんだよ」


「魔王様、ふざけている場合ではありません。ホムラの連中は、なんとこの地球の日本にいるんです。この世界の人々は、魔力を基本的に一切持っていません。ですが、ごくまれに、強大な力を持った人間が生まれます」


「ルシファー。バイト初日なんだよ。切っていいかな」


「いやいや、魔王様。大変重要な話なんですよ。ホムラの連中は、その強大な魔力を持った人間に、接触を試みるようです。その人間は、鈴木三郎」


「平凡な名前だな」


「ですがその魔力は、平凡ではありません。ヨントリーという飲料水メーカーに勤めています」


「へえ、ヨントリー。エリートだな。俺、ビールの銀麦とか、クラフト・コブンってコーヒーとか好きだよ。あと、ヨントリーの天然水も好きだなあ。じゃあ、切るよ」


「魔王様! 私たちの支配する世界の危機なんですよ! この鈴木三郎、厄介なことに、大変欲深い男で、ホムラの連中に誘われれば、すぐその手を血に染めるでしょう」


「もう切っていい? ルシファー」


「お待ちください。実は、魔王様、鈴木次郎も、魔力を持っているんです。魔王様が接触した、アッパーマンショップの鈴木次郎ですよ。三郎の兄です。この事態を見越して、接触していたのですね? さすがわが主です」


「ごめん、鈴木次郎って誰?」


「魔王様がアパートを借りるとき行った、不動産屋さんの人ですよ」


「ああー、あの人、魔力持ってたんだ」


「ご謙遜を。すでにお気づきでしょうが、鈴木次郎は、時間を操る能力を持っている可能性が高いです」


「もう切っていいかな。たこ焼き屋の制服に着替えないといけないんだよ」


「時間を操る能力は、現在魔王様とリーム様しか使えません。アッパーマンショップの鈴木次郎が敵の手に渡ったら、大変な脅威となるでしょう。魔王様は、このことを予想して、地球の日本に行ったんですね?」


「ごめん、何言ってるかわからないわ。俺は平凡な生活を送りたいんだよ」


「私はホムラの連中の動きを、今後も探っていきます。では、失礼します」


「うるせえな、ルシファーは。バイト初日なのに連絡してきやがって」

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