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魔王、絶大な力を封印し平凡な幸福を探す  作者: 倉持コウスケ
第一章
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第七話

 魔王とセーナは、食べログ評価3.5の評判のラーメン屋に来た。


「ここつけ麺屋さんなの? 俺、つけ麺ってあんまり好きじゃないんだよなあ。スープがしょっぱいところあるじゃん?」


「普通のラーメンもありますから」


 魔王はセーナに背中を押される形で、店内に入った。


「セーナ。ここって食券を買うスタイルで、クレジットカード使えないじゃん。楽天ポイント貯めてるのになあ」


「いつの間に楽天カード契約したんですか」


「楽天カードだけじゃなくて、ペイペイも使ってるよ。楽天カードはさ、いま申しこめば5000ポイントもらえるってやってたんだよ。すごくない? 5000ポイントだぜ? これ5000円として使えるんだよ。いやあ、いい時期に申し込んだ」


「楽天カードって、いつ申し込んでもポイントもらえませんでしたっけ?」


「マジ? そうなの?」


 魔王とセーナは、カウンター前の黒い丸椅子に座った。


「おい、セーナ、見ろよあいつ。iPhoneでつけ麺の写真を撮ってるぜ? なんでつけ麺の写真撮ってんだ? 待ち受けの壁紙にするのかな」


「食べログとかに感想を書くんじゃないですか?」


「あっ、そういうことなんだ。つか、何で食べログにわざわざ書き込むわけ? 面倒じゃない? そうそう、ウィキペディアってあるじゃん? ウィキペディアに記事書くやつってすごくない? 何が楽しくて、あんなことしてるんだろうね」


「まあ、確かにそうですね」


 魔王とセーナの前に、赤いバンダナをまいた店員がつけ麺を出した。


「ほう。きざみのりが大量に載ってるな。俺、結構きざみのり好きだからありがたいな」


「のりを評価してないで、早く食べましょう」


 魔王はあまり期待してない顔で、つけ麺をスープにつけすすった。考えるような顔で噛み、またスープにつけすする。とまらない。


「結構おいしいですよね? 魔王様」


「モチモチの麺は、芸術品と呼んでもおかしくないほどの完成度の高さ! それにこのスープ! つけ麺のスープはしょっぱくなりがち。でもしょっぱくないのに、コクがあって濃厚! つるつるでモチモチの太め麺を見事に引き立てている!」


「なんか突然しゃべりだしましたね」


「あー、わかったわ。そういうことか。なんか、食べログに書き込む人の気持ちがわかったよ。一人で来たとき、こういう思いをどこに持っていけばいい? 食べログよ。そういうことね?」


「そういう人、どっちかって言ったら少数派だと思いますが」


「ここの欠点をあげるなら、ペイペイやクレジットカードに対応していない点かな。日本って国は、本当に現金好きだよな。俺たちの世界からすれば、これだけ文明が進んでいるのに、全く考えられないよ。あと、店員に覇気がないね。もうちょっとクルーに元気があれば、百点をつけてもよかった!」


「ラーメン評論家にでもなるんですか?」


 魔王は、ファミリーレストランの厨房で、中華鍋でモヤシ炒めを作っている。

 社員の源一が「さっさとしろ!」と厳しく言う。


 魔王は急いで皿に盛り付けようとした。そのとき、中華鍋を落とし、三人前のモヤシ炒めをぶちまけてしまった。


「何やってんだよ、魔王」

 あきれたように言われ、魔王は暗い顔で謝罪した。


「魔王様?」


 2DKで、魔王は憂鬱そうな顔で、ノートパソコンのディスプレイを見ている。


「最近、ミスが多くてなあ。めちゃめちゃ怒られちゃうんだよ」


「気に入らないなら、炎魔法で埼玉を焼け野原にしたらいいじゃないですか」


「そんなことしたって、俺は無能のままじゃないか。俺、平凡な幸福を求めている。でもそういう漠然としたものが目的だとなんだかな。『車買いたい!』とか『おいしいもの食べたい!』みたいな、そういう目的がないんだよね」


「つらいなら、もうやめたらいいでしょう。面倒くさいな」


「すぐやめたら逃げ癖がつくと言ったの誰だよ」


「相性ってものはあるでしょう。合わないんですよ」


 三日後、魔王がバイトの時間にもかかわらず、2DKのリビングでパソコンでWeb漫画を読んでいた。


「バイトの時間では」


「セーナうるさい。もうやめるんだよ」


「やめたんですか? あれ、電話ですよ。スマートフォンの画面に、ん? バイト先の『名店和食』って文字が。やめるって連絡しました?」


「バックレたんだよ。文句あるか」


「バイト辞めるのはいいですが、二週間以上前に、ちゃんと言わないとダメじゃないですか」


「どうせ俺はクズだよ」


「全く魔王様は、ダメな高校生みたいですね。夕食に何が食べたいですか?」


「からあげが食べたい」


「作ってあげますから、すぐ元気出してくださいよ」


 翌日、魔王は2DKで寝っ転がりながら、スマートフォンで死んだ目でゲームをしていた。

 セーナがいらいらしながら入ってくる。


「ちょっと魔王様! いい加減にしてください! いつまでゴロゴロしてるんですか」


「結局魔法しかないんだよ。だからうまくいかないわけだよ。人間力ってもんがないわけよ」


「魔王様! しっかりしてください。まず気分転換どうですか?」


「気分転換? いいよ、別に。もっと具体的な目的がないと、正直、つらいアルバイトを頑張れないよ」


「じゃあ大切な女性を見つければいいじゃないですか。その女性のために働くのであれば、頑張れるんじゃないですか?」


「無理無理。まえ告白したら『おそれおおい』とか『一緒にいると劣等感を感じる』とか、『わかりました。彼氏がいますがあなたにすべてをささげます』って泣かれたりとか、もう全然だよ。俺は無理にとは言ってないんだよ。ああ」


 魔王は憂鬱そうにため息をついた。


「俺は高校生のとき、世界征服の真っただ中だった。同い年の連中は、恋人を作って、遊園地に行ったり、魔法学校で一緒に勉強したり、キャンプに行ったりしていた。だが俺は、時空間魔法を使い、魔族が住む世界を次々に手中に収めた。ああ、気づけば、もう22歳。制服デートしたかった。平凡な青春を、送りたかった」


「魔王様! では、私が、恋人になりますよ。しょうがないですね。魔王様の、平凡な幸せを得る手伝いをしてあげますよ」


「は? なんでセーナなんだよ。セーナを彼女にして、どうするわけ」


「なんですか! その言い方! もういいです!」


「え? 何怒ってるんだよ」

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